第十一話 一玻『パスワードは……』
「は!? 転生者がてめぇとその栗原とか言う娘以外にもいる!?」
大企業の総帥とは思えないような巻き舌満載で我が主人が叫びました。
ここは圓城寺邸内の築八十何年の洋館、薔薇屋敷、通称別邸の第一応接室。今日は、昨日行われた運動会の振替休日で、自宅でまったりしている紗々蘭に一昨日のサプライズについて殴り込みをかけたところあっさりと返り討ちに遭い、なんだかんだお昼を作ってもらったりゴロゴロと過ごし、そしておやつの時間の今、私が情報を共有していた仲間と、私を前世の記憶持ちと見抜いた紗々蘭と彼女の『七席』の年長組と、岸元兄弟に桃園姉弟の総勢十七人で、紗々蘭が作った苺大福を食べながら私が色々と語っている訳です。
「う、はい……多分かー君は気付いてると思いますが……なんて言うか……桐生兄弟、まとも過ぎですよね?」
初めて出会った同じ能力を持つ少年──桃園翔馬君に水を向けます。……彼、多分あのデッドエンド祭の被害者ですし、
「え、あ、はい……まとも、ですよね……僕生きてますし……」
「ですよねー!」
……はい被害者でした! ……うう、良く堪えましたね。
「……いやあの……どういう意味?」
あー、はい、一宏君、そうですね顔引き攣りますね。
「あー、その、簡単に言うと彼ら狂人、でした……二人共。僕、姫様と親しくなるとほぼ必ず、殺されてましたから」
「……わー」
楪ちゃんのその吐息はこの場の全員の代弁です。
「ちなみにそれ、ゲームでやりました」
エクストラが一番闇ゲー!? と、叫びながら、
「いやん、恥ずかしいですー」
……あー、かー君……君……はい、そりゃ茶化すしか無いですよね。
「で、だから転生者がいると? だが……」
……紗々蘭……切り替えが早過ぎませんかっ!?
「っすねー……少なくとも元樹は違いますよ? つーか、そんな簡単に人格を変えられるんすか?」
妹っ!? あなたもかっ!? ……はあ、
「変えられますよー。ほら、ここにいる岸元兄弟がその見本です!」
……はい、空元気です。
「あ、確かに……特に栄次君と光君は別人……ってほどじゃないけど変わってるけど……え、一玻ちゃんが?」
……かー君……強い子っ!
「じゃなくて香奈子……ええと紗々蘭の母親が岸元家がプラハに居た時に知り合いで……」
「あ、三兄弟の初恋って話?」
あ、ユリちゃんは聞いてましたかー、
「あー、はい……で、香奈子にはその……かなり色々語っておりまして……三人の公式な彼女とか攻略法とか……あ、いやまあ、攻略法は使えたかはわからないですけど」
攻略法はほぼ無いに近いですし……特に、はい、メーカーさんは……はあ、
「……とにかく! 幼少期に働き掛ければ! まとも、に? 出来るのですよ!」
ええ! 当社比で三十%ほど皆さんまとも? ですからっ!
「……で? つまり?」
……はい話を戻しますお父さん。
「……ええと多分年齢的に桜花院覚様か優菜様か桐生元治君、の誰か、だと思うのですけど……」
「ええと、でもその理屈なら他にも……例えばミナモさんとか」
「は、違いますよ光三朗君。……だってミナちゃん……オタクじゃないですからっ!」
それは大学時代からの友人でよく冷たい目で見られている私が断言します!
「あのですねー! ファレコンは同人なんですよ! 市販の乙ゲーに飽き足らなくなって手を出すラインのゲームなんですよ! そんな人間が転生したからといってオタクから抜けられるか? いや無理だ!」
沼からそう簡単に脱出出来ますかっ!
「……で?」
…………さ、紗々蘭さん? あなたもそんな冷たい目で……う、はい、
「……え、あー、オホン……つまりオタクもしくは隠れオタクかと」
「んー、だったら普通に優菜先輩じゃないの? だって乙女ゲームなんでしょ?」
……あー、そう単純じゃないんですよねー。ユリちゃん。
「……あー、いえ……2とエクストラはギャルゲーでしたし……それにファレコンは女子のスチルが美麗と界隈で評判でしたし有名漫画家さんがやっているとブログで紹介しててかなり知名度が……っていうかオタ仲間に乙ゲー好き男子それなりにいますよ?」
っていうか三作合わせれば男性ユーザーが半数近いかも?
「……ええとあの栄次さん? 栄次さんと光君は桜花院家や桐生家によく遊びに行っていますよね? ええとそのオタク? な方は……」
紗々蘭! ありがとう聞いてくれて! いや……ゲームでのトラウマ……なかなか消えないんですよ。
「んー、それなんだけど……多分全員ライトなオタク、桐生家のリビング、ゲームと漫画だらけで……それを桐生兄弟だけじゃなく桜花院兄妹もやったり読んでる……でも同人は見たこと無いな……あ、優菜先輩が乙ゲーやギャルゲーに文句言ってるのを聞いたことはあるけど」
「文句!?」
まさかあの優菜様がオタク!?
「あー、もっと乙女ゲームのヒロインのスチルが欲しい、とか、ギャルゲーのヒロイン達は尻軽っぽいのが嫌、だっけ?」
……ん?
「ああ、ただタイミングが良いだけの主人公にコロッとが不愉快だとか」
……あ、ただのかわいこちゃん好き?
「確か優菜ちゃんがヒロインに一目惚れしてジャケ買いしたゲームについて愚痴って、で、だったらギャルゲーで良いんじゃ? って明石ちゃんが言ったら……だったっけか?」
……はい、かわいこちゃん好きですね。……ですが! きっと!
「でも確かその時覚先生とハル、ゲームの内容について話してなかった? 確かあのシーンが良かったとかあそこの声優さんの演技笑えた。とか」
え、三人でやって……、
「………………誰、ですかねー」
とりあえず全員と語り合いたいけど!
「……うん、とりあえず未確定な方とはそろりとコンタクトを取ることにしましょう……で、確定済みの方……栗原綾那さん、なんですが……」
主に今期のイチ押しとかからそろりと、
「ええとあの、それ確定、なんですか? ……栗原さんが一連の犯人、って」
……あー、楪ちゃんは同じクラスでしたねー、
「あー、はい……昨日緑君と今璃に私が死んでいる、と思っている言動をした人、と聞いて彼女の名前が上がりましたので……緑君と史君の出会いイベント、的なことでゲームの選択肢まんまの発言があったそうですし……間違いないかと」
兄弟についての話の流れでおや? なことをおっしゃったり、緑君に気の無いそぶりな発言をしたり、史君の前でこけかけたり……ほぼ確定ですね。
「……でもあの嫌がらせは去年から」
「実行犯は別にいますので」
脅されたり雇われた方が、
「………………でも」
……そうですよね、なかなか信じられませんよね。……では、
「……とりあえずその栗原さん? の映像を転送してもらいましたのでそれを見て……二度なら偶然もありえるかも知れませんので」
彼女のヒロインその2を演じるあまりにブレブレな言動を見てもらいましょう。
私は大型モニターに接続したタブレットを操作します。
「あー、はいこれは春日井柊耶君の初単独イベントですねー……廊下を走り注意を……で、生徒会としての自覚を持てと言われる……ここで「……すみませんでした、もう行っても?」って言えば……あ、言いませんでしたね……「すみませんでした! 今後は気をつけます!」か……まあ、リアルでのヤンデレ回避は当然か……」
優等生らしい彼女が態度悪っ! を見てもらおうと思っんですが……、
「え? 一玻さん?」
「あ、はい、これ攻略不能になる選択肢なんです」
そりゃ監禁は嫌ですよねー。
「……あー、はい……転生者ですね」
あ、ユリちゃんはかー君情報で……はい、納得してくれて嬉しいです。
「……で、次は……あ、生徒会入り前の桜花院覚様との遭遇……あれ? これはユリちゃんの? 楪ちゃんの?」
副担任じゃないですし……楪ちゃんバージョンですかね?
「ちなみに私だと?」
ユリちゃんバージョンですか?
「教室移動で迷って助けられ飴ちゃんを貰う、ですよ?」
セクハラ? なイベントです。
「………………あの、それ去年ありました」
「……………………え」
「飴、貰いました」
……つまり転生者、は、
「………………とりあえず覚と栗原嬢の初遭遇の映像を」
はいすぐに!
「……あ、ユリちゃんバージョン、飴ちゃんをポケットに」
「……あの、なんか去年と多分同じ台詞です」
…はいなるほど、
「……あー、栗原さんここは好感度アップの選択肢を」
「……別れたな……あ!?」
え、優菜様と元治君合流!?
「三人で!? え、カメラ目線? え、なんですそのポーズ……」
三人でカメラ目線でニッコリ笑いながら下を指差す?
「……元治との初遭遇は?」
「あ、はい……これもユリちゃんバージョン……あー、楽譜を……優菜様が拾って……うん、元治君が睨む、あ、「あの、あなたも手伝ってくれませんか?」……こちらも好感度アップかー……はい、その後の流れもゲームのままで覚様が合流して三人になり……」
同じくカメラ目線で下を指差す……このポーズは、
「……詳しくはウェブで?」
ですよね、テレビ番組とかで良くある。
「ウェブって」
「生徒会のじゃね?」
「……あの開きます」
学生の物とは思えないそれをモニターに、
「隠しリンク、ですよね……多いんだよな……うちの」
どこに……あ!
「左下に『FLC』って……」
これは完全に……、
「……タップします」
「パスワード……ヒントはFLCは何の略? それはもちろん……」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
……できれば同士希望です!




