第二話 一玻『聖女~オタク』
いくたび生まれ変わっても、私は執着を知りませんでした。
いくたび生まれ変わっても、私は恋を知りませんでした。
……この生までは。
「あなたに恨みはありません。けれど私達が幸せになる為にはあなたが邪魔なのです」
──邪魔だからって長らく共に戦った戦友兼婚約者を殺すのはどうかと思います。って言いたかった。
「すみません聖女様。……ですが安心してください! あなたに代わってこれからはわたしが聖女として勇者様を支えます!」
──邪魔って理由で上司的立場の人間を殺す子が聖女になるのはどうかと思います。とも言いたかった。
「さようなら……叔母上」
──けれど私は何も言えぬまま、甥であり婚約者であり戦友であった勇者の手で殺された。
目を開くと、未完に終わったバイブルでの私的最押しカップルの、世界に一つだけのポスターが飛び込んできた。
「……っつー、頭痛い……っていうか最初の最期の……ってことは私に死期が迫っているという……」
散らかり放題の自室で目覚めた私は思わず頭を抱える。今の夢は何百回と私の終わりを告げたもの。
「マジですかー。……私まだギリ三十代なんですが」
やりたいことも読み終えていない本も山ほどありますのに……。
「……はー、片付けましょう」
この時の、前世までの私には天命に逆らう気概がありませんでしたのでサラっと受け入れられたのです。
まずは司法書士に連絡して遺産のすべてを弟に遺す遺言状を、そして部屋のクリーニングの予約、荷物は……大好きな趣味グッズは同好の仲間達に、大量の漫画とラノベは図書館に、衣服等の生活用品はすべてリサイクルショップに……、
「後はゲーム……仲間で欲しい人がいれば良いのですが……」
一枚ずつ箱に詰めていく、するときちんとケースに入っていなかったのか光りながらROMが床に転がり落ちた。
「……ファレコン……うわー、なんという不吉さ」
それはあまりにも長く、長く、繰り返している世界を写した恋愛ゲームでした。これは縁がありお会いした時に制作者ご本人に確認したから間違いありません。しかも……、
「エクストラの悪役令嬢ルートのハッピーエンドは……」
その数時間後に……、
「……できれば行きたくはありませんが」
私が『課長』とのあだ名をつけた有能すぎる管理者に話が行かない訳が無い、そして……、
「厄介な程捻れた世界。そして私がゲームでのぞき見たことがあることを鑑みるに」
早晩訪れることになりそうですね。
「じゃあ、例のゲームの世界に……頼むね?」
片付けを終えて受けた人間ドッグで、神妙な表情の医師に余命を宣告された私は、職場や仲間達に別れを告げ、弟に看取られながら既に確定し、緩やかな時間が流れている世界を去った。
……同僚からは笑顔で叱られ、仲間からは泣きながら叱られ、弟からはため息をつかれました。
そして死後、世界の狭間にて、申し訳なさそうでいて面白がっているような雰囲気の『課長』に派遣先を告げられた。
「拒否権は……」
「やり直しのきかない最後の一回、万全を期したい」
「……重いですよ」
「でもほら、君の大好きな二千年代初頭の日本だし」
「そもそも恋愛関係は苦手なのですが」
「大丈夫、君に頼むのは何人かの延命だから」
「……誰の?」
「それはあちらに着いたらわかると思う」
「……確約はできませんよ?」
「だが我が切れる最強の切り札は君だ」
「……行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい……『図書館』」
薄れゆく自意識の中で私は思った。
──ヒロインその1だけは勘弁。と。




