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第2話 えっ、魔力ゼロ? 代わりにカロリー無限大

ごめんなさい、女冒険者の容姿を変えました。

 スタンピードが鎮まり、街には焼け焦げた匂いと血の生臭さが漂っていた。

 崩れた瓦礫の隙間からは呻き声が漏れ、救護に駆けつけた冒険者たちが必死に生存者を探している。


 その一角で――


 瓦礫に埋もれるように転がる男を発見した。


 大きな腹を丸出しにした、どう見ても、だらしなく丸々太った中年の男――持田大福である。

 本人はお腹を抱えた格好のまま気絶しているようだ。


 そして、そのすぐ隣には、ぐちゃぐちゃに引き裂かれた狼の化物。顔こそ原形を留めているが、残骸は辺りに飛び散っている。


「……うそ、でしょ」


 声を漏らしたのは彼を見つけた女冒険者だった。


 明るい金色の髪を顎のラインで切り揃えたショートボブ、軽鎧に双短剣を帯びた凛とした姿。

可憐さの裏に鋭い瞳を持ち、場数を踏んだ実力者であることは一目でわかる。

 だが今は、その彼女でさえ動揺を隠せなかった。


 ――こんな無茶ができるのは、世界冒険者評議会が選出する世界百強ランカーくらいのもの。


 人外じみた怪物揃いの“人間やめましたランキング”に名を連ねる存在だ。

 もしそんな大物がこの街に来ていたのならば噂のひとつくらいは彼女の耳にも入るはず。だが聞いた覚えはない。


 であるならば――この中年男が仕留めたと考えるのが自然だ。しかも、たったひとりで。


 これはまさしく偉業に他ならない。


 この狼の化物は、今回のスタンピードで“ボス”と目されていた存在。

 実際、多くの有力パーティが壊滅し、幾つもの命が踏みにじられた原因そのものだ。


 本来なら、数十の精鋭パーティがいくつも連携して、ようやく討ち果たせるような怪物。


「……でも状況的には、この人が仕留めたと考えるしかない……うーん、こんなどこにでもいそうな太ったおじさんが?」


 もちろん、他の誰かが討伐した可能性もゼロではない。

 だが、それは限りなく低い。


 スタンピードのボスを倒せば莫大な報酬が得られる――金銀財宝、そして強力な魔道具。

 そんな千載一遇の大チャンスを、わざわざ見過ごす者がいるはずがない。


 彼女は大福を見下ろしながら、疑念と戸惑い、そしてわずかな畏怖を覚える。

 だが同時に、なぜか目が離せなかった。


 ――この時点で彼が何者なのか、誰も知らない。


 ただ一つだけ確かなのは、この出会いが彼女自身の運命をも変えるということだった。


 消毒液の匂い。規則正しい電子音。

 目を開けると、真っ白な天井が広がっていた。


「……病院、か」


 声を漏らすと、カーテンを開いて医師が現れる。


「気がつきましたか、持田さん」


「……俺、生きてる……?」


「ええ。あなたは瓦礫の中で倒れていました。現場にいた冒険者に発見され、救助班と共にここへ運ばれたのです。

命に別状はありませんが、しばらく安静にしてください」


 短く告げると、医師は容体を確認し、足早に退室していった。


 病室には俺ひとり。

 静寂が戻ると同時に、腹の底から「ぐぅぅぅ……」と重低音が響いた。


「……なんだこれ、尋常じゃないほど腹減ってる……あとで自販でジュース買ってガブ飲みすっかな……」


 空腹の悲鳴を上げるお腹を優しくさすりながらも、あの光景を思い起こす。


 黒狼を噛み千切り、全身を駆け巡った灼熱。

 最後に気を失う直前も、意識の底で空腹に苛まれていた。


 どうやらあれは夢でも錯覚でもなく、本物だったらしい。


 喉の奥が乾ききって、声はかすかに震えていた。


「……ステータス、オープン」


 次の瞬間、視界に薄青い光のウィンドウが立ち上がる。


 この“ステータスウィンドウ”は、冒険者にとって呼吸のように当たり前のもの。

 ギルド登録時には必ず開示が求められ、数値とスキルによって等級が決まり、依頼の受注や報酬額の基準にもなる。


 要するに、冒険者社会では身分証にして履歴書のような存在だ。


 ……もっとも俺の数値は、十年以上ほとんど横ばいだったが。

 だからこそ、今目に飛び込んできた変化に息を呑む。


【ステータス】


 名前:持田大福(32)


 職業:冒険者(下級)


 レベル:21→28(+7)


 スキル:強胃袋モタレナイン→暴食覇道グラトニーロード


【能力値】


 筋力:42→76


 体力:39→81


 敏捷:31→49


 魔力:45→0


――


「おおっ! すげぇ本当にスキルが進化してる! それに各能力値もめちゃくちゃ上がって……は?」


 思わず二度見する。

 筋力も体力もバカみたいに跳ね上がっているのに、魔力だけがゼロ。


「……なんだこれ。下がるどころか、消えてんじゃねぇか」


 疑問が渦巻く中、視線をスキル欄へと移す。

 進化したスキル、その詳細を確かめれば答えがあるかもしれない。


【スキル:暴食覇道グラトニーロード】


効果


・摂取した食物エネルギーカロリーを溜め込める。また、体内に溜め込んだ食物エネルギーカロリーを消費することで一時的に能力値が上昇する。


・食物エネルギーを摂取した時、稀に能力値が上昇する。


・特定条件を満たすことで、専用技の使用が解禁される。


副作用


•急速なカロリー消費時に、極度の空腹・倦怠・眩暈を伴う。


•連発は極めて危険。


解禁スキル


•第一能力:喰滅掌デボウア・スマッシュ


 圧縮した熱量カロリーを拳撃に乗せ、爆発的に解放する破砕打。


「……なるほど。魔力がゼロになったのは、多分これのせいか」


 カロリーを身体強化や魔力に置き換える――そんなトンデモ機能が付いたせいで、俺の本来の魔力は消失したのだろう。

 だが代わりに、凄まじいスキルを手に入れた。


 食えば食うほど強くなるなんて――バカ丸出しの単純で、そして最強なスキル!

 食べることを何よりの至福とする俺にとっては最高すぎる仕様じゃないか。


 となると倒れた理由も単純だ。

 死にかけと興奮と怒りで、体内のカロリーを一気に使い果たした結果だろう。


 今度から気をつけよう、マジで……。


 とりあえずお腹がカロリーを欲しているから糖分たっぷりのジュースを買ってガブ飲みするか。


 と、病室を抜けて多目的室にある自販機に向かう。

 お目当てのジュースを購入していたところ、テレビからニュースが流れてきたので自然と気になり目と耳をかたむける。


「今回◯◯市にある◯◯ダンジョンにて発生したスタンピードですが……多くの被害は出ましたが、例年と比べればだいぶ抑えられたとのことです。

その要因として、スタンピードの“ボス”と目されていた巨大な狼型の魔物が、発生初期の段階で撃破されたのではないか、と専門家は分析しています」


 えっ、俺が喰われかけたデカい狼の化物ってボス個体だったの!?


 衝撃の事実に呆然と立ち尽くす俺などお構いなしにニュースは進んでいく。

 司会の隣に座る新人っぽいキャスターが首をかしげ疑問を口にした。


「あの、なぜその黒狼が“ボス”だと分かったのでしょうか?」


 すると専門家とテロップが出た白髪混じりの中年が答える。


「はい。スタンピードには必ず“核”となる個体が存在します。魔物の群れを統率し、周囲の魔力を引き寄せて急速に凶暴化させる存在ですね。今回確認された黒狼は、複数の冒険者パーティを壊滅させるほどの力を示しており、周辺の魔物の動きがそれを中心に連動していた。これらの特徴から、まず間違いなくボス格だったと断定できるのです」


 画面には現場映像。

 瓦礫だらけの街並みと、黒焦げになった巨大な狼の死骸。


「本来ならば、スタンピードが長引くほどに魔物たちは凶暴化し、ボス格もさらに強化されます。

しかし、今回はその“核”が早期に倒されたことで、被害が抑えられた――極めて運が良かった、と言えるでしょう」


 まさか、そんなヤバいやつとは思いもしなかった。

 驚愕の事実を聞き、思わずごくりと喉が鳴る。背中をじわりと冷や汗が伝うのがわかる。


「……あ、あぶねぇ……」


 ほんの一歩違えば、今ここに生きている俺は居なかっただろうことは明白だ。


 とはいえ、生き残ったし、ずっと戦闘ではゴミと思ったスキルが進化したしで、結果だけ見れば最高だった。

 ならば良しとしするか!


 腹を満たすためにジュースをガブ飲みしながら、俺は改めてステータス画面を思い浮かべた。


「……にしても、暴食覇道グラトニーロードか……」


 この進化したスキルが俺の未来を大きく変えていくのだが、この時の俺はそんなことも知らずに、ただ空腹を満たすことに夢中になっていたのであった。

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