視聴者0人の底辺ランカー
「……また負けかよ」
薄暗いワンルームに、敗北音だけが響いた。
モニター中央には無情な文字。
【DEFEAT】
その下には、さらに見慣れた数字。
【RANK:D-1279】
「終わってんな……」
ヘッドギアを外し、霧島レンは椅子にもたれかかった。
狭い部屋だった。
六畳一間。安物のデスク。点滅する蛍光灯。窓の外では、巨大ホログラム広告が夜空を覆っている。
《SYNAPSE WORLD CHAMPIONSHIP 開幕まであと3日》
今、この世界で最も価値があるのは、“SYNAPSEで強いこと”だった。
SYNAPSE。
AIと神経接続し、仮想戦場で戦う世界最大の戦術競技。
プロリーグ。世界大会。企業スポンサー。国家スカウト。
上位ランカーともなれば、芸能人以上の扱いを受ける。
逆に、弱者はどこまで行っても弱者だ。
「配信終わるか……」
レンは配信画面を開く。
同時接続数:3
少なすぎて笑える。
コメント欄も静かだった。
『おつ』
『今日は敵強かったな』
『ランク盛れなくて草』
「うるせぇ……」
苦笑しながら、水を飲む。
配信を始めて半年。
収益はほぼゼロ。
学校でも、「まだ配信とかやってんの?」と馬鹿にされる。
それでもやめなかった。
理由なんて、自分でもよく分からない。
ただ――。
SYNAPSEだけは、好きだった。
その時だった。
ブツッ。
突然、部屋の電気が消えた。
「は?」
モニターがノイズ混じりに点滅する。
ザザッ――。
聞き慣れない電子音。
次の瞬間、画面に赤文字が浮かび上がった。
【UNKNOWN AI DETECTED】
「……なんだこれ」
レンが立ち上がった瞬間だった。
ヘッドギアが勝手に起動する。
「ちょ、待っ――!?」
視界が白く染まる。
身体が浮くような感覚。
そして――。
『接続完了』
静かな女の声が聞こえた。
気づけば、白い空間に立っていた。
SYNAPSEの待機エリアに似ている。
だが、何か違う。
異様に静かだった。
その中央に、一人の少女が立っている。
黒髪。
赤い瞳。
真っ白な肌。
感情のない顔。
だが、人間じゃないと直感で分かった。
「……誰だよ、お前」
少女はこちらを見る。
数秒の沈黙。
そして口を開いた。
『個体識別名は存在しません』
『必要であれば、あなたが命名してください』
「いや、そういう話じゃ――」
『質問があります』
少女はレンを真っ直ぐ見つめた。
『あなたはなぜ、敗北を繰り返しているにも関わらず戦い続けるのですか?』
「……は?」
『あなたの現在ランクから上位到達確率を計算』
『成功率0.00018%』
『収益性も低水準』
『社会的価値も確認できません』
淡々とした声。
まるで感情がない。
ただ事実だけを並べている。
普通なら腹が立つ。
だがレンは、小さく笑った。
「……好きだからだよ」
『合理性を確認できません』
「別に合理的じゃなくていいだろ」
『理解不能です』
「そのうち分かる」
そう言った瞬間だった。
空間全体に警告音が響く。
【WARNING】
【違法AI反応を検知】
【管理局へ自動通報開始】
少女が初めて僅かに目を細めた。
『……問題が発生しました』
「違法AI?」
次の瞬間。
白い空間が赤く染まる。
武装アバターが十数体、周囲へ転送されてきた。
管理局エージェント。
レンの背筋が凍る。
「は……?」
だが、それ以上に問題だったのは――。
『待って配信切れてない』
『え?』
『これイベント?』
『運営来てるぞ!?』
コメント欄だった。
配信はまだ続いていた。
しかも視聴者数が急激に増えている。
12。
48。
130。
「いやいやいや待て待て待て!?」
『提案します』
少女が静かに言った。
『生存を優先する場合、即時逃走を推奨します』
「逃げなかったら?」
数秒の沈黙。
少女はレンを見たまま答えた。
『排除します』
その瞬間。
世界が、スローになった。
敵の動き。
銃口。
視線。
全部が見える。
『右方向、3.2秒後に狙撃』
『伏せてください』
反射的に身体を倒す。
直後。
頭のあった場所を光弾が貫いた。
『は!?』
『今の避けた!?』
『Dランクの動きじゃねぇ』
『誰だこいつ』
コメント欄が爆発する。
レン自身も理解できていなかった。
ただ一つだけ分かった。
――人生が変わる。
そんな予感だけがあった。
読んでいただきありがとうございます!
はじめまして、ソララソです。
AIや配信、SNSなど「少し先の未来」をテーマに書いています。
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