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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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彼女はヒロインその2、又は、臆病なピアニスト、でした。3

 






今璃いまりちゃんと会えるのは良いけどサイコパスは嫌ぁ!」


 弟の部屋で私は折り畳みテーブルに突っ伏し叫ぶ。


 ここはつい先日越して来たばかり我が家。住宅街にある、コミュニティーバスのバス停までは徒歩五分、商店街までは徒歩十分、そして学園までは徒歩三十分の圓城寺えんじょうじグループが社宅として4フロアほど所有している防音マンションの、八階の南東の角部屋っていう日当たり良好な3LDK。私の部屋はグランドピアノに占有されてるから両親が在宅時、弟の『過去』について話すのはここなの。


「んー? 僕はともかく姉ちゃんはそこまで怯え……あっ、兄に近付く雌豚呼ばわりされてたことが……」


「何なの! そのブラコン発言!? ……シスコンかつブラコン……ちょっと無いわぁ」


 今、私達姉弟が話し合ってるのは、明日の放課後にある中等部生徒会との顔合わせについて、中等部生徒会には聡明かつ可愛い今璃ちゃんが所属しているんだけど弟情報での危険人物四天王のラスト、桐生元樹きりゅうもときが所属している可能性も高いのよ……そんな彼は、


「……兄と妹に近付く人間は全て選別、それでいて自分に近付く人間は全て受け入れ、利用されることもしばしば……兄妹に対するコンプレックスが暴走しているわね……」


 でも……、


「あの桐生君が弟を利用するような馬鹿を蔓延らせるとも思えないのよねぇ」


 桐生君は基本的に面倒見が良い良い奴だけど、やる時はやる、らしいし。


「んー? やっぱり元樹先輩も違ってるかもね……っていうか違ってて欲しい! 全力希望!」


 弟は天を仰ぎ祈るように叫ぶ。過去生で、学力特待生として中等部から城生院学園に通うことになっていた弟にとって、関わりがほとんど無いその他の危険人物達と違い桐生元樹は差し迫った危機で有り続けたのだから仕方がないとも言えるわ。……まあ、それ以上に、


「君が『姫』を得る為の最大の障害、なのよね?」


 らしいの。


「……何度と無く排除されましたから……この世(・・・)からも」


 弟が成人すること無く数十回の人生を繰り返している最大の原因だとか、


「……何時聞いても物騒な男ね……」


 彼の家の財力と権力を鑑みれば、さもあらん、って感じだけど、


「……兄の方がえげつないけどね」


 ちなみに第二位がその兄……彼の方が真綿で首を絞める感じに酷かったらしいわ。


「……まあ、私の場合、桐生君とは良い友人、それ以上に優菜ゆうな先輩と仲が良い、ってアピールすれば……うん、平気よね」


 そうそう! 同級生男子の他に先輩のお姉様系美女達とも仲良くなれたのよ! ……彼女達と話している時の方が女生徒からの視線が痛いのは仕方がないわよね。


「それから、慰めるような発言と励ますような発言をしなければ、恋愛フラグも完全消滅だね!」


 ……付き合っていた『私』もいたそうよ……その時も弟は排除されたらしいけど。


「……とりあえず、今璃ちゃんと学園でも仲良く過ごせることを目標に頑張るわ!」


 恋愛より友情よ!



「はじめまして! ボク、一戸いちのへ今璃と申します! 諸先輩方、よろしく御鞭撻お願いします!」


 翌日、今璃ちゃんが中等部生徒会の最後を締め、両生徒会の挨拶が終わったわ。



 そして翌週……、


「……あー、今日の一年生は一戸だけなのか?」


 高等部組の微妙な空気を代表し桐生君が尋ねるわ。君は本当に面倒見が良いわね。


「あー、はい……他は……休職中です」


 代表──生徒会長の中等部での呼び方だそう──の二年生、磨見穂蔓まみほづる君が申し訳なさそうに答えるわ。……まあ、特待生はほぼ出ないのが当たり前だと折り込み済みらしいし、仕方がないけど……、


「……成績優秀者は?」


「…………実は差し障りのあるタイプで……ちょっと困った野望を周囲に語り……辞めました」


 ? 差し障り?


「……ああ、タブーを恐れないタイプか」


 ………………?


「タブー?」


 あら、思わず声に、


「くくっ、桃園ももぞのさんは聞いたこと無い? 婚約者のいる人間に……」


「ああ、なるほど……それは仕方がないわねぇ」


 むしろ、婚約者のこととなると箍が外れがちだと聞く皆さんの怒気を感じ無いで済んで幸運ね。


「……はあ、二、三年もまともに出るのが片手で数えられるぐらいなのに……大変だな」


 そう、今日この場に来た中等部一年生は今璃ちゃん一人、二三年は六人、桐生君の発言から考えると一人はサブメンバーらしいわ。


「くくっ、じゃあ元樹君に生徒会入りを命令すれば?」


「……可愛い弟が熱中出来ることを見つけたんだ。邪魔は出来ん」


 そうなの、桐生元樹君は生徒会にいないの。学年トップの成績の彼は、部活に集中したいと辞退したそうよ。……やったわね! ……けど、


「……はあ、いまちゃん……紅一点で大丈夫?」


 この優菜先輩の発言からわかる通り、二三年は全員男子なの。


「んー、職場でも概ねそうっすからねー、慣れてるっす」


 ……それはまた……潤いの足りない職場ね……。


 ちなみに先週、帰宅後、弟にそれを報告したところ、


「部活に邁進! 妹離れ!?」


 って、喜んでたわ……けど、


「桐生君の様子を鑑みるに兄弟仲は……」


 変わってなさそうよ?


 弟は崩れ落ちたわ。



「眼福ってこういうことを言うのね」


 弟が『僕が姫』と出会えたと歓喜雀躍していたのも記憶に新しい、五月の第一日曜日。私はグラウンドでは無くだだっ広い体育館で行われている初等部の運動会を見に来てる。もちろん弟の応援に……まあ、絶世の美少女だと聞く『僕が姫』と圓城寺のお嬢様を鑑賞、も割合の大部分を占めているけどね。


 ちなみに準備を手伝った生徒会は一切小学生達と絡むこと無く今日を迎え、そして今日はお役御免。理由は去年ある執行部員が盗撮用カメラを忍ばせてたからだそう。……優菜先輩がその退学になった生徒に呪詛を送っていたわ……妹のように可愛がっている少女を合法的に応援する機会が消えたのがつらすぎるんですって。


 そう、初等部の学校行事は見学者が極めて限定されているの。簡潔に言うと二親等までに。……まあ理由はつまり。


「……あの眼福過ぎる二人を守る為よね」


 ポニーテールにしたぬばたまの黒髪の美少女、圓城寺紗々蘭(ささら)さんと、茶色の縦ロールをツインテールにした美少女、桐生元佳(もとか)さんの為、でしょう。


「……弟、君ってば面食いだったのねぇ」


 私は初めて視認した『僕が姫』──桐生元佳さんを鑑賞しながら小さく呟いたわ。


「……完璧に整った容姿と華やかで気品と自信に溢れる物腰……あれは諦められ無いわぁ」


 弟の思い人である桐生元佳さんは実に正統派なお姫様っぽい顔立ちの美少女だったわ。逆に圓城寺の姫は悪役やライバルっぽい顔立ちね。……でも、


「『僕が姫』の方が悪役っぽい言動、なんだったわよね……」


 弟情報では『私』は幾度と無く彼女にきつく窘められたらしいわ。……まあ兄達に近付く身の程知らずな庶民……そりゃ、そうなるわね。



 その後、臨時の売店で会った桐生君ご一家──次男は練習試合でいなかったわ──とご挨拶を交わしたり、父に連れられ理事長先生、兼、圓城寺グループ総帥にご挨拶をしたりとなかなかにブルジョアジーな一日だったけど恙無く終わり。月末の初等部舞台発表会も問題無く鑑賞し私は気付いたわ。


「春の時点で私の破滅フラグは無くなったわよね」


 すると弟も胸を張り言ったの。


「ふふふ、実は僕の破滅もほぼ無くなったんだ」


 と、そして私達姉弟は顔を見合わせ誓い合うの、


 ──これからは幸せな学園生活を楽しもう。と。





   

 


 四月初め、入学前のヒトコマ



「姉ちゃん、その曲は良い曲だけどたまには違う曲にしない?」


 僕は姉の部屋から流れて来る有名ピアノソナタの音色にうんざりとしている内心を隠さず提案する。ピアニストを目指してる姉は、ここ最近はずっとそれだけを弾いている。それも何処か駆り立てるような第一楽章を連続で、


「せめて穏やかな第二楽章と軽やかな第三楽章も続けてよ」


 姉はピアノを奏でる手を止めることは無かったが、僕の頼みを聞き入れ第三楽章まで続けてくれた。……けれど、


 ──恋の甘やかさは表現出来ないのに迫り来る絶望感は余すとこ無く表現出来るとか……、


「……姉ちゃんってホント詐欺だよね……」


 砂糖菓子のような外見の姉の内面とのギャップに、僕は彼女のこれからの学園生活を思い、深く溜め息をついた。





 

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