第十八話 翔馬『変わった世界、変わらない思い』
「ショウ君もうちょっと食べれそう? 俺は枇杷ゼリーを追加注文するけど」
「え、じゃあ……ミルクレープを、ゴチでーす!」
「はは、いっぱい食べて大きくなるんだよー」
「遺伝子的には……どっち似かよねー」
目の前には金色の髪の滴るような色気のある眼鏡男子、その隣には灰色の足れ目の軽薄な色気のある男子、隣にはストロベリーパフェを真剣に攻略している甘そうな色彩の美少女。
僕は今、姉ちゃんと共に、これまでの繰り返しで一度足りとも仲良くなれなかった人達──岸元の双子とお茶をしている。
ことの始まりはいつかの終わりの夢を見た一週間後。僕はまだあの時の姉ちゃんの質問に答えられていなかった。そんな僕を、
「あー、もうっ! ジメッとしてくる! 体、体動かしなさい!」
心配したのかうっとうしく思ったのか──多分後者──姉ちゃんは自転車通学許可書を手に入れて来た。
「……自転車通学……たしかに何人かいたねー」
大抵はスポーツマンの中高生だったけど、
「初等部生も出来るの?」
「覚先生に聞いたらメットとサポーター付ければ良いって」
……それならどっちも持ってるけど。
「だってバス通学は微妙に時間かかるでしょ? 待ち時間とかあるし停留所は微妙に遠いし」
同感だったのしばらく試してみることになりました。
「やあ、カッコカワイイ初等部生君、こんにちは? こんばんはかな?」
「んー、こんにちはじゃない? っていうか珍しいねー! 駐輪場に新顔とか、しかもビックリするほどの美少年だし!」
で、今日、チャリ通の初日の放課後の駐輪場──屋根鍵付き──で灰色の二対の瞳に興味津々って感じで見つめられました。
「え、あ、はい、こんにちは」
ニヘラと笑いながらも内心動揺しきりです。……だって、
「あ、俺、岸元栄次、高等部一年、で……」
「栄ちゃんの双子の弟の光三朗でーす!」
得意じゃない方の岸元さん達が目の前にいるんだもんっ!
「え、あ、桃園翔馬、初等部四年です」
「桃園? え、もしかしてピアニストの……」
「はい、お二人と同学年の桃園百合恵は姉です」
これまでの繰り返しでその姉を、何度となく傷つけられたからねっ! 特に金色の方に!
「……ん? じゃあ隣の自転車は桃園さんの?」
「あ、はい」
てな感じで内心戦々恐々としながら話していたら姉ちゃんが、
「うっわ、なんで双子が?」
と、到着……うっわて、
「「俺達もチャリ通だから」」
双子はマイペースに異様に揃って答え、そして金色の方が、
「で、これから予定ある? 良かったら付き合ってほしい所があるんだけど」
と、唐突に誘って来まして、で、
「……どこよ?」
「大学の第二キャンパスの近くのカフェ……男だけじゃ入り辛い内装なんだよ」
「看板メニューは季節のパフェだよ!」
「「行く!」」
と、まあ食いしん坊な僕達姉弟は釣られたって訳です。
……うん、何でこうなったんだろう。だって、この二人、特に、
岸元光三朗という男、彼と僕はとても相性が悪かったんだ。
明るく闊達で押し出しが強い彼と、明るく見せかけているけれど本質はネガティブで人間不信な僕。表面上は似ているのに根っこが全く違う僕達は、我が強すぎる彼に僕が愛想笑いで距離を置くという微妙な関係でした。ずっと、
まあ、恋人になった場合の、姉ちゃんと彼の関係はポンポンと文句を言い合うような、言わばケンカップルで、悪くは無かった、と思う。
ちなみにその双子の兄、岸元栄次と僕は……、
何とも言い難い関係。
彼が桜花院優菜、姫様の兄の婚約者と恋に堕ちた場合は……うん、姫様の保護者みたいな感じになっていた。
……姫様の実家を潰し、上の兄を嵌めた犯人だったけど、ね。
とはいえそれは記憶にある限りではたった二回しか無かった。だから僕にとって彼は、
圓城寺紗々蘭、姫様の友人の婚約者。である。
あのお人形さんに関しては今は語ら無いけど彼はとにかく彼女を愛し、守ろうとしていて……彼と近しい感情を持っている姫様とはなんだかんだと仲が良かった……気がする。
……だから姉ちゃんがこのエロ眼鏡にまいっちゃった場合は僕まで姫様に敵視されちゃって……まあ婚約者のいる相手に惚れ、そこまでは良いけどその感情を露わにし迫る、とか……うん弟であっても庇えないけど。
なんで彼とは、つねに互いに不干渉を貫きました。……仲良くする必要性を感じ無かったからね。
だから挨拶以上の会話を交わしたのは前回の………あの屋上のあれが初めてだったりしました。
そしてその会話分数記録を目的地に向かってる現在、着々と更新しています。
「ていうか二人なんでジャージ?」
二人は城生院学園高等部のダークブルーに白ライン、左肩に校章のジャージ姿です。
「チャリ通者に代々受け継がれてる技『クリーニング無料を活用しよう!』だよ!」
「スカートで自転車はあれ、でしょ? 桃園さん。汗くさい制服で授業、も」
「……たしかに」
自分の膝を見つめ頷く姉ちゃん、動き辛そうだよね。
「それより、カケウマ君? それ初等部の制服だよね? え、転入したの? ていうか出来るの?」
「あ、はい、コネプラス能力を買われて? な感じです……珍獣扱いされるくらい珍しいらしいですが」
蓄積があるんで結構優秀なんだよ僕。
「まあこの子、普通の天才だから」
「天才?」
「えっと、いわゆる完全記憶能力? を、持ってるんです」
「え、あのゴミ記憶も溜め込む?」
ええ忘却能力が無い。
「……はい、そういう感じの」
「「……大変だねー」」
似ていない顔を同じように歪めて呟く二人……って、なんか結構いい人じゃない!? この人達!?
……どうしよう、この今世ずっと感じ続けてる違和感がカタチになった感じ……ああ、
──もうこの世界に『規定路線』は無いんだ。
ほんとは気づいてた、圓城寺の社員になった父、淳司おじさんの存在、幸せそうに笑う姫様。
それを見ないふりしていたのは、
──これまでの繰り返しが否定されたように感じたから。
……でも、
……うん、そうだよね、僕は『今』ここで生きているんだもんね。
過去の自分を否定するつもりは無い、でも過去に囚われてこの恵まれた状況を無視するなんて……、
もったいない、よね?
──姫様に会おう。
『僕』が、幸せになる為に。
ああ……ロマンチックな出会いってどんなのが良いかな?
お店近くの駐輪場に自転車を置き、ポンポンと言い合う姉達の会話を聞きながら花々が咲き誇る前庭を通り、カントリー調の可愛らしいカフェに入る僕は、素敵な演出を考え初めた。
と、翔馬君が決意してから冒頭までの会話。
「それより桃園さん二人ってややこしいよね……下の名前で呼んでいーいー?」
「え、や」
「……じゃああだ名つけていーいー?」
「…………仕方ないわね」
「よし……んー、あ、カケウマ君? ってどういう字?」
「えっと飛翔する馬……普通ショウマって読む……」
「……おお、読み間違えて会話の糸口になる感じ」
「です」
「んー、じゃあ……あ、二人共名前の頭文字を音読みしてショウ君と百ちゃんで」
「……まあ、妥当、かしら?」
「よし、じゃあ連絡先交換しよ? 色々ここら辺の情報教えるし!」
「後、希望があれば外国語? 欧州の言語は大体ペラペラだし」
「大体?」
「演奏家の親に付き合って色々滞在……生まれたチェコ、からイタリア、フランス、ドイツ、ロシア、イギリス、アメリカ、と、まあ転々と」
「ピアニスト目指してる百ちゃんなら二三使えた方が良いでしょ?」
「……見返りはこういう店への付き合いでいい? ならイタリア語は第二外国語で専攻予定だから……チェコ語と……あと、ドイツ語の現代会話希望」
「……んー、僕はできれば全部……あ、ドイツ語は現代会話中心で」
「「……え、なんで現代って?」」
「……あー、ドイツ語はまあまあ出来るのよ……百年くらい前の上流階級風のは」
「僕らの曾祖母、ドイツ人だから」
「「え……ああだから赤毛」」
「そ、隔世遺伝、で、曾祖母に直接教わった父から教わった訳なんだけど……」
「……父ちゃん、古めかしいって笑われるらしくて」
「「ん? ……とりあえずしゃべってみて?」」
三分後。
「……そんなにおかしいわけ?」
「ひ、ご、ごめん……くくっ、いや、百ちゃんには似合ってるけど……ショウ君と、それから成人男性なお父さんがって……くくっ」
「だ、だって超お嬢様っぽいしっ! あ、ダメ、ツボ!」
二分後。
「「……とりあえずこれからよろしくお願いします」」
「「う、うんよろしく……ははは!」」




