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イブさんといっしょ! ~乙女ゲー編~  作者: 岡サレオ
乙女ゲー世界編~『剣聖』桃花編
19/26

憎いビッちくしょう

これまでのあらすじ


『剣聖』不知火桃花はおっぱいがメチャクチャ大きかった。

「峰打ちや、安心しろ」


 伝説の殺し屋と謳われた、狙撃手ジャッカルをいとも容易く、打ち倒してみせた桃花は、剣を鞘におさめる。

 そして、勝ち誇った顔で振り返った。


「どうや? うちの力は。これが、うちが十年で身に着けた剣技や」


 桃花は実にドヤ顔だった。

 彼女はこの十年間、イブに認められるためだけに、剣の腕を磨いたのだ。


 そして、男に比べて身体能力で劣る女でありながら、『剣聖』すなわち、世界一の剣士と呼ばれる地位にまで到達したのだ。

 ちなみに、それは主に不知火桃花の乳の力によるものが大きいが、本人だけはそれに気づいていなかった。

 戦う男は何故か隙だらけで、簡単に倒せてしまうのだが、桃花自身がアホの子だったため、そんなものなのだろうと、何の疑問も持たなかったのだ。

 それはともかくとして、女の中では世界最強の剣士であることには、疑いの余地もない技量の持ち主である。


 桃花としては、イブから「成長したな(ニッコリ)」とか、声をかけてもらいたいところだった。


 桃花の戦いぶりを見ていたイブが、口を開く。

 

「……桃花」


 名前を呼ばれた桃花は、期待に胸が膨らんだ。しかし、乳は既に膨らめるだけ膨らんでいるので、これ以上でかくはならない。

 ところが、桃花の想いに反して、イブの口から出た言葉は、期待したモノではなかった。

 

「桃花、貴様、何が『峰打ちだ。安心しろ』だ。

 真剣は例え峰を向けたとしても、鉄の塊であることには変わりない。

 そんなもので思い切り叩いてみろ。大怪我になるのは必須だ。何が安心しろなんだ」


「えっ!?」


 イブはジャッカルの容体を診ていた七瀬に問う。


「七瀬よ。ジャッカルの様子はどうだ?」


 七瀬は青い顔をして、顔を上げた。


「これは危険だよ、姐さん! 骨折した肋骨が、肺に突き刺さっている!」


「えっ!?」


「これは……、苦しい。出血が肺に溜まり、肺は酸素を取り入れることは出来ない。

 溺れるのと一緒だ。

 いくら敵とはいえ、ここまでの仕打ちは、そうはできない。貴様には慈悲というものがないのか!」


 桃花はイブから、慈悲はないのかと怒られた。

 褒められると思っていたのに、怒られた。

 しかし、相手は殺し合いをしていた敵なのだ。敵をどうしようが、勝者に権限はあるのだ。

 桃花としては、もちろん不満がある。

 それでも、自分が思ってたより、ずっとジャッカルは状況が危険だったので、黙っていた。


 ジャッカルは口から大量の吐血をして、苦しそうにしていた。 

 イブは額に汗をにじませながら、桃花に尋ねる。


「桃花よ。塩は持っているのか?」

「えっ? 塩? いや、もってないけど……」


 その答えに、イブは桃花を問い詰めた。


「なんだと!? どうして持ってない!? この世界では回復アイテムにあたるんだぞ!?」

「えっ? そうなの? うち、この世界がゲームとか言われても、あんまりよくわからないから……」

「なんと、愚かなのだ……」


 桃花はイブから愚かといわれた。

 褒められると思っていたのに、愚かといわれた。

 桃花は文句の一つも言いたかったが、場の雰囲気がそうではなかったので黙り込んだ。

 桃花はアホではあったが、友人関係以外においては最低限の空気が読めた。


 そんな桃花にかまわず、七瀬は深刻そうな顔をする。


「あたいたちは、下っ端戦闘員の治療に持っていた塩を使い果たしてしまった。ジャッカルを治すことはもうできない」

「つまり、このジャッカルを助ける術はもうないのか」


 イブは額に手を当てて、天を仰いだ。

 七瀬はイブに問いかける。


「姐さんは『神の手ゴッドハンド』と呼ばれた名医でもあるんだろ! なんとかできないのかい!?」

「無理だ。私は効率的に肉体を破壊するメカニズムを解明するために、逆説的に医学的知識が必要だったから、それを学んだのだ。

 だから、医療行為に関して、私は通常の名医のレベルを超えてはいない。

 これは通常ならば致命傷だ。血も流し過ぎている。

 そもそも、私の『恋する乙女の熱いまなざし』による解析だと、ジャッカルの血液型はO型。

 しかし、ここにいる私たちには一人もO型はいない。

 血が足らないのだ。この私とて、現代医療の水準よりも上の治療はすることはできない!」

「そ、そんな……。それじゃあ、ジャッカルは……」


 イブは桃花に向き直る。


「桃花よ。貴様が止めを刺さなければならない」

「え!? うちが!?」


「それが、敵へのせめてもの情けだ」

「いやいやいや、止め刺せとか後味悪いやん。なんで、うちがそんなんせなあかんの?」


「なんだと!? 貴様、『殺すKAKUGO』もなしに、敵と戦ったのか!?」

「なんて奴だ!? あたいは信じられないよ!」


「桃花よ。貴様はそんな覚悟もなしに、戦場に来たのか?」

「あたいらは、敵に対しても、最低限苦しまず死ねるようにする! それが、仁義ってもんだ!」


「桃花よ。貴様はその程度の敬意も払えないとは、人としてどうかしているな」

「こいつは畜生だよ、姐さん! 人の皮を被った獣以下の存在さ!」


「なるほど、犬畜生、いや、雌犬畜生ビッチクショウといったところか」

「なんで、うち、ここまで言われなあかんの?」


 イブと七瀬が代わる代わる、桃花を責める。

 桃花はプルプルと震えながら、目に涙を溜めていた。


 そこに、前に出たのは川本美代子だ。


「まぁまぁ、これはひどい傷なのね」


 彼女は懐から、小瓶を取り出した。

 それに、イブと七瀬は驚いて、目を見張る。


「そ、それは!?」


 美代子は優しげに頷く。


「そう、これは食卓塩なのね」

 

 腹ペコヒロインであった美代子にとっては、いつでもどんな場所でも、食べ物を美味しく食べる必要性があった。

 だから、食卓塩の常備は必須。

 淑女が常にハンカチを持つように、食卓塩は腹ペコヒロインのたしなみなのだ。


 母なる海から作り出された塩は生命の源であり、海を臨むサンタナ市の特産物だ。

 大抵の怪我なら、塩をかければ治ってしまう。

 この『情熱のサンターナ』においては、塩は回復アイテムに当たるのだ。

 塩をかければ、肋骨が折れて肺に突き刺さっても大丈夫!


 美代子はジャッカルの口を開けると、食卓塩(メキシコ産)を注ぎこむ。

 

 ジャッカルは苦しんでいた顔が少しだけ安らぎ、吐血が止まった。

 土気色になっていた顔色が、だんだんとよくなっていく。

 そして、すこしずつだが、呼吸が回復したのだ。


 美代子は額の汗を拭った。


「ふぅ、危なかったのね。食卓塩がなければ、ジャッカルは死んでいたのね」

「でかしたぞ! 美代子!」

「お安い御用なのね!」

「おっ!? ジャッカルが意識を取り戻したみたいだよ! 姐さん!」

「す、済まねえ。助けてくれて……」

「何、助けたのはここにいる美代子だ。感謝なら、彼女にするがいい」

「ありがとよ、こんな俺みたいな奴を助けてくれて……」

「気にすることないのね!」


 ピロリロリンという音が聞こえた。

 どうやら、美代子の女子力があがったらしい。


≪川本美代子≫

≪女子力≫:『10000』

≪属性≫:『腹ペコぽっちゃりさん(90キロ)』

≪恋人≫:『ジャッカル』



【さすが、密輸組織のボスにして、伝説の殺し屋! 攻略キャラ並のすごい獲得女子力ビッチ!】

「ふむ、美代子よ。貴様はようやく美しい乙女のへ第一歩を踏み出したようだな」

「さすがは美代子だよ! あたいは鼻が高いよ」

「えへへ」


 二人に褒められて、顔が赤くなる美代子だったが、それを見ながら歯ぎしりしているのは不知火桃花だ。

 

「イブ! うちも頑張ったんやから褒めてえな!」

「どうして、私が貴様を褒めなければならんのだ?」

「そら銃を持った殺し屋をばばーっとやっつけたんやから、認めてくれてもええんちゃうの?」

「桃花よ、だから貴様はダメなのだ」

「えっ!?」

「貴様は所詮はビッチクショウなのだ。無駄に乳ばかりが大きいだけで、心も身体も醜い……」

「み、醜い!?」


 イブの酷評に、再び半泣きになる桃花。

 その様子を見て、七瀬は美代子にひそやかに話しかける。


「姐さんの桃花に対する評価がやけに辛辣だよね?」

「それは多分、桃花さんのでかい乳に対して、思う所があるんじゃないのね?」

「ああ、姐さんも人の子なんだねぇ」

「直前に、アダムくんに乳が硬いといわれたことも無意識下に影響があると思うのね!」

「なるほど、タイミングも悪かったねぇ」


 しかし、ねちねちと小言をいわれていた桃花がついにキレる。


「さっきから、なんなんや! うちのこと醜いとか愚かとか、好き放題いいおってからに!

 もう、イブのことなんか嫌いや!」


「私は最初から貴様のことなど、好きでも嫌いでもなかったぞ」


「なっ!?」


 つまり、眼中になかったということだ。

 桃花は震えながら、刀を抜いた。

 

「イブよ。うちとお前は敵同士や。だけど、何とか説得して、うちらの側に引き入れようと考えとったが、もうそれはなしや。やはり、お前は敵や」


「桃花よ。貴様こそわかっているのか。初雪楓恋に力を与えている悪魔の本当の目的を。奴の目的はこのサンタナ市の住民の魂だ」


「嘘つけ! そんなわけあるか! 楓恋さんはとってもいい人なんや! 酷いことばかりいうイブとは全然違うんや!」


「甘言に惑わされおって、愚か者め……。やはり、乳にばかり栄養がいって、頭には全く回っていないようだな」


「なんだとっ!? イブ、お前はやはり、許さん。斬ってやる!」


「ふん、愚か者の上に短慮軽率ときている。もはや、救いようがないな。このゲームには同性に対して攻撃ができないというルールがある。貴様がいかに私を憎くても、ブロックがかかり、攻撃することはできないというのに……」


 この『情熱のサンターナ』においては、プレイヤーキルは禁止事項。

 プロテクトがかかっていて、決して攻撃することはできないのだ。


 イブの言葉に、桃花は面白そうに笑う。


「くくく、愚かなのは、イブの方や。うちには悪魔から与えられた力がある。

 この炎の魔剣『陽炎』!

 この刀には斬れないものはない。陽炎ならば同性であっても斬ることができるんや!」


「なんだと!?」


 その言葉に驚愕するイブに対して、桃花が魔剣陽炎を上段に振りかぶる。


「よもや卑怯とは言うまいね?」


「めっちゃ卑怯だよ!」「卑怯すぎるのね!」

「え!?」


 七瀬と美代子が叫んだのは同時だった。

 つまり、桃花はイブを攻撃し放題だが、イブは桃花を攻撃できない。

 これでは、勝ちようがないのだ。

 しかし、イブは手を上げて、二人を制する。


「アダムよ、貴様の出番だ」


 そう、同性では攻撃できなくても、異性ならば攻撃できる。

 ならば、この場において、イブの『恋人』である、アダムだけは桃花に対抗しうる力を持つのだ。

 イブに呼ばれたアダムが一歩前に出る。


【僕に任せるんだビッチ!】

 

 その顔は、まさに天使そのものといった清らかさ。

 西洋系の美少年としかいいようのない顔に、桃花は少し息を飲んだ。

 息を飲んだから、胸が動いた。 

 美爆乳がプルンと揺れた。


 アダムは笛を吹いた。

 ピョロロロ~と音が響く。


【テクニカルNTR成立! 勝者不知火桃花!】

『はぁ?』


 四人の間抜けな声が響く中で、アダムはテクテクと桃花の方に歩いて行った。

 この状況に気が付いて、イブは震えながら、アダムに問いかけた。


「アダム、貴様、裏切ったのか!?」

 

【僕は桃花さんの見事なおっぱいに誑し込まれたビッチ! もう桃花さんにメロメロビッチ! もう僕は桃花さんの『恋人』ビッチ!】


「なんだと!?」


 驚愕するイブに対して、桃花が高々と笑う。


「あはははは! なんだか知らないけど、イブよ。お前、絶体絶命のピンチやないか? どうするんや? なんなら今からうちに謝るか? けど、もう許さへんで! うちとの友情を踏みにじった代償を払わせたるわ!」


「くっ……」


 イブは唇を噛み締める。


「そ、そんな、もうイブさんには桃花を攻撃する手段がないのね。しかも、ジャッカルも怪我を完治するほどの塩はなかったから戦闘には参加できないのね! 八方ふさがりとはこのことなのね!」


「相手はただでさえ、剣聖と呼ばれるだけの剣技の使い手なのに! くそ! あたいたちは何もできないのか!」


「いや、イブさんの目を見るのね!」


「姐さんの目!? あれは!? 姐さんの目は死んでない。諦めてない!

 あたいたちを地獄のどん底に突き落としたときと同じ目をしている!」


 そう、イブの目は狂気に爛々と輝いていた。

 憎い乳女を自分の手で痛めつけられると、喜悦にまみれた表情だったのだ。

 果たして、攻撃手段のないイブは、剣聖不知火桃花に対抗する策はあるのだろうか。




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