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第三話 病院食とカロリーゲージとギルドの呼び出し

退屈すぎる入院生活。

やることといえば、寝るか、食べるか、天井の模様を数えるくらい。

そんな俺の一番の楽しみは──食事の時間だった。


「いただきまーす」


……そして、すぐに「ごちそうさま」なんだよなあ。

量が少ねぇ……まあ病院だから仕方ないか。

それでも、味は意外と悪くない。

おかゆに焼き魚、煮物に牛乳。味付けは薄いが、逆に体に染みる感じがする。


足りない腹を誤魔化すように、売店で買っておいたコッペパンにかじりつく。

甘いジャムの風味が口いっぱいに広がって、ちょっとだけ幸せな気分になる。


ぱくぱくと口に運ぶたび、脳裏に淡い光のウィンドウが浮かんだ。


【能力値】

 筋力:76

 体力:81

 敏捷:49

 魔力:0

 カロリー蓄積:8,200kcal


「おお……かなり増えてるな」


暴食覇道グラトニーロード】──溜め込んだカロリーを消費することで真価を発揮するスキルらしく、売店で買ったアンパンを食べていた時に、ふとステータスを見てたら「カロリー蓄積」という項目が増えていた。


正直、色々とスキルを検証したいが、病院なので暴発した時の被害を想像すると怖くてできない。

なんせ、早期の段階といえ、スタンピードのボス個体を一撃で倒すスペックがあるのだ。

流石にノーテンキかつお茶目で愛され系な俺といえども使用するのは慎重にならざるを得ない。


そのため、とりあえずカロリー蓄積とやらを上げるだけ上げてみようとしたわけだ。

まあメシ食っていただけなので、実質なにもしていないが、気にしてはいけない。


話は戻るが、病院食に加えて、売店のパンやお菓子、自販機のジュースをがぶ飲みしていた成果なのか中々に蓄積されている。

数字が貯まっていくのを見ると、なんだか貯金額が増えていくのを眺めているような気分になって妙に嬉しい。


「よし……退院したら大食いして一気に貯めてやる」



数日後。


「持田さん、検査結果も良好ですし、明日には退院できますよ」


医師の言葉に、思わずガッツポーズを決めた。


「やった……! これで自由に食える!」


気分は晴れやかだった──そこへ。


コン、コン。

病室のドアがノックされる。


「失礼します。持田大福さんでいらっしゃいますか?」


入ってきたのは、見慣れた制服を着た青年だった。


「はじめまして、私は世界冒険者統括機構せかいぼうけんしゃとうかつきこう、東京総本部の職員、佐藤誠一と申します」


 世界冒険者統括機構せかいぼうけんしゃとうかつきこう──冒険者の登録、等級査定、依頼の仲介、報酬の管理まで担う巨大組織。

……なんだけど正式名称があまりに長く面倒くさいため、冒険者たちからは昔から「冒険者ギルド」と呼んでいる。

俺を含め、冒険者にとって最も身近な窓口であり、生活の基盤といえる存在だった。


ちなみに、そのさらに上位に存在するのが世界冒険者評議会である。

国境を越えて世界中の冒険者を統括する機関。

冒険者社会の基本ルールを定め、各国間で摩擦が生じた際には調停役を担う。

さらに世界百強ランカーをはじめとする規格外の冒険者を監視・管理し、必要とあれば各国へ派遣する権限すら持っている。


まあ今回は俺がたまたま死に際で物語のヒーローみたく覚醒して解決した(ドヤ顔)が、基本的にスタンピードのような大規模事件が起きれば、まず間違いなく評議会が対応する。


そんな評議会の立ち位置は、世界的に冒険者社会の均衡を保つ要であり、言わずもがな、その辺の一国家など軽く凌駕するほどの影響力を持ち合わせており、どこの国の上層部からも怖がられる雲の上の存在だ。



おっと、話がそれたな。

それにしても、冒険者ギルド――しかも東京総本部といえば、日本の数ある支部を束ねるトップクラスの組織だ。

そんなところからわざわざ使者が来るなんて、一体俺に何の用事があるんだ……って予想はまあつくけど。

とりあえず余計なことは言わず、軽く会釈だけ返して相手の出方を伺うことにした。


「怪我で大変なときに突然申し訳ございません。こちら、お見舞いの品です」


佐藤が差し出した果物籠を受け取ると、思わず顔が緩んだ。

入院食ばかりで飽きていたせいか、色鮮やかな果物の輝きに自然と頬がほころんでしまう。


「ああ、これはご丁寧に。ありがとうございます……で、私にどのようなご用向きでしょうか?」


「はい、さっそく本題ですが……今回のスタンピードにつきましてお伺いしたいことがありまして」


まあそうだよなあ予想通りだわ。

心当たりしかない。

多分、ギルドは、俺がスタンピードのボス個体を本当に倒したのか、また、相応の実力があるかを直に確かめたいのだろう。

とはいえ面倒くせえなあ。

とりあえずスッとぼけとこう。


「お伺いしたいこと? どういった内容でしょうか? 今、この場で聞いても構いませんよ?」


「いえ、色々と長くなるかと思いますので、ご足労をおかけして大変申し訳ないのですが、東京総本部ギルドまでお越しいただけますか? もちろん退院後で結構ですので。あと、費用はこちら持ち、ささやかではありますが捜査協力費をお支払いさせていただきます」


「……わかりました。退院しましたら、お伺いさせてもらいますね」


俺が丁寧に答えると、佐藤はほっとしたように微笑んだ。


「ありがとうございます。どうかご無理なさらず、まずはご療養を優先してください。それでは失礼いたします」


深々と一礼して、佐藤は病室を後にした。


残された俺は、少し面倒なことになったとは思ったものの、すぐに意識を切り替え、果物籠を眺めながら、ついニコニコ顔になる。


「おお〜いっぱい入ってるな。ラッキー。今夜はプチパーリナイだぜ」


窓の外では夕焼けが街を染めていた。

退院後に待つ事情聴取が、今後の冒険者生活を大きく変えることになるとも知らずに。


──


翌日、俺は病院を出た。

久々の外の空気を吸い込み、大きく伸びをする。


「ふーっ、やっと自由の身だ……さぁ、家に帰って──」


……と意気込んだものの、それは現状どころか当分の間、できなくなっていた。

というのもお察しの通り、俺の住んでいたエリアは今回のスタンピードによる被害で町中が倒壊して、現在瓦礫だらけ。

復旧工事の真っ最中で、立入禁止区域に指定されている。


「……ああ、俺の冷蔵庫……」


頭の中に、食べようと残しておいたカップ麺や、買い置きのお菓子が走馬灯のように浮かぶ。

とくに、冷蔵庫の奥で大事に温存していた──期間限定・一個二千円越えの超高級プリン。


「……あれ、絶対ダメになってるよなあ……ぐぅぅ、もったいねぇ!」


思わず地面に膝をつきそうになる俺。

だが、入院中に医師や職員から聞かされていた言葉を思い出す。


──今回の被害で住めなくなった住民には、冒険者も一般人も関係なく、国と冒険者ギルドが連携して支援措置を取る。

生活費の一部や、隣町でのホテル住まいをはじめ、最低限の生活に必要なものは提供されるという話だった。


改めて現場を目にして、ようやく実感がわいた。


「まあ支援措置があるだけありがたいか」


胸の奥にまだちょっとした虚しさは残っていたが、気を取り直し、とりあえず腹ごしらえに繰り出すのだった。


──


支援措置のおかげで隣町のホテル暮らしに突入した俺は、とりあえずホテル併設のレストランに突撃した。


オーダービュッフェ形式であったので、カツ丼にラーメン、唐揚げにカレー、〆にプリン。めぼしいものは全て頼んだ。

店員さんが引き気味にメモを取りながら「……本当に全部でよろしいですか?」って聞いてきたけど、もちろんYESだ。

俺が何年デブしてると思ってやがる、エリートを舐めるでないわ、バワッハハハー


 ──そして三十分後。


「う、動けん……」


バカだ調子乗りすぎた。

テーブルの上は空っぽの皿の山。

俺の腹は妊婦さんもびっくりな丸みを帯びていた。だが脳裏に浮かんだウィンドウを見て、思わずニヤける。


【能力値】

 筋力:76

 体力:81

 敏捷:49

 魔力:0

 カロリー蓄積:18,238kcal


よしよし、こんだけカロリーが貯まれば色々スキル検証できるだろう。数字は貯まった。次は使いこなせるかどうかだ。


そう、これから俺は最寄りのダンジョンへ向かう。

戦いにおいては役立たずのスキルであった強胃袋モタレナインが進化を遂げて手に入れた【暴食覇道グラトニーロード】の力を見せてもらおうじゃないか!

 


ホテル近くのダンジョンへ到着。

このダンジョンは隣町で、わりかし近いのでこれまで何度か通ったことがある。

よくある中規模ダンジョンで、以前いった時は下層はおろか中層にも到達できなかった場所。

ダンジョンの攻略難易度は世間的に見ても中々に高く、俺にとってはひとつ上のステージと言っていい。

とはいえ、新たなチカラを得た今なら結構いけるのではないかと内心思っている。結構楽しみだ。


奥へ進み、魔物が出ないのを確認してから立ち止まり、今一度、暴食覇道グラトニーロードの効果を確認する。


【スキル:暴食覇道グラトニーロード

《効果》

・摂取した食物エネルギー(カロリー)を溜め込める。また、体内に溜め込んだ食物エネルギーカロリーを消費することで一時的に能力値が上昇する。

・食物エネルギーを摂取した時、稀に能力値が上昇する。

・特定条件を満たすことで、専用技の使用が解禁される。

《副作用》

•急速なカロリー消費時に、極度の空腹・倦怠・眩暈を伴う。

•連発は極めて危険。

《解放スキル》

•第一能力:喰滅掌デボウア・スマッシュ

 圧縮した熱量カロリーを拳撃に乗せ、爆発的に解放する破砕打。


まとめると、溜め込んだカロリーを消費することで特定の効果を発揮できるというシンプルゆえに強いスキル、である。


「さて……とりあえず、カロリーを消費して身体強化できるか試してみるか」


深く息を吸い、心の中で強く念じる。

──力を、速さを、もっと。


うっ、急に腹の底から何かを抜き取られたかと錯覚するような感覚に苛まれた。

だがその次の瞬間、体の奥でドッと熱が溢れ出した。血流が一気に加速し、筋肉が張り詰めていくのがはっきりわかる。


【能力値】

 筋力:76 → 152

 体力:81 → 162

 敏捷:49 → 98

 魔力:0

 カロリー蓄積:15,238 → 12,238kcal


「おおっ、す、すげえ上がってる!? こ、これ、冗談抜きでチートスキルだろ!!」


ただでさえ、あの死闘でレベルが一気に跳ね上がり、元々の数値が大幅に伸びていたはずだ。

そこからさらに二倍とか……いや、もう反則もいいところだろ。


しかも必要なのは高価な魔道具でも、優秀な支援職のバフでもない。

ただカロリーを消費しただけで、こんな凄まじい恩恵を得られるなんて、調子に乗ってしまいそうだ。(もう乗ってる)


「……やっべ、これもう世界が俺の胃袋に震える未来しか見えない!!」


想像を遥かに超えた力に、自分でも何を言ってるのかわからなくなる。


妙なテンションのまま、試しに拳を突き出すと──シュッ、と風を裂く鋭い音が響いた。

一歩踏み込めば、体が驚くほどスムーズに動く。

自分が思い描いた動きそのままに、しかも全く息切れしない。


「うおおっ!? 超気持ちいい……! なんだよこの高揚感! これぞ全能感! すげぇ……体が羽みたいに軽い。いやもう、ダイエット成功した女子より軽いんじゃね?」


アホな例えを叫びつつも、確信だけはあった。


──俺は強い。


少なくとも「凡庸な冒険者」から「ようやく胸を張れる水準」にまで押し上げられたわけだ。


「……いいな。これは本当に“戦える力”だ」


今の俺、すでにステータス二倍とか、ふざけ散らかしている。

なのに、まだまだ上げられる余力があるとか、どこの課金ガチャだよ。

もはや笑いが止まらない……でもまあ、病み上がりで全開ブーストすると何かがあった時に怖いからこれくらいでやめとこう。


「とりあえずこれで十分だろ。むしろオーバースペック。上層のモンスターとか戦いにすらならないだろうし」


視線をステータスに移すと、数字がじわじわと減っていた。


【カロリー蓄積:12,238 → 12,232 → 12,226……】


初期消費でドカッと3000カロリーほど持ってかれて。あとは維持費感覚でジワジワか。まあこの調子なら数時間はもつだろ。

それにリュックには非常食のカロリーメ◯トが二十本。

な? 燃料補給も万全だろ?


拳を軽く握り直す。

病み上がりの体からは想像もできないほどの力が、今も全身を駆け巡っていた。


「ここから俺の成り上がり伝説が始まる! ……とか、マジでなっちゃったりするんじゃね? ぐふふふふふふっ」


自分の中で急速にワクワクが膨らんでいくのがわかる。

自分の力を試したい――抑えきれない衝動に背中を押され、俺は変な笑い声を漏らしながら、ずんずん奥へと進む。


「中層モンスターどもォ! 待ってろよ! 俺の腹の中が、お前らのエンディングだァ!」

どこエリアのダンジョンにしようかなあ


次はスキル検証をやります

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