桃花の結界
サンタナ海岸洞窟の中に、武器密輸組織『ジャッカル』の秘密アジトは建てられていた。
ジャッカルの残党を壊滅させるためにイブたちが侵入した時には、すでに残る構成員は叩きのめされた後だった。
それをやってのけたのは、この女。
長身の怜悧な表情の美貌の剣士。『火』の乙女五芒星、『剣聖』不知火桃花。
たった一人で、ジャッカルの残党を倒したことからも、彼女のただならぬ戦闘能力が伺い知れた。
待ち受けていた彼女の、キリッとした力のある双眸が、イブを射抜くように見つめている。
睨みあうような沈黙の末、桃花が口を開いた。
「久しぶりだな。わたしを思い出したか。伊吹イブ!」
「……」
「ね、姐さん? 不知火桃花を知っているのかい?」
険しい顔をして押し黙るイブに、七瀬が話しかけた。
イブは少し迷いながら、言葉をもらす。
「……、いや、記憶にないな。多分、初めて会うのではないか……」
「えっ!?」
素っ頓狂な声をあげたのは、不知火桃花。
「そ、そんな馬鹿なっ!? わたしだ! 桃花だ!」
「……うーん」
腕組みして唸るイブに対して、七瀬が答える。
「姐さんがこんなに悩んでいても、思い出せないということは、やっぱり初対面では?」
「お前! 何を言っているんだ! 私は伊吹イブと初対面なんかではない!」
目を見開いて、声を荒げる桃花だったが、やはりイブの出した結論は変わらない。
「やはり、知らんな。それに、私はそんな化け物みたいな乳のでかい女は知らない」
「ッ!?」
乳がでかいと言われて、桃花はさっと自分の胸を左手で覆う。
先程まですましていた顔は、朱に染まっていた。
そう、不知火桃花はおっぱいが大きかった。
しかも、かなり大きかった。途方もなく大きかった。
爆乳と呼んでもいいくらいの大きさだった。
左手で抑えた乳がムニュムニュと形を変える。
その様子に、アダムは驚愕した。
【な、なんておっぱいだビッチ……】
それを見て、イブたちは話しあった。
「七瀬。どう思う? あれは本物か? それとも偽乳特選隊だろうか?」
「うーん、姐さん。あたいにもわからないよ。でも、本物だとは思いたくないもんだね。美代子はどう思う?」
「信じられないことに、あれは本物らしいのね! しかも、シリコンでもなく、天然ものらしいのね!」
「なんだと!? 信じられん。それであの形の良さか?」
「ブラも普通のものを使っているそうなのね」
「なんだって!? あの野郎! そんな乳があるなんて、あたいには信じられないよ!」
【いや、あのおっぱいは間違えなく本物ビッチ】
アダムの言動に、イブが怪訝な顔をする。
「どうしてわかるのだ?」
【イブさんが男の見る目に対して、絶対の自信を持っているように、僕もおっぱいの見る目に対しては一家言を持っているビッチ!
一級おっぱい鑑定士の僕が見るに、桃花さんのおっぱいは天然ものの最高級品!
世界ランキング一位のS級おっぱいビッチ!】
「世界ランク一位のS級おっぱいだと……」
イブが桃花のS級おっぱいを、ちらりと見る。
でかいだけではない。全く垂れていないのだ。
重力に反して、ぷるんと上向いていた。明らかに物理法則から反していた超自然的おっぱいだった。
イブはその乳をにらみつけながら、つぶやいた。
「あざとい……」
「あざとすぎる」
「……あざといのね。さすが桃花、あざといのね」
【しかも、長身、美脚、モデル体型、美形、そして、爆乳。天は二物を与えずというのに、五物以上もらっているビッチ!】
四人がヒソヒソ話し合う中で、桃花が慌てて話に入る。
「おい! 新房くいなのなれの果て! どうして貴様が伊吹とともにいるのだ!? わたしたちを裏切ったのか!? というか、わたしの乳に関して勝手に色々いうのをやめろ!」
「えっ!?」
美代子を責めだした桃花をイブが遮る。
「不知火桃花よ」
「な、なんだ? 伊吹イブ」
「もう一度、結論を言おう。私は不知火桃花などという人物は初対面だし、貴様のようなお化けおっぱいを知らない」
「お、お化けおっぱいだと。そ、そんなぁ」
桃花のキリッとした凛々しい眉は、途端にハノ字になり、その瞳にはうっすら涙をたたえる。
「うぅ、……ずっと友達といったではないかぁ」
「あっ……」
その表情に、イブは脳裏に浮かぶ光景があった。
あれはイブが小学一年の時。
転校するクラスメイトの姿。
『うわーん、イブちゃん! あたしが転校してもずっと友達だよね?』
『ああ、そうだな。私たちはずっと友達だ』
泣きながら、イブの手を取るその姿をイブは思い出す。
その小さな少女は確か、こんな泣き顔をしていたのではなかったのか。
「……き、貴様は、桃花。もしかして、桃井桃花か」
泣きそうだった桃花がパッと顔を上げる。
「そうだ! 桃井だ! そうか、あの頃の私は旧姓だったから、今の姓はしらかったのか」
「なるほど、貴様は母子家庭だったが、再婚することになって、引っ越したのだったな」
「そう、わたしは関西まで引っ越したんだ」
「どおりでわずかに関西弁の訛りを感じたわけだ。ならば、普段話している口調で話すといい」
「そうやな! うちはやっぱり、こっちの方が話しやすいわ!
なぁ、昔みたいにイブって下の名前で呼んでええか? それと、うちも桃花って呼んでや」
「……、まぁ、かまわないが」
戸惑いながらも、昔の知り合いということで、それを同意したイブ。
そんな桃花を見ながら、七瀬はイブに話しかけた。
「姐さん。やっぱり、不知火とは知り合いだったんだね」
「そのようだな。とはいっても、小学一年生のころに転校していったやつだからな」
「なるほど、それじゃあ、忘れていても仕方ないね。というか、ほとんど他人じゃないか」
「他人ちゃうわ!」
七瀬との会話に、桃花が割り込む。
「うちと、イブは親友同士や!」
「ね、姐さんの親友だって!?」
「そうや! うちとイブは深い絆で繋がれとる。うちは片時もイブのことを忘れたことなどなかった!」
七瀬はイブを見る。
イブは明らかに困惑の表情を浮かべていた。
「一体、あんたと姐さんの間には何があったんだい?」
「さっきから、イブを姐さんとか呼んでるけど、お前は一体イブの何や?」
「あたいは七瀬。姐さん第一の舎弟さ! やい、桃花! あんたこそ姐さんの何なんだ!?」
「なるほど、ということはどうやら聞きたいみたいやね。わたしとイブの関係を。その友情物語を!」
「ああ、聞きたいね!」
七瀬はイブにウィンクした。
空気が読めるできる女、それが七瀬だ。
イブは内心で、でかしたと七瀬を褒める。
一方で、アダムは桃花の乳を舐め回すように凝視していた。実に役立たずである。
そして、美代子は水筒にいれていたハチミツを舐め回すどころか、飲み干していた。なにこれ、怖い。
そんな中で、桃花はその過去を語り出したのだった。
********
「ううぅ」
小学一年生の桃花は途方に暮れていた。
ランドセルが川に流されて、どんどんと遠くにいっている。
教科書もランドセルも、とても値段が高いことは、子供の桃花でも知っていた。
桃花の家は貧乏だった。
何しろ、母子家庭。
食べるのにも困っていた。
そんな状態なのに、桃花は勉強がすこぶる苦手だった。
桃花は外で遊ぶのが好きだった。
特にチャンバラごっこが大好きで、暇さえあれば外で棒切れを振り回していた。
だから、その日も普段遊んでる河原でチャンバラごっこをするべくやってきて、ぞんざいにランドセルを放り投げる。
坂に投げられたランドセルは、バランスを崩して転がっていき、川に落っこちてしまった。
「ううぅ、どうしよう」
桃花は子供心に一大決心をした。
泳いで、ランドセルを取り戻そうと。
そんな川に飛び込もうとしている桃花の肩を、掴んだ小さな手があった。
「無理。水の流れが早い。あなただと溺れる」
それは小学生一年生のイブだった。
「だって、うちの家、貧乏だから、もう教科書買えないもん」
「それならば……」
イブは自分の持っていたランドセルから教科書出すと、桃花に渡した。
「これをやる。私にはもう、必要のないものだ」
「えっ、どうして? 明日からもずっと使うものじゃない?」
「その教科書なら、もう全部覚えた」
「えっ!?」
「試しにページを指定するがいい。全部、暗唱してやろう」
「……す、すごい」
その日から、桃花にとってイブはヒーローだった。
イブができたのは勉強だけではなかった。
チャンバラも当時の桃花よりもずっと強かった。
運動も、何もかもが、クラスどころか学校で一番だった。
そして、何よりも一番美しかった。
桃花にとって、イブだけが憧れであり、唯一の目標だった。
桃花は影からイブをずっと見ていたのだ。
それは、今まで感じたことのない陶然とした気持ちを彼女に与えた。
貧しかったが、桃花にとって一番幸せな日々だった。
そして、桃花の母親の再婚が決まる。
桃花の母親は関西出身であり、同郷の西日本最大の剣術道場をしていた不知火から求婚され、それを受けたのだ。
こうして、転校当日、桃花は泣きながら、イブに別れの言葉を告げる。
「イブちゃん、転校してもずっと友達だよね?」
「ああ、そうだな」
その当時のイブはたくさんの人から憧れられていた。
桃花もその中の一人であって、それ以上でもなかったのだが、友達でないというわけでもなかった。
********
「ということがあって以来、うちとイブは無二の親友なんや。この教科書はうちとイブとの友情の証しや」
「そりゃ、すごいねぇ」
桃花はボロボロの教科書を取り出して、七瀬に見せつける。
七瀬は表紙だけはボロボロだけど、中身はちっとも使い込んでないなぁと思った。
多分、頭は良くないのだろうと七瀬は分析する。その予想はおおむね正しかった。
剣術道場不知火家の娘となった桃花は、ますます剣術にのめり込み、またイブのように強くなろうとしたのだ。
つまり、勉強は全然できないし、やってもいない。
それどころか、学校も行かずに、武者修行として日本中を歩き回っていた。
留年も確定的で、卒業もできない。最終学歴高校中退待ったなしの危険な少女、それが『剣聖』不知火桃花なのだ。
ついでに、経済状況が劇的に改善された桃花は、毎日腹いっぱい食べれるようになり、すくすくと育ち始めた。
もう、育ちすぎというくらい育ってしまった。
その結果が、この立派なおっぱいである。
桃花は全てを話し終わった。
興奮してむふーと鼻息が荒い、桃花を背に、イブは七瀬と美代子を呼び寄せ、声を潜めて相談しだした。
「……七瀬、美代子よ。私と同世代の女の子として聞きたいのだが」
「なんだい? 姐さん」
「なんなのね?」
「女の子の間では、ちょっと面識があれば、とりあえず『お友達』というよな?」
「そりゃあ、そうだね」
「そうに違いないのね」
「……それでは聞くが、その『お友達』を『親友』と呼ぶだろうか?」
「それは……、さすがに呼ばないねぇ。美代子はどう思う?」
「あたしは、いつも一人でご飯食べてたから、人間関係には詳しくないけど、それは絶対に親友とは呼ばないと思うのね!」
【おおう、割とヘビィなことを、美代子さんはカミングアウトするビッチ】
「いや、あたしはご飯は自分のペースで食べるのが好きだから、全然平気だったのね!」
「孤独が堪えないタイプって結構いるよね。あたいも、そういうタイプだなぁ」
【ヤンキーの一匹狼タイプと一般人ボッチとは似て非なるものビッチ! それにしてもボッチとビッチは響きが似ているのに、この相容れない感はすごいビッチ!】
「ふむ、大体はわかった」
イブは振り返った。
「久しぶりだな、桃花よ。わが心の友よ」
「おおっ! そういってくれるか、親友!」
心の友とは、実際には心の中にしかいない友達。つまり、エア友達なのだが、桃花はいい風に解釈した。
というか、そう解釈できるように発言したのはイブの優しさであり、むやみに女の子を追い詰めないのは乙女のたしなみだった。
「桃花よ。一体、貴様はどうしてこのようなところにいるのだ?」
「ふふふ、聞いてくるか、親友よ。うちはあんたに憧れて、強くなりたかったんや。
だから、剣の腕を磨いた。今では『剣聖』と呼ばれるほどや。
そして、今ならイブが嫌っていた『悪』を討つことができる!
ちょうど、このサンタナ市にも『ジャッカル』という巨悪が存在すると聞いてな。
潰しに来たという事や。そしたら、イブがおった。
うちたちの目的は一緒やったんや! なんという運命!」
桃花が舞い上がるように、身もだえしている。
しかし、その動きがピタリと止まる。
桃花は真剣な表情で、あたりを見回した。
「どうやら、まだネズミが一匹いるみたいや」
その言葉の意味することに気付いて、七瀬が叫ぶ。
「姐さん! 『ジャッカル』の幹部たちは倒れているが、その中にボスであるジャッカル本人がいない!
きっと、この秘密基地のどこかに隠れているんだ! 気を付けて!」
狙撃手ジャッカルが、アジトのどこかに隠れて、必殺の暗殺を試みている。
ここにいる全員がジャッカルの死の射程範囲内にいたのだ。
イブは、ずいっと前に出た。
しかし、桃花が手を上げて、そのイブを制した。
「そんなん、うちが片づけたるわ」
桃花が柄に手を添える。
いつでも抜刀できる体勢だ。
イブはその姿勢に目を細めた。
「ふむ、隙の無いよい構えだ。さすがは、世界一の剣士といわれる『剣聖』の称号を持つだけはある」
「……あ、あの構えは?」
「知っているのか、七瀬」
七瀬は額に汗をにじませながら、答える。
「姐さん、剣聖は『視奪結界』と呼ばれる技を使うと聞くよ」
「視奪結界? 一体どんな技だ」
七瀬は申し訳なさそうに、首を振った。
「ごめん、姐さん。よく知らないんだ。しかし、絶対に破ることができない恐ろしい技らしいよ。
特に、『狙撃手』は『剣聖』不知火と相性が悪いと聞く」
「超ロングレンジの狙撃手が近距離専門の剣士と相性が悪い? 普通、逆ではないのか?」
「わからない! でも、銃に対して、なんらかの対抗策がなければ、マフィアや暴力団を潰すことは出来ない!」
「うむ、では、剣聖不知火桃花の実力をここで見せてもらおう。ジャッカルは奴が倒すと言っているのだからな」
桃花が叫ぶ。
「剣技『視奪結界』!」
その瞬間だった。
イブは、自分たちが桃花の必殺の剣技の間合いに入ったことを自覚した。
「広い! 恐るべき、斬撃の間合いだ。剣聖の名は伊達ではないな!」
「だけど、あれでは、どこから撃って来るかわからない、狙撃手相手には間合いにおいて不足している!
多分、もっと遠くから撃ってくるはず! 一体、どうするつもりなんだい!?」
その時、ジャッカルは通風孔に隠れながら、桃花の額に照準を合わせていた。
ジャッカルはその殺意を隠しながらも、心の奥底に憎悪の炎を燃やしていた。
(あの野郎、仲間たちを次々とやりやがって……。許さねえ。その綺麗な顔を吹き飛ばしてやる)
しかし、それだけの殺意を抱きながらも、それを一切外には出さない。
それが伝説の殺し屋と謳われたジャッカルなのだ。
全てが完璧だった。あとは、引き金を引くだけ。
しかし、その瞬間だった。
プルリン!
ひとりでにスコープが動いた。照準がずれたのだ。
ジャッカルは突然ぶれた照準に混乱した。
(な、どうしてだ!? どうして、俺の照準がずれたんだ!? くそ、もう一回!)
プルルン!
再び照準がずれる。
プルルルン!
(な、なんなんだ、これは!? 俺は奴の頭に照準を合わすことができない!)
桃花の額に狙いを合わせても、すぐにずれる。
何度やっても、ジャッカルがどんなに冷徹な意志を持とうとも、照準をあわせることができない。
そのスコープはかならず桃花のある部位に、狙いが合わさるのだ。
桃花のおっぱいに。
桃花のでかすぎるおっぱいに目が釘付けになるのだ。
引き離さそうにも、目が吸い寄せられる。
これこそが桃花の『爆乳ヒロイン』としての、恐るべき剣技、『乳視奪結界』。
桃花の世界ランキング一位のS級美爆乳は、全ての男の視線を奪う!
そして、女の子なら誰でも持つのが、『自分のおっぱいをジロジロ見る男の目線に対するセンサー』だ!
超高性能の桃花のセンサーが、自分のおっぱいを凝視する敵の存在を教えてくれる。
小学二年から乳が大きくなり始めた桃花は、誰よりもその乳への目線に敏感だった。
すなわち、例えどんな精巧に隠れた狙撃手も、桃花のおっぱいが見える限りは、いる場所が筒抜けになってしまうのだ。
「そこか!」
「くっ!?」
桃花がジャッカルが潜む通風孔に向けて、一目散に走り出す。
このままではやばいとジャッカルは銃を構えるも、桃花の胸がプルンプルン揺れる。
揺れるおっぱいに目が奪われ、その他を見ることができない。
勿論、近接戦闘においてもそうだ。
どんな敵も、桃花の揺れるおっぱいに目が釘付けとなり、隙だらけになってしまう。
「くそう!」
破れかぶれにジャッカルが銃を撃つ。
しかし、その銃の撃てる方向は一つしかない。
銃は桃花の乳方向にしか撃つことは出来ないのだ。
ならば、避けることは簡単だ。
「見切った!」
引き金を引いた瞬間に、桃花は蝶のようにひらりと身を翻し、凶弾を避ける。
そして、乳がブルンと揺れる。
ブルルルルン!
そのおっぱいの揺れが収まった時には、ジャッカルは切り伏せられていた。
「ふん、峰打ちだ、安心しろ」
刀を鞘にしまう桃花を見て、アダムは震えながら呟いたのだった。
【……な、なんてすごい技ビッチ。
そして、なんてすごいおっぱいビッチ。恐るべきおっぱいビッチ。
あの『視奪結界』は男では決して破ることができないビッチ!
……勝てない。『剣聖』不知火桃花には絶対に勝つことはできないビッチ!】




