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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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彼らは実直な風紀委員長と和風眼鏡っ子、でした。1

お久しぶりです。

第三章二組目は、風紀委員の柊耶ちゃんと乙女ゲームには登場していない子鞠ちゃんです。

全五話、約四万字、初めと最後を除き男女交互視点です。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

  


 【わたしの好きなもの】



 わたしの好きなものはニルギリにクロワッサン、大茴香スターアニス丁子クローブの香り、絣の着物に海と星と絵と刀、そして何より柊耶しゅうやちゃん。



 【愛が無ければ色々と駄目】



 わたしは鴇田子鞠ときたこまり十二歳、ぎりぎり都内にある剣術と抜刀術を教える道場の一人娘です。


 師範をつとめる父と専業主婦の母は二回り以上年が離れており、三人で出掛けると必ず父、娘、孫の三世代だと思われます、けれど両親は見ているわたしが赤くなるくらいの熱々ぶりで……、


 なのでわたしは実感しています。


「つまり、愛さえあれば年の差なんて関係無い、のです」


「子鞠さんのご両親ほど離れていらっしゃって、尚且つ仲睦まじいのは稀有だと思われますけれどね」


 会話の取っ掛かりになるかな? と、二人っきりのお茶会の席でわたしはとりあえず持論を語りました。そんなわたしの発言に白地に藍の小紋に菖蒲色の帯を締め風鈴のかんざしで艶やかな黒髪を飾った息をのむほど美しい城生院学園初等部三年生──圓城寺紗々蘭(えんじょうじささら)ちゃんがクスクスと笑いながら相づちを打ち、優雅な手捌きで紅茶を入れてくれます、


 そんな彼女と同席するのは茄子紺の単に萌葱の袴、何時も通り耳下で揺れる三つ編みに飾り気の無い黒縁眼鏡の地味一重の城生院学園中等部一年C組美術特待生のわたしです、


「ふふ、今日は甘さを控えた桃のタルトに渋味の無いキャンディーにしました。子鞠さんのお口に合うとよろしいのですが……」


 彼女に見とれつつ縁というものの不思議を噛み締めていると、どうぞ、と、紗々蘭ちゃんがお茶とケーキを差し出してくれます。今日のお菓子はサクサクとしたタルト生地にたっぷりとカスタードホイップを詰め、みずみずしい桃をこれでもか、と、敷き詰めた桃のタルトです。合わせるのはガラスのティーカップに注がれたキラキラとした紅色の紅茶、目にも美味しいそれらを見たわたしは、いただきますもそこそこにフォークを入れ口に運びます、……うーん!


「美味しい~! ほんと紗々蘭ちゃんはお菓子作りの天才だよね~!」


 一口食べたわたしは思わず感嘆の声をあげます。紗々蘭ちゃんと友人になって二年、当初は簡単な焼き菓子──とっても美味しかった──レベルだった彼女の腕前はうなぎ登りし、最近はデコレーションケーキにパイ、タルトにシュークリームとどんどん難度と華やかさを増している、


「んふふ、サクッとしたタルト生地と軽くなめらかなカスタードホイップ、ジューシーで爽やかな桃の完璧な調和! わたしの好みに合わせて茶葉を控えてくれた紅茶と共にいただくとさらに美味しくなって……もう最高!」


 わたしは美味しいお料理はとにかく褒めることを金科玉条にしています、経験則としてそれが誰もが幸せになることだと知っていますので……主に料理が趣味で特技の恋い慕う彼のおかげで、ちなみにわたしは台所と相性が悪い体質……何故か炭化と液状化がついて来る……別に良いですけど……、


 少し落ち込んだわたしは気分を上げる為にタルトをほうばります……うーん、やっぱり美味しい! 


「ふふ、子鞠さんは美味しく食べてくださるので作りがいがありますね」


 わたしがゆるゆるな顔でタルトを食べ切ると、紗々蘭ちゃんは真っ白な意外と大きな手──ヴァイオリンをやっているからでしょう──で口元を隠しながらふわふわと笑います。


 そんなご令嬢な彼女と二人で過ごすここは女性が好む可愛らしい家具が落ち着いた室内に置かれ、薫る花達が飾られた圓城寺家別邸第三応接室。この部屋は四度目にお呼ばれした時に通された瞬間に一目惚れし、それに気付いてくれた紗々蘭ちゃんが良くお茶会を開き招待をしてくれてます、


「だってスッゴく美味しいから、エヘヘ、紗々蘭ちゃんのお婿さんになる人は幸せ者だねぇ」


「ふふ、子鞠さんのお婿さんも幸せ者ですよ、見ている者が幸せになるくらい美味しそうに料理を食べて、他者を悪く言わない女性のお婿さんになるのですから」


 んー? 美味しそうに食べるのは美味しいものを食べれば誰でもそうなるし、悪口を言わないのは単に言ったらわたしが嫌な気分になるからで別に褒められることじゃないと思う、けどまあ紗々蘭ちゃんが長所だと思ってくれているなら、


「エヘヘ、ありがとう紗々蘭ちゃん」


 これからは長所に数えるかな?



 さて、応接室が三つも四つもあるお屋敷を持つ家の一人娘である紗々蘭ちゃんと、歴史()ある道場の一人娘のわたしは財力はかなり違うけど同じ家付き娘で着物好きの香道好きってことからわたしが姉のように慕う圓城寺出入りの呉服屋の若女将にご友人にどうでしょうか? と、お見合いっぽく紹介されました。


 当初は身分や年の差があるし仲良くなるのは無理かな? って思ってたけど紗々蘭ちゃんは飾らない可愛らしい女の子だし圓城寺の方々はノリが良いしって感じで数ヶ月で馴染み、紗々蘭ちゃんとは晴れてお友達になり、今日に至ります。


「で、愛があれば年の差なんて、ですか? ふふ、そういえば子鞠さんは年上の幼なじみに恋をなさっているんでしたね?」


「エヘヘ、わたしと彼はたった三つ違いだけどね」


 はい、わたしが今日、夏休みで帰省中の東京の片隅の実家から、家よりもどちらかと言えば都心に近い桜花市──つまり結構遠い、もちろんわたしは寮生です──に来た理由、それは紗々蘭ちゃんに恋愛相談、というか愚痴、というか泣き言を聞いてもらう為、でした、けれどなかなか泣き言は言い出しづらく……少し猶予がほしい、と、


「えっと……その、とりあえずわたしのことは置いといて……紗々蘭ちゃんは良い方と出会えそう? 釣書、いっぱい貰ってるのでしょ?」


 わたしは彼女の恋愛事情を尋ねることにしました。お婿さん候補募集中の紗々蘭ちゃんは月に十名もお見合い相手を紹介されているそう、聞いた時はギョッとしましたが紗々蘭ちゃんから差し障りのないぐらいの事情を説明されて一応は納得しました、


「ええ、ふふ、そうですね……なかなか良い方は……猶予期間がまだあると思うと理想ばかり肥大して……そろそろ焦るべきなのですが……」


 紗々蘭ちゃんふわふわと笑いながらわたしのわがままを聞き入れ自身の恋愛事情を語り初めてくれます。そんな優しい彼女は少し特殊な家に少し美し過ぎな容姿で生まれ、それ故安全の為に行動範囲が制限されています、けれど一般的な上流階級の社交デビューの年齢上限である十代に入れば公の場に出ない、イコール欠陥、ということになるらしく彼女が家を継ぐのに差し障りが出るそう、なので、


「んーと、確か決まった相手無しにパーティーに出るとモテ過ぎて大変なことになるから中等部に上がるまでに選べなかったら一番誰からも文句の出ない方、と婚約するんだよね?」


「……それだけは避けたいので最高学年になったら適切な方と婚約します」


 容姿、家柄、財力、全てが極上な紗々蘭ちゃんはわたしが第一候補の方のことを言うと麗しい眉間にしわを寄せます。聞くところによるとその方とは生理的に無理とお互いに思っているそう、なのに何故現在も第一候補かと言えば傍目には素晴らしくお似合いなカップルに見えるからだとか……確かに断るのが難しいですよね……人格にも問題の無い美少年を生理的に無理って、ただのわがままみたいですし……、


 …………ん? いや、それよりも紗々蘭ちゃん? 後半に何かおかしな発言が……、


「あの、確かに互いに不幸にしかならない婚約はまずいと思うけど……えっと適切? な方と?」


「ええ、圓城寺を支える能力面が優秀な方達から選ぼうかと……あの方ほど受け付け難い方はいないでしょうし……」


 ……うん、 跡取り娘としては適切かも知れませんが……乙女としてはおかしい発言です、


「……んっと、紗々蘭ちゃんの異性に求める優先順位って何?」


「んー? 一番は遺伝子、二番が能力、三番が容姿、四番が周囲、五番が人格ですかね?」


 …………………………、


「……あの、人格が五位って…………紗々蘭ちゃん? 結婚相手だよね?」


「ふふ、もしそこまで切羽詰まったらよっぽど人品が賎しい方で無ければ良いかな? と」


 紗々蘭ちゃんは紅茶の水面を見つめ、ふふふと乾いた笑い声を上げます……どれだけ第一候補の方が苦手なんでしょうか……いえ、それはともかく!


「いや、駄目だよ!? 一緒に暮らす相手だよ!? 最低条件緩過ぎだから!? せめてもう少し夢を見よう!?」


「…………え、夢、ですか?」


 紗々蘭ちゃんはわたしの必死さに押され目を丸くしキョトンと首を傾げます……その表情はちゃんと可愛い乙女です、


「うん、紗々蘭ちゃんだってあるでしょ? 甘えたいとか甘えてほしいとか、べったりとしたいかそれともサバサバした関係が良いとか、紳士系か俺様系かとか」


 女の子は理想の恋人象があってしかりだと思います、というかあってほしいです!


 期待しつつ見つめると、紗々蘭ちゃんは少し考え、


「ええと、その…………私が、甘え……たい、ですし、べったり、したい、です、し……ええと、その……紳士か俺様ではどちらかと言えば紳士、ですかね?」


 と、僅かに頬を染めながら可愛らしく理想を語ります、うん、良かった! まだ諦めてはいないみたいです、


「エヘヘ、やっぱりあるよね! …………ああ、でも、そうなると紗々蘭ちゃんも年上の彼、それも結構上の方が良いのかな?」


 実は寂しがり屋で甘えたなところがある紗々蘭ちゃんには包容力がある方が合いそうですし、


「……あっ、はい、そうですね……男の子が一生懸命リード、は姉目線で微笑ましく見守ってしまうでしょうし…………そもそも私の望む能力は一般学生には難しいかと」


「んー、じゃあ天才で老成した学生さんか……きちんと年を重ねた社会人さんか…………後者だと家の両親ぐらいの年の差になっちゃうよね……」


「ええ…………んー、私は気にしませんが…………それはきっと口説き堕とすのに苦労しますねぇ」


 苦労……うん、するでしょうね……いや、むしろ、


「……紗々蘭ちゃん、お願いだから二つ返事で頷いた人と、は、考え直してね?」


 小学生との婚約を即決する社会人は確実に駄目な人です。



「……それで、子鞠さんの恋のお話は? 私が話したのだからお聞かせいただけますよね?」


 わたしの必死のお願いにクスクス笑いながらもしっかりと頷いてくれた紗々蘭ちゃんは、お代わりを入れながら強制っぽく言い、わたしが泣き言を言うのを後押ししてくれます。


 ──ああ、紗々蘭ちゃんは本当に優しいなぁ……うん、わたしもちゃんと正面から泣きつこう、


「あのね、彼、学園がある時は忙しくてなかなか鍛練が出来ないからって、えっと、今、家で泊まり込みで修行中なんだ」


 わたしの片思い中の彼は学園の先輩で家族ぐるみの付き合いの幼なじみで家の道場の門下生、そんな彼は今家に──寝起きは別棟ですが──います、なのに……、


「でも、全然話せなくって……」


 紗々蘭ちゃんの推薦で彼と同じ学園に入れたけど校舎と立場の違いから話し掛ける機会が無く、それはもう仕方がないと諦めています。ですので、ならばと楽しみにした夏休み、けれど彼は必要最低限の会話しかしてくれないし……、


「顔もほとんど合わせてくれないの……」


 避けられている、逃げられている……もしかしたら、


「嫌われちゃったかな?」


 わたしはとにかく彼が好き、何時からなんてわからない、多分わたしが自我に芽生えた時には既に、そして彼もわたしを妹ぐらいには好ましく思ってくれていた、はず、だけど最近は、


「話せない触れない一緒にも居れない…………わたし、何かしちゃったかな……」


 一昨年当たりから少しづつ距離は出来ていました、わたしは寂しかったけど思春期の男の子はそういうものだと母に宥められ飲み込みました、けれど最近は頓に縁遠くなって……、


「もしかして誰か慕う方が出来て…………」


「子鞠さん、大丈夫です」


 ズルズルと溝に嵌まろうとしていた思考を紗々蘭ちゃんの囁くようなけれど凛とした声が止めた、思わず紗々蘭ちゃんを見つめる、すると彼女は月のような刃のような冴え輝く笑顔を浮かべ、絶対の事実として言いました、


「子鞠さんが嫌われたり、彼がどこかの女性に懸想したりといったことはありません、ですから大丈夫です」


 と、わたしはその言葉をその笑顔を聞いて見てそして安堵しました、彼女が根拠のない慰めを言わないことを知っているから、……でもつまり、


「……えっと、紗々蘭ちゃんは理由がわかるの?」


 根拠があって言っているってことですよね?


「ふふ、殿方とはしょうもない方々だということです」


 紗々蘭ちゃんは笑顔をふわふわとしたものに戻して決して答えてはくれませんでした。



 その後紗々蘭ちゃんとわたしは学園生活のあれこれや紗々蘭ちゃんが最近挑戦を始めた香水の調合──自信がついたらピッタリ来るものを作ってくれると言ってくれました──等の趣味の話にわたしが学園祭で行われる展覧会へ出品する作品の題材の相談などをして過ごしました。


 そしてそろそろお暇の時間になり別れを惜しむ挨拶を交わしていると、紗々蘭ちゃんが自らの配下である青年、四倉緑郎よつくらろくろうさんを呼び二言三言何かを言い付け彼の姉が運転手を務める紗々蘭ちゃん専用車──実家からのお呼ばれ時は何時も送り迎えをしてくれます──にわたしと共に乗せニッコリと笑みこう告げました、


「子鞠さん、私、殿方方にも事情や矜持があることはわかっています、けれど私、そんなものよりも子鞠さんの笑顔が大事なのです、ですからその美しいかんばせがもう二度と曇らぬよう、少しお節介をします、ふふ、子鞠さんは何も気にせず心安くしていらして下さい」


 そんな主の言葉を受け、緑郎さんも満面の笑みで、


「そ、子鞠様はのんびり待ってて、俺があの堅物達に崖っぷちな現状を教えとくからな?」


 と、任せとけ、と胸を張ります、……ええと、


「……その、堅物達が誰を指すのかは聞きませんが……ええと、なるべく穏便に……」


 何と無く大好きな人達の危機を感じたわたしは平和的な解決を望みましたが……、


「「大丈夫!!」」


 と、外見は少しも似ていない主従はよく似た肉食獣じみた笑みを浮かべそしてうやむやに流しました…………本当に大丈夫かな?




 【愛だけでは越えられ無いものもある】



 愛や恋は善きにしろ悪しきにしろ人に限界を超えさせる力がある。


 古今東西の創作で語られるそれは事実であるとは実感しているが……、


「……越えられ無い限界もある」


 俺は高等部自治会室で注がれた麦茶をあおると脇腹の痛みに顔を歪め呻きそして内心をこぼす、


「あら、大丈夫、柊耶?」


 テキパキと書類整理をしていた友人──桜花院優菜おうかいんゆうな君がちらりとこちらを見て平坦な声をかける、書類を捌く手は止めない、


「……ああ、まだ限界は迎えていない」


 友人に答えた俺は自嘲の笑みを浮かべ少し熱を持ち始めた打ち身を冷やす為備え付けられている冷蔵庫からアイスバッグを取り出し患部に当てる。夏休み中の学園に俺達風紀と生徒会が来ているのは今日が一部生徒──主に補習組だ──の登校日であり、彼らの見守りをし、ついでに秋の二大イベントの準備を行う為だ、


「……柊耶先輩? 怪我を?」


 少し淡泊なところがある友人と違い、義に厚く心優しい婚約者の少年──桐生元治きりゅうもとはる君が心配そうに問い掛けてくれる、


「大丈夫、軽度の打撲だ、朝の修練で少し気を抜いてしまってな」


 睡眠不足故の事故だ、体調管理を怠った俺の責任なのだが加害者になってしまった年上の後輩に顔を青ざめさせながら謝られてしまった……寝不足の原因が原因なのでとても申し訳ない、


「そう言えばぁ、柊耶さんはぁ、通っている道場からぁ、今日は来たのですよねぇ」


 一つ上の委員会の先輩、黒須麗羅くろすれいら先輩がアイスティーをコクコクと飲みながらおっとりと言う。俺と彼女は本日行った持ち物検査の報告に自治会室に来た、本来代表として来るべき風紀委員長は生徒会長と犬猿の仲であり……まあ、体よく押し付けられた訳だが……実は自治会室に生徒会長はいなかった、トラブルで飛行機が遅れ旅行先から帰還出来ず今アフリカ大陸、だそうだ、


「ええ、普段は学業優先で週末ぐらいしか通えませんので、夏休み中に鍛えようと泊まり込みで修行を」


「確か剣術と抜刀術だったわね? ふふ、双子が居たら目を輝かせたでしょうね」


 副会長として会長代理を務める白里安曇しらさとあずみ先輩が優雅に微笑みながら言う、白里家と家は公私で付き合いがあり学園外でもたまに会うので俺の通う道場を知っている、ちなみに彼女が口にした双子──岸元きしもと兄弟は今日は弟の方はインターミドルの試合が、兄はそのサポートでいない、だが確かに居たら……、


「……うむ、確かに、あいつらは海外育ちで父が欧州の方だからか、日本オタクの気がありますしね」


 友人である元治君が苦笑しながら言うように大はしゃぎだっただろう。



「で、子鞠様を泣かして無いよな?」


 ここは限定営業中のカフェテラス内の個室、報告や連絡や片付けや準備を終え解散となった自治会室で帰路につこうとした俺は腐れ縁の同級生──四倉緑郎に満面の笑みで呼び止められて、ここに連行され、そして前述の言葉をかけられた。


「……ああ、お前が帰った後に師とも話し合い、ある程度の接触が許可されたからな」


 数日前、友人宅に遊びに行った愛しい許嫁の少女──鴇田子鞠が目の前の男に手を取られ車から降りて来た時ははらわたが煮える思いをしたが、その後、師と共に人払いをした応接間で男に主人からの伝言を伝えられた時は肝が冷えた、いわく、


「我が主はお二方間の約定により、春日井かすがい柊耶が子鞠様との接触を制限されていることは理解しています。ですがそのことにより子鞠様が心を痛めていることは決して看過できることでは無いとお考えで…………ぶっちゃけて言うと『子鞠さんの意思を蔑ろにして、いつまでも意地の張り合いをしてると権力使って家で保護するぞ?』、とのことです」


 男の主人──圓城寺紗々蘭嬢は国内で比肩するものの無い大企業圓城寺グループの次期総帥であり、この学園でも一ニを争う権力者、そして子鞠のとても親しい友人だ。


 遡ること二年半前、物心ついた時には既に嫁していた長姉が許嫁の少女に彼女との面談の話を持って来た時は色々と心配したが二人は順調に友情を育み安堵した、が、その後姉と許嫁の供として訪れた圓城寺邸で二人が席を外し、彼女とその従者達だけとなった応接室で、浮かべていた深窓の令嬢然とした笑みを消し、俺を見据え一言、


「泣かせ無いで下さいませ」


 と、命じ──懇願の形をとった命令だった──られた瞬間、戦慄した、


 ──彼女は生まれながらの支配者で有害だと判断されたら引き離される、と。


 その時俺が醜態を晒さず、


「当然です」


 と、睨むほどの眼光で視線を合わせながら頷けたのは、無意識で他者を傅かせる存在である友人と、他者の上に君臨する為に研鑽を積んでいるその婚約者との付き合い故だろう…………まあ、その内の誰と一番敵対したく無いかと言われれば一もニも無く最年少の少女を挙げるが…………つまり何が言いたいかと言えば、


「……圓城寺の姫君が多言を用いない方だと理解している……師にも伝えた……あの方の言葉が最後通告、もしくはその一歩手前であることを」


 圓城寺の姫が実に友人思いであることは痛感している、俺が自らの宣言を覆すような行為をしてしまったのに挽回の機会を与えられたのは僥倖であることも、


「姫君に伝えてくれ…………全身全霊を持って師に挑み、子鞠の恋人として認めさせて見せる、と」


 体力、体格、勢いでは勝っているが技量と経験では足元にも及ばない師に勝つのはかなり厳しい、だが愛する少女の為ならば……、


「必ず勝つ……なので今夏の間は静観してほしい、と」


 限界だろうが必定だろうが越えて見せる、


「了解、伝えとく…………ん? 越えられ無い限界うんぬんっつーのは? あの言葉でしばらくは無理なんかと思ったが」


「…………ああ、それは…………あー、なんだ」


「おう?」


「…………いや、その、子鞠と久しぶりに接触が許可されてだな……今は夏だし……家では浴衣姿で……その、余り近付かれると……拒絶する訳にはいかないし……」


 子鞠は昔から距離が近い、俺限定だしと注意せずに来たが……最近頓に女性らしくなってきて…………うっかり不埒な感情を抱きそうになる……彼女の信頼は裏切れ無い……けれど平静を保って接するのにも限界が…………だから、


「頼む! 子鞠にやんわりと男の危険性を教えるよう姫に言ってくれ!」


 そう俺は恥を忍び緑郎に頭を下げ頼む、子鞠の母と家の母、姉達も含めた身内の女性陣は子鞠にそう言う知識を付けたがら無いので、まだ小学生の姫に頼むしか無い……だが、俺の必死の懇願に対する男の反応は、


「ヒャハハ、自縄自縛じゃね? つーより、将来パックリする予定の子の兄ポジとか、マジ馬鹿だろ?」


 嘲笑、と言う最低なものだった、


「っ! 下卑た発言は止せ! 子鞠が汚れる!」


「あー、そうやって子鞠様を聖域化してるから駄目なんだって、あの年頃の女の子なら友達や先輩の話とかで普通にあれこれ知ってるべ? ただそれを自分とお前の関係に結び付けてねーだけだろ」


 ………………確かに。こいつの言うことに頷くのはしゃくだが、人見知りの子鞠にも同級生の友人や寮内に仲の良い先輩はいる、そしてそう言う話題が苦手と言う訳では無いようで……、


「……そう、なのか? つまり俺が家族カテゴリー、だからか?」


「じゃね? だからお前の取れる道は二つ、とにかく耐えて耐えてゆっくり異性として認識して貰えるよう努力するか…………押し倒すかなんかして一気に認識を変えるか、だな」


 !? お、押し倒す!? いや、駄目だろ! じゃあ、耐えて……あ、いや、


「……………………とりあえず、師に勝つことだけに専念する」


 どちらを選ぶにせよ、最終的には、その、そう言う行為に行き着く訳だし……ならばまず恋人にならねばならん……だがその為には体調と精神状態を万全にせねば……だがそうなると……、


「……一週間ほど子鞠がそちらに泊まることは可能か?」


「ん? ……ああ、もち、ククク、あー、うん、きっと姫さん喜ぶなー」


 自らの欲一つ御せないとは情けない限りだが……、


「やー、実直で真面目で清廉な風紀委員様もフツーの高校生男子ってことかー」


「…………うるさい」


 俺は皆が言うほどの木石漢では無いのだ。





 


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