召還
ホール側のゴルウォールは距離を取っている。対照的にアービィ側は近距離に対峙している。
距離を取ったゴルウォールが熱を帯びだした。
「ホール様、口から直線状の炎を吐きます!」
過去に戦った事の有るアービィが叫ぶ。
直ぐ様ゴルウォールから炎線が放たれる。
「ジル・ウェル避けろ!」
ジルは何とか避けたが、ウェルが間に合ってない。
当たる寸前に待機していた盾持ちが間に割って入り、両手で盾を押さえ防御態勢で固まる。
炎線は完全に防いだが勢いまでは殺しきれず、盾を構えたままウェルと共に吹き飛ばされる。
「大丈夫か。」
「問題有りません行けます。私は待機しつつ守りに入ります。」
「頼む。」
炎線を吐いた直後に魔道士が雷の魔法を顔に向け撃ち、弓持ちも攻撃を放っていた。
しかし奴は右のその大きな翼で、前方からの攻撃を防いだ。
翼は先程の魔法で雷を纏っていたが、角へ雷が集まっていく。
そしてまた奴は熱を帯びる。しかし今回は口ではなかった。
角から雷を帯びた炎が此方から見て、左からアービィの居る右側へ扇状に放出されていく。
今回は前後への範囲も広い。角へ雷が集まった時点で"脱兎"に魔力が篭ったので、俺は先に後方へ下がっていた。
俺の動きを見た他の奴等も下がったり身構えたりしていたが、数名間に合ってなかった。
槍持ちとアービィ側の盾持ちが攻撃を食らっている。
盾持ちが防げた様だが、雷の影響が出ている。槍持ちはモロに食らっているが、あれを食らっても大丈夫なのかと感心する。
「そこの二人一旦下がれ!」
下がってきた二人と待機の盾持ちに、アンシー強化薬とケングス鎮痛薬とナウィン雷耐性薬を、弓持ち二人と槍ちにトール強化薬Bを、魔道士と弓持ちにタノール回復薬とタノール強化薬とティラ強化薬Bをそれぞれ飲ませる。
薬の効果を覚えきれていない護衛に指示を送る。
護衛以外は各自の判断に任せる。
俺はシズー耐久薬とタノール強化薬と回復薬・ティラ強化薬Bをそれぞれ飲む。
ナウィン雷耐性薬は準備だけしておく。
アービィに視線を向けると武器に何かを塗布している、恐らく何かの毒だろう。
アービィはアンシー毒を塗りこんでいた、そしてウルン強化薬を飲み走力を上げた。
攻撃をしなければ一方的に防衛になるのは必至なので、近距離にいるゴルウォールへ一気に詰め寄る。
反応して来た爪を避け腹の下へ潜り込む。
今回はバゼラード[フィール]を使わず、右手にスティレット[ユゴモウス]・左手にダーク[クァンサー]を持つ。そしてダークを逆手持ちにしない。理由は攻撃を避けきれず防ぐ時に、両手で防ぐ事が出来るからだ。
それ程このゴルウォールの攻撃は鋭く、そして重い。
飛び上がりスティレットを腹に刺し、体を捻って腹を蹴り上げその時武器も一緒に抜きさる。
これくらいでは殆ど効いていないのは知っている。兎に角ゴルウォールの攻撃を見極めつつ、少しずつ自分の攻撃を入れていく。
腹から下がりながら攻撃を入れて行くと後ろ足付近に来た時、ゴルウォールが嫌がり後ろ足で払い除ける様に蹴る。
それを後方に飛び退き躱した瞬間に、太い尾に吹き飛ばされる。
「・・・お前等見てるだけじゃなく援護しろ!」
ホールが叫ぶ。
ハッっとした。アービィの動きをつい目で追ってしまった。他数名も同じだった様だ。
しかしホールとジルと槍持ちは、いつの間にか距離を取った方へ近付き攻撃を仕掛けている。
今しかねえ、三人の攻撃に気を取られているゴルウォールに"脱力"を飛ばし、紐状に練り上げた魔力で俺と繋ぎ継続して"脱力"を入れていく。
効いている筈なのにそこまで効果が現れない。それだけこのゴルウォールの基礎能力が高いと言う事なのか。
ゴルウォールは攻撃をしたり避けながら、何かを探している。
俺はその間に吹き矢に劇毒を仕込み、矢に魔力を注ぎ強化し視界から逸れた隙に狙いを付け吹き矢を当てるが、それ程効果が見られない。
「アール様、ゴルウォールは毒半減耐性を持っております!」
体勢を立て直したアービィが俺に叫び掛けてくる。
「大丈夫か!」
「これくらい何とも有りません!」
丈夫過ぎるだろアービィ・・・。
ホールは手数をそれなりに当てるも、あまりダメージを与え切れてなく若干苛つきを感じていた。
ホールの武器は両手剣ほど大きくはないが片手剣ほど小さくもない武器。
片刃で反りのある剣幅もある程度有る物だった。状況に応じて片手出両手で振り回している。
俺にあれを振り回すのは無理だ。
ジルは武器自体に氷魔法を込め直接攻撃や間合いを取った時に、武器を介さずに魔法を放ったりしている。
魔法を一瞬で数発出していく、伊達に"魔神"持ちではないのだな。
そして特筆すべきは槍持ちだ。彼の名はワンスと言う。
このワンスが恐らく一番ダメージを与えている。時折体が薄く光っているから、何かしら強化魔法を使っているのだろう。
常にゴルウォールを正面に立ち前脚や角攻撃を、躱したり受けたりしつつカウンター気味に攻撃を当てていく。
武器で攻撃を受ける時に、武器から物理的ではない盾の様なものが見受けられる。これも魔法の一種なのか。
その時後方で大きな魔力を感じ取る。魔道士が魔力を溜めているようだ。その前に盾持ちが守りに入っている。
弓持ち二人は此方は狙い難いようでアービィ側を攻撃している。そしてもう一人の盾持ちはこの弓持ち二人を守るような位置にいる。
さてウェルは・・・と言うとまだ後方に居る、まあ俺と同じような感じだ。
やはり戦闘系能力を持たぬウェルには荷が重すぎ、足が竦んでいる様だ。
無闇に突っ込み攻撃を喰らわないだけマシだろう。
「ウェル、お前は皆の護衛に回ってくれ。」
「は、はい」
何故俺は、この時こう言ったんだろう。
魔道士が溜まった魔力形成し終わり魔法をを放つ。
「炎だとっ!」
俺には炎攻撃を仕掛けるゴルウォールに、強力な炎魔法を仕掛ける意図が全く分からなかった
魔法に合わせてゴルウォールの足元の三人が飛び退く。
また翼で防がれると思っていると、翼で受けず直接踏ん張っている。
「やっぱりです!ゴルウォールの翼は炎が弱点です!本体はそれ程効きませんが無効でもない様子!」
おいこの魔道士何故気付いたんだ・・・。
そういう能力があり気付いたが、相手が炎を使う魔物だったから戸惑ったという所か。
戦い慣れているこの護衛達の切り替えは早い。弓持ちは各自一匹ずつ炎魔法を込めた矢で翼を狙い始めた。
ゴルウォール達の動きも変わってきた、明らかに翼への攻撃を嫌がっている。
そんな折ゴルウォールの視線がこっちに固定された。
そうゴルウォールは自分を弱体化させている張本人を、やっと見付けたのだ。
角が帯電したかたナウィン雷耐性薬を直ぐ様飲んだ。直後雷は俺に飛んできていた。
間一髪間に合ったがやはり衝撃は緩和出来ない様で、思いっ切り空中へ吹き飛ばされた。
(ああ・・・地面が遠い・・・再生貰っておけば良かったか。)
そんな事を思う暇が有るんだな、そしてそろそろ地面に激突かと思うと誰かに抱えられた。
それ程大きな体じゃない・・・しかし前方にウェルは居る。
振り返ると居たのは、珍しくニコっと笑っているリッケンだった。
「気になったカラ様子ミニ来た。そしたラ丁度アールここニ飛んでキタ。ウデと体ガ痛イ。」
此処に来たら俺が偶然飛んできただと。こんな状況なのに笑ってしまった。リッケンの"幸運"は俺を助ける事も幸運として判断したという事か。
幸運と言うより最早強運かもしれない。
ウェルが駆け寄ってきてひたすら謝っている。
「申し訳ありません、守れと言われたのに何も出来ませんでした。申し訳ありません、申し訳ありません。
「大丈夫だったんだ、気にするな。」
しかしまだ謝っている、大丈夫か・・・精神的に。
「リッケン暫く、ウェルを見てやってくれ。」
「分かっタ」
俺は前線に戻り途切れた"脱力"を仕掛けに、もう一度ゴルウォールを隙を探す。
「アール!大丈夫だったか。」
「着地点に偶然リッケンが居て助けられた。」
ホールの顔が少し笑っている。
「運が良すぎるぞ!」
「全くだ自分でもそう思う!」
一時の幸運に気が緩んでいた。ワンスが俺の意図に気付き位置を変えると、ゴルウォールはそれを追う様に視線を向け視界から外れた。これで"脱力"を入れれる。
騙されていたのは俺達で、故意に視線を逸らさせられていた。
唯一気付いたアービィだった様だが、加速を使っても到底間に合う距離じゃなかった。
俺の前に居るゴルウォールの尻尾が俺の方を向き、ビリビリとした黒い線状の攻撃を放つ。
しかし攻撃は俺の真横を過ぎていった。狙いはリッケンだ。
間に合わんと思った時、ウェルがリッケンを蹴飛ばした。
しかしその攻撃は軌道を少し曲げウェルを貫通した。
完全にゴルウォールが一枚上手だった。
思いっ切り蹴っ飛ばされたリッケンが、ウェルに這い寄り何かをしている。
「ウェーーール!!!」
そう叫ぶと俺は周りも見ず後方へ駆け出していた。
そして俺の背後を狙った追撃の炎線を吐くが、これは盾持ちが間に入り防ぐ。
「ウェル大丈夫か!!」
「触ルナ、動かスナ、薬飲まセタ。魔力の薬クレ、魔法ツカウ。」
そう止められ、タノール回復薬とティラ強化薬Bを渡すとリッケンは一気に飲み干した。
「俺ニ任セテ戻レ、魔道士連レテきてクレ」""
「しかし・・・」
・・・・・・。リッケンは喋らなくなった。
俺は魔道士の元に走り回復魔法を使えるか聞く。
「専門ではないですが、ある程度は使えます。」
「頼むリッケンの所に行ってウェルを助けてやってくれ。」
コクリと頷くと走りだし、盾持ちも一緒に後方へ付いて行く。
明らかにこっちの旗色が悪い。
何か無いのかと新しい能力の"半殖"に魔力を込めてみるが何も反応無い。これは戦闘用じゃない様だ。
次は召還に魔力を込める、すると脳裏にあったことの有る人物が全員思い浮かぶ。
何かと思ったが、こんな所で能力を試すのは危険で不味い。
俺はリッケンたちの居る後方に一旦下がる。
魔道士の名前はパルミックと言う。
「パルミック、ウェルはどうだ。」
「普通はどう見ても私の回復が間に合う怪我じゃ有りません。」
「なっ・・・」
「しかしこの魔法が凄いです。ウェンタークさんの傷口を見て下さい。」
ウェルの細い体に4・5cmの穴が空き、血が大量に出ている。
「血が固まってないのに完全に止まってるでしょう。」
本当だ。血がこれ以上全く流れ出てない。
「時間停止魔法です、私も初めて見ました。リッケンさん自身も止まってしまっていますが、抱えているウェンタークさんの時間も止まっています。生きている状態で時間停止したのでしょう。魔力回復が薬余っていたら分けて下さい。時間が掛かりますが出来る限りの事はします。」
あとはリッケンの持つ幸運頼みしかない、薬も使ってあるなら今の俺に出来る事は無い。
「お願いします。」
「はい」
今は振り返っても何も好転しないと分かってる、分かってるが辛い。
だが割りきって新しい能力の"召還"をもう一度試す。
名前が思い浮かぶ。召還と言う名前の意味をそのまま考えると・・・。
そして俺はエチゴールを思い浮かべた。
(なんだこれ。)
(その声はエチゴールか。)
(アールじゃないか、これは何だ。)
(俺の能力の一つだ。所で今武器持ってるか。)
(ドズに来てるから持って来てる)
そして召還にもう一度魔力を込める。
一気に大量の魔力を失った事に気付く。
強い光が輝いたと思うとエチゴールが居る。
"召還"は知っている者を呼ぶ事が出来るのか。
しかし魔力をゴッソリ持っていかれる。
「アールここはどこだ。」
「アデスランのパルイムだ。」
「あの港町が何でこんな事になってるんだ。」
ゴルウォール二頭に襲撃されている事を伝える。
「お前等馬鹿じゃないか。ゴルウォール一頭なら分かるが二頭は逃げろ。」
「しかしもう戦闘は始まってしまってる。」
「そしてウェンタークはこの様だ。」
「斃さなくても撃退でいいんだ。何か無いか。」
「態々(わざわざ)俺を呼んだって事はゴーレムだろう、と言うか俺にはそれしかねえ。
幸いここには瓦礫が沢山転がってるしな。魔力系の薬くれ、デカいの作ってくる。それまで誰もやられるなよ。」
沢山魔法薬持って来ておいて本当に良かった。
エチゴールに細い小瓶で3本ずつ渡すと、ゴルウォールとは逆方向に走っていった。
タノール回復薬をもう一度飲み、魔力回復を待った。
そしてもう一度召還に魔力を込めアイツを思い浮かべる。
(ちょっと聞きたいんだが攻撃魔法使えるか。)
これは何と聞いてくるが急いでるから答えろと言う。
当たり前だ馬鹿にしてるのか、強力な奴まで使えるぞと言う。
(触媒とか必要な物が有るならエリオに貰ってこい。)
そんなものは必要ないらしい。そして俺はアイツを呼んだ。




