第十七話 翔馬『あれ、僕必要ない?』
食堂で給食を食べながら最奥のテーブルをちらりと見る。後光がさしてると、ひっそりと拝む児童が続出、というその席は『双姫』と呼ばれる美少女達、拓君や今ちゃん達の主人である異様なほど美しく完璧な、圓城寺紗々蘭と、僕が愛する姫、桐生元佳様がいる。
もちろん圓城寺紗々蘭の配下達も守るように一緒にいる。二人と同じ画面にいても邪魔にならない美形揃いな、
「……でな、こいつ新しいスパイクを買ったんだけどさー、汚すのが嫌とか言ってー」
「良いじゃん! 仕方ないじゃん!」
同席中の男友達の会話に、
「ハハ、貧乏臭ーい」
明るく相づちを打ちつつも意識の半分以上は彼女に向けている。
姫様は、
「……だから飼うならレトリバーが良いのよ」
「大型犬ですか? ……似たようなのが家にはいますし」
「だからってなんでフェレット?」
「触り心地が良さそうじゃありませんか」
「……それは……そうね」
楽しそうに親友と談笑をしていた。
彼女達はいつも寄り添い合い、時に慕う女子達に囲まれながら幸せそうに学園生活を送っている。
「……良いことじゃない」
そのことを報告したら、姉ちゃんは呆れを隠さず僕を睨む、
「……良いことだよね」
けれど僕は、
「喜べない、のね」
「僕が、僕が幸せにしたかったって」
これまで何十回も試みて出来なかったことが、
「僕じゃない人達に」
苦痛も屈辱も感じなくなるほど死んで死んで死んだのに、
「……これまでが、全部意味がなかったかも知れない、なんて」
繰り返すことで一歩づつ幸福を目指していたのに、
「……そうねこれまではもう関係ないでしょう。元治君はイイヤツだし優菜先輩とも仲良し、優菜先輩と君のお姫様も仲良し、死神なんて呼んでた下のお兄さんはいい人って聞くしねぇ」
姉ちゃんが歌うように並べるみたいに、姫様の不幸の原因だった人達もみんな幸せそうで、
「僕、必要ない?」
姉ちゃんは僕のこぼれ落ちた言葉を否定しなかった。代わりに、
「……で、あんたはこれからどうしたいの?」
真っ直ぐ僕を見下ろしながらそう聞いた。
「…………僕、は」
その質問を、僕は答えられなかった。
その夜、夢を見た。いつかの不幸な結末の夢を、
「幸せにならないといけないのよ私はっ!」
横転した高速バスの車内、ガソリンの臭いが鼻をつくそこで、僕が恋に堕ちた少女は悲痛なか細い叫びを漏らしながら座席と車体に挟まれた僕を助けようとしている。
「元佳、きみ、だけでも」
朦朧する意識の中、そう告げた僕に、
「そんなこと出来ないっ! 私には翔馬だけしかないのっ!」
彼女は泣きながら答え、華奢な体を使い座席を動かそうとしている。真っ白で綺麗な手が汚れるのも構わずに、血を流しながら、
「優菜様と覚様が逃がしてくれたのっ! 兄様達も両親も捨てたっ! それでも私はあなたと生きることを選んだっ! だから」
その時爆発音と熱波を感じた。すると彼女は、
「……ああ、せめて来世は共に幸せに」
そう呟いて美しく微笑み、僕の唇を自らのそれで塞いだ。
──これが僕と彼女の始まりの終わり。
それから何十回も僕らはこの世界とこの器で繰り返した。
──詳細は異なるが変わらずに不幸な結末を。




