補遺編 下
多少R表現があります、
ご注意下さい。
【十五歳俺はヒロインを手に入れた】
俺は高校生になった。
今日は初めての授業だ、ほぼほぼ中等部から代わり映えのしないクラスメイト、だが様式美として行われる自己紹介。まあ、このクラスにおいては約一名の為に必要なのだが、
「はじめまして、岸元栄次です、学力特待生です、中等部時代は生徒会に所属し、高等部でもその予定です、よろしくお願いします」
直ぐ前の席に座った栄次もそう思ったんだろう、その約一名に向かって挨拶をする。ちなみに中等部では俺達の間にいた光三朗は高等部に設けられたスポーツ特待生クラス、S組に入った為初めて兄弟は離れた、……まあ、授業はほぼ一緒に取るのだが。そして俺も立ち上がり挨拶をする、
「桐生元治だ、よろしく頼む」
孤高キャラっぽく簡潔に、……おい、栄次、なんだそのいまさらカッコつけても……って顔は、俺だって本意じゃないんだよ!
そして皆、約一名の為に挨拶を続け、彼女の順番になった、
「はじめまして! 桃園百合恵です、音楽特待生でピアノ専攻、趣味、特技はピアノと大食い、生クリームは飲み物です! よろしくお願いします!」
…………うむ、これは転生ヒロインじゃないな。
俺のこの感想はどうやら正解で、桜花院兄妹のOKサインも出、俺は残念なツンデレを演じずにすんだ。ちなみに桃園はとても良い奴で即行生徒会に馴染み、俺と優菜の数少ない女友達になった。
「そういえば優菜、お前はゲームでは誰推しだったんだ?」
夏休みに入った桜花市、今日も窓の外は三十五度を越える猛暑日──盆地のここは夏は暑く冬は寒い──俺と優菜と覚は覚の部屋で『A,sコンフリクト』のブラッシュアップ作業をしている。何故か覚も優菜も素人の──いやそれ故か──俺の意見を重視し、これまで自分達で行っていたそれを一度白紙にし、もう一度再構成を始めた。
で、作画作業に入った覚の側で何故か俺と優菜は乙女ゲームをしている。これは優菜の趣味と覚の原稿中どうしても近くに人がいないと集中出来ないという体質が合わさってのことだ。俺が付き合ってるのは選択肢を選ぶのに何故か才能があったからだ……うむ、嬉しくないな。
そして先程の台詞、誰推しか、に繋がる……実は、この世界がゲームだったと聞いてからずっと気になっていた、だが覚は誕生日の俺の暴走を許してはおらず『ゆーちゃんを元治君から守る会』とやらを立ち上げ、桜花院の双子とミナモさん、そして実兄よりも義姉を愛する我が愛しの妹元佳の四名に報告した──まあ、かなりオブラートには包んでくれたようだが──その為二人っきりでは会えなくなりずっと聞けていなかったのだ……正直聞きたいような聞きたくないような気持ちだが……、
「へ? 誰推しだったか? んー、やっぱり紗々蘭ちゃんとゆずぴょんかなぁ?」
「………………ん? ゆずぴょん?」
攻略対象者にはいない名だが……、
「ああ、元治君にはまだ言ってませんでしたね。ヒロインその3の私達姉弟のあだ名です……ふふ、黒髪儚げ美少女で……うふふ、とっても可憐で……ああ、彼女が残念な転生者じゃ無ければ絶対に会いたいですわ」
優菜は頬を染め、うっとりとその少女を思い浮かべている……うむ、ぶれないな優菜……、
「はは、ねーちゃんは女の子が美形に大切にされてるのが見たくて乙ゲーやってるもんね~」
「ふふ、恋する美少女こそ至高ですもの」
「……あー、では攻略対象者には……」
「んー、好きなルートや台詞、スチルというはありますが……んー、個人的にはファレコンのキャラは恋愛対象としては……」
「あー、みんな結構ヤバかったもんね~、唯一の良心、みんな大好きなお兄ちゃんぐらいだよね~、まともなのは」
「ええと、それは……」
「ええ、お隣りの一宏さん、彼はゲームでもこの世界と変わらず、とっても素敵な紳士キャラでした」
「ふむ……じゃあ、一宏さんが推しキャラで良いじゃないか?」
「んー、そこはなんと言いますか……百合恵ちゃんとの音楽エンドが至高過ぎて……ええ、音痴な私には眩し過ぎると言いますか……うん、やはり推しでは無いですね」
ふむ、ヒロインごとにオススメがいるらしい、
「じゃあ、他のキャラはどうだったんだ? このヒロインなら彼が好き、とか」
……うむ、桜花院優菜では誰が好きだったとか、
「んー? ……そう、ですね……とりあえず、隠しキャラの父達はどのヒロインでもあれでしたね……ええ、それからサブキャラ達、覚ルートは……んー、嫌いではないですが……ときめかなったですね、で、明さんは……ええと、美貌故にスチルに萌えました、そして一宏さんは百合恵ちゃんとの音楽ルート、で、元樹君は……んー、優菜でのプレイが一番ときめきますが……一番痛いルートもそうですし……ええ、あまりオススメ出来ませんね」
優菜は半分語ったところでアイスティーを飲み喉を湿らす、
「で、メインの六人ですが……まず、緑郎、彼はそれなりに、というところですね、甘い台詞はそれなりに萌えましたし……まあ、女の子を振り回す男性はちょっと、で、柊耶、彼は嫌いでした、ヤンデレだったので、そして月史君、彼は途中まで──以前話した『俺が貴女の騎士になる』までは好きでそこまでは良くやってました……そこまでですが……それから光三朗君、彼は……ええ! もう! 彼とゆずぴょんのスポ根ルートは最高でした! ふふ、ですので運動音痴でもある私はちょっと……で、栄次君ですが……彼は……彼は……本当に最悪だった! もう、堕ち無い、デレ無い、癒され無い! 特に優菜でのプレイでは……あーもう! 思い出したくも無い!」
優菜は心の底から不快そうに吐き捨てると残っていたアイスティーをグッと一気飲みする、そして、深呼吸し、お嬢様の仮面を被り直した、
「……ふふ、ごめんなさい、取り乱しました……まあ、あいつも黒幕令嬢召喚アイテムとしては役立ちましたし、ええ」
……うむ、微妙にはずれているが、それよりも召喚アイテムって……、
「黒幕令嬢? たしか圓城寺の姫だったか? なんで栄次で召喚出来るんだ?」
「ああ、これも言ってませんでしたね、ゲームで岸元栄次は圓城寺紗々蘭にその能力を買われ婚約をする設定だったんです」
「………………はあっ!?」
「うん、でも、へーき、ゲームでは高等部に上がった頃にその報告があったから~」
「ふふ、それに圓城寺にはほぼ確実に転生者がいますもの、いくらゲームよりはまともとはいえ、あの栄次君を婚約者には絶対させませんわ……転生者さん、紗々蘭ちゃんを大切にしているようだし」
……ああ、うん、そうだな、というか、何故そこまで栄次を……、
「……優菜、その、優菜での栄次ルートとは……」
「ふふ、元治君? 好奇心は猫を殺す。そういうものです」
優菜は遠くを見つめながら俺の疑問をバッサリと切り捨てる……ええと、なるほど、じゃあ、こっちはどうだ?
「……うむ、すまない、で、……その、ゲームでの元治は……」
「ゲームでの桐生元治、ですか…………ええと……優菜でのトゥルーエンドは素晴らしかったです。以上」
「………………それだけ、か?」
「だから好奇心は…………まあ良いでしょう、ええ、正直なところ大っ嫌いでした」
……あー、うん、優菜は女子に優しい男が好きだもんな、
「はは、俺も嫌い~」
えっ! 許容範囲がものすごく広い覚さえ!?
「……ええと、残念なツンデレって以上に何かあるのか?」
「んー? ほら、死に王、あれね~、ほぼ自殺と心中」
………………はい?
「何かさ~、自分は優菜を蔑ろにするくせにさ~、優菜が自分以外の男と仲良くするとね~、もうちょー束縛」
「暴力を振るう描写もルートではありましたよね」
……それって、
「……最低じゃないか……」
むしろ乙女ゲームのヒーローなのか? ってレベルだ、
「うん、最低、でもトゥルーエンドはスッゴく良いんだよ~、もうちょー甘く切なく美しく……」
「ええ、すれ違いを克服し寄り添い、永遠を誓い合う……ファレコンで一、二を争う名シーンです」
桜花院兄妹はうっとりとそのシーンを思い返す……うむ、なんだ、つまり、それだけは美しかったんだな……だが、と、いうことは、
「……ええと、それじゃあヒロインその1では元治が一番のオススメ……」
「いえ、ヒロインその1でのプレイの至高は悪役令嬢ルートです」
……ええと、
「……悪役令嬢? とはいったい……」
「元佳ちゃんのことだよ~」
……ああ、元佳が悪役令嬢…………って、
「はあっ!?」
「ああ、大丈夫、婚約者とかはいないから~」
「ええ、兄達等優秀な男性達に擦り寄る、庶民や使用人を言葉で窘めるだけですから」
ふむ? まあ、それならば理解できる、というより、
「……それは最高のはまり役だな」
うむ、我が愛しの妹はそういった誇り高い女王役が良く似合う、
「ふふ、それはもう、最高にかっこいい悪役でしたわ……そして優菜での元佳ちゃん友情エンドでは優菜と元治の婚約は解消、そして桐生の跡取りが元佳ちゃんに、優菜は元佳ちゃんの秘書として働き、兄二人が妹のサポートに回るってストーリーです」
「あっ、それ良いな」
残念なツンデレが跡取りや優菜の旦那になるよりはるかに良い、
「でしょ? で、その秘書の優菜と重役として働く元治の関係がさ~、両片思いな感じで~」
「ふふ、その頃の元治はかなり落ち着いて……ええ、あの二人ならばトゥルーエンド以上に幸せになれますわ」
なるほどなー、つまりは、
「やはり優菜は美少女が好きなのだな」
「ふふ、私は女の子至上主義者ですから」
……まあ、ラブではなくライクならばその方が安心だな。
九月某日、曜日は月曜、俺は似てない双子の圓城寺との契約を知った。
「「見逃した~」」
まあ、栄次は俺には御せ無いし……光三朗も、仕方がないな、たしかに桐生は欧州には弱い、それよりも栄次の言葉……ああ、いや、あいつは美女が好きだし……うむ、仕事の契約だけだよな、
「「うっうっうっ」」
だが、それにしても圓城寺の姫は本当に凄いな、あの栄次が下についても良いと思うとは、さすが元佳の親友だな、
「「美少女の美幼女時代……」」
あー、そういえば、岸元家はずいぶんと寄付をしてくれているんだな、理事の一人の息子として感謝すべきか?
「「七五三、入学式、運動会」」
……うむ、桜花院兄妹はどんよりと顔に書きぶつぶつと譫言のように呟きながらもバリバリと仕事をしている、……ええと、なんだ、いつもよりもスピードが速いような……、
そして、桜花院兄妹の活躍で本日の仕事は予定よりも早く終わった、うむ、ここはやはり、
「優菜、実は今日、母が仕事で遅くなるのでな、……夕飯は元佳が作る予定なのだが、家に」
「行きます! もちろん行きますわ! うふふ、元佳ちゃんの手料理~、ふふ、その前に仲良くお料理ですね~」
……ああ、うむ、予想通り、……だが、なんだろう、この虚しさは……。
そしていつもよりも早く帰宅した俺は元佳がまだ帰ってなかったことに動揺した……いや、まあ、元佳も付き合いがあるだろう、
だが優菜が着替えてミナモさんを伴い家に来た頃になっても、元佳は帰宅しない、優菜達も心配そうだ……うむ、そろそろ電話でもするか、
そう思い俺が携帯を取りだそうとするとインターフォンが鳴った、そしてインターフォン越しに短いやり取りをし、急いで開けた玄関から入って来たのは、
「お初にお目にかかります。私圓城寺紗々蘭の護衛、六崎楪影と申します。本日は主人の命により、お怪我をなさった元佳様を送らせていただきました」
元佳をしっかりとお姫様抱っこした、黒いメイド服の少女だった、って!?
「! 元佳!? 怪我って!? 大丈夫なのか!? 直ぐ医者に行こう!」
ああ、まただ、俺が可愛い妹の手料理を利用したから!
「……落ち着いて元治君、元佳ちゃんが診療所で処方された湿布の袋を持ってるわ、もう診てもらったのでしょう?」
「ええ、姉様、少し足を捻っただけなのに、あの子ときたらその場にいた楪さんにわざわざ診療所に運ばせ、その上家まで送らせたのよ」
あの子……ああ、圓城寺の姫か、それよりも、捻挫……たしか捻挫は癖になりやすいとか、……ああ、とにかくしばらく安静にしなければ、そして患部は冷やすのか? 温めるのか?
そんな風に俺がオロオロとしてる間に優菜と六崎の少女が元佳をリビングに運んでくれた、
そして俺の代わりに優菜が六崎嬢をもてなしてくれ、部活を終え帰宅し妹の怪我を知り動揺した元樹をなだめ、元佳の面倒を母に代わりし、ミナモさんと共に夕飯も作ってくれた……うむ、なんと言うか、その、
「今日もありがとうな、優菜」
俺は色々あって遅くなった為五分にも満たない距離だが家まで送ることにした優菜に感謝を伝える。優菜は笑いながら気にしないで良いと応え、そして桜花院家の玄関の前についた、その時彼女は俺以外なら気付かない程度の不安を滲ませながら尋ねた、
「……ねぇ、元治君、元治君は楪さんを見てキュンとしたり、恋に堕ちそうになった?」
と、……ふむ、何がそんなに不安を掻き立てるのかはわからんが、
「……やはり、あれがヒロインその3か……いいや、一切そんな気は起きなかった」
正直元佳への申し訳のなさや優菜への感謝でいっぱいいっぱいで顔すら余り思い出せ無いしな、
そして、そんな俺の返答は優菜の不安を払拭したらしい……えっ? もしかして……、
「……ふふ、そうですか……ではお休みなさ」
「優菜は……優菜は俺が彼女に恋をしてても良かったのか?」
もしかして、嫉妬、してくれた、とか、……まさか、な、
俺は微かな期待を込め尋ねた、優菜は返答を戸惑っている、
そして、
「……良くは、無い、ですっ! ではあの! お休みなさい!」
そう叫び家に駆け込んだ、…………ええと、これは、
「夢、か?」
俺は思わずその場にしゃがみこみ頬をもぐ勢いでつねる、……多分痛い……ええと、夢じゃない、のか?
俺は携帯の振動で正気に返った、電話先の元樹の言葉によると俺が家を出てから一時間が経過しているらしい……うむ、呆け過ぎだ、
そして俺はその多分また破れるだろう期待を封じ込め帰宅し日常に戻る、それは週末優菜に家に呼ばれるまでは完璧だった。
「……あの元治君……ええと、そのお茶でも入れてきますか?」
優菜は心配そうに俺を見ている、
「いっ、いや、だ、大丈夫だ、そ、それで? ええと、お、俺になんだ、言いたい事があるんだろう?」
いや、本当は大丈夫では無い、そして今日は何故か二人っきりにしてもらっている……うむ、理性頑張れ、
「そ、それで? 何が話したいんだ?」
「……あの、元治君は私達の婚約が期間限定で私が高校卒業時に解消される事をご存知でしたか? ……ええと、私はつい最近知ったのですが……」
!? つっ、ついにばれてしまった、いや、でも、怒って、は、いない?
「……あ、ああ……うむ、知って、いた……俺がその、優菜を、うむ、納得させなかった場合はそうなっている、な……」
ああ、うむ、他の男との結婚は無理だと、な、……全力で阻止するし……、
「納得、ですか?」
「……ええと、その……それで話したい事とは?」
……うむ、なんと言うかこの流れで口説くとか、……うむ、無理だ、
「……では、単刀直入に言います……私は元治君との婚約を今すぐに解消するよう父を通じ桐生に申し伝える事を決めました」
…………あっ、俺、これから生きていく自信が無くなった、
「…………………………」
思考と感情が止まりかけた俺は、真剣な表情で俺に告げる優菜の言葉を聞きとれなかった、
「……ええと、その……元治君……」
「……ああ」
……そうか……そうか……うむ、旅に出るか……、
「好きです」
「えっ? 何が?」
…………? 優菜? 唐突に何を? というか、誰を? ああ、他に好きな男が出来たのか……、
「いや! 文脈からわかるだろうが! 君だよ! 君が好きなんだよ!」
…………? 俺が、好き? なのに婚約解消? ああ、異性としては見れないってことか、
「それはずっと言っていた、幼なじみとしての好き?」
「いや! 家族愛でも友情でも無く……ええと、そのれ、恋愛的な……す、好き、だ……」
…………? 恋愛的な…………、
「……優菜」
「は、はい!?」
ああ、そうか、これは夢か、ならせめて幸せな思い出を……、
「抱きしめても良いか?」
「良い、です、けど!?」
あったかい、柔らかい、良い匂い…………ふむ? ずいぶんリアルな夢だな?
「元治君!? あの! 力、強い! 苦しい!」
そんな風に彼女を堪能していると、背を叩かれ、抗議を受ける……もう夢も終わりか、なら最後に、最高の思い出を……、
「……え?」
俺が優菜の唇を掠めると、彼女はポカンと俺を見上げる、……ああ、可愛いな……本当に幸せな夢だ、
「元治君!? って、ええ!?」
優菜は怒ったような顔を作ろうとしたが、俺の顔を見ると動揺する、……あっ、俺泣いてる、
「……優菜」
だって、幸せ過ぎる、
「は、はい?」
「優菜」
まだ、夢からは覚めない、
「はい……」
「優菜……」
一生覚めないで良いな、
「あの、元治君? ええと、大丈夫?」
優菜は心配そうに俺を見ている……ああ、夢の中の優菜も優しいな……、
「大丈夫では無い」
たしか優菜には泣き落としが効くんだったな……、
「もし、この夢が覚めたら、思わず心臓にナイフを突き立てるぐらい大丈夫では無い」
こう、言えばずっと夢を見ていられるか?
「いや、いや、いや! 夢では無いぞ元治君! ほら! 優菜さんはここにいるぞ! ここは現実だ!」
優菜は焦ったように俺の顔をつかむ…………って?
「……夢じゃ、無い」
えっ? まさか現実で優菜に告白された? 優菜とキスをした?
「ああ! ほら! 抓られたら痛いだろう? 私の手は温かいだろ? ……だから、物騒な考えは捨てるのだ!」
……うん、たしかに痛い気がするし優菜の手は温かい、
「ごめん……ごめんなさい、元治君……ずっと君から逃げ続けて……今更かも知れないが……好きなんだ……私は君が好きなんだ、……恋人同士になりたい好きなんだ……受け入れてほしい……受け入れてくれるか?」
呆然としていると、再び優菜は俺が好きだと言った、そして恋人になりたいと……ああ、本当に夢じゃないのか?
「い、い、い、今! 唇に! 君の! 唇が! って!?」
再び口づけた優菜の唇は薄いけれどとても柔らかく、その感触は俺にここが現実だと教えてくれるようだった、
俺はその柔らかいそれの形を感触を味を確かめるように口づけ続ける、ん? 歯をきつく噛み締めてるな……じゃあ、他の部分の形と感触を……、
「も、元治君!? 君はどこを触って!? ……いや! 真面目に答えなくて良い! というか回りを見ろ! ここはリビング! 共用部分! 家族みんなでくつろぐ部屋!」
俺は突き飛ばされた、…………ああ、たしかにこれはリビングだったな……うむ、ここでは集中して優菜を堪能出来無いな……よし、
「元治君!? 人を荷物の様に抱え上げるとか!? いや、君は私をどうしようと!?」
「え? 確かにリビングでこれ以上は駄目だろう? 優菜の部屋に行こうかと……ん? 俺の部屋の方が良いか?」
……ふむ、どっちの方が良いか?
「どっちも駄目に決まってるでしょ~元治君、……いや、さすがにそれは止めに入るからね~」
俺が熟考しようとすると覚がリビングに入ってきた、ふむ、駄目、なのか? ……いや、なんだかんだで多分優菜は同意してくれるぞ?
「覚! もっと早く止めよう!? そして元治君! 君は早く下ろして!」
だってお前嫌がってなかったじゃないか!
「……あのね元治君……そのたしかにねーちゃんの今までの非道な態度を思うと、君の気持ちもわからなくは無いけど──避妊具、もって無いでしょ?」
覚は口先だけは俺の味方をし、そして耳元でえぐい質問をした…………ああ、うん、その、はい、
……うむ、たしかに……二人っきりになったら理性が持つ自信は無い、
そして俺は優菜を下ろした、すると優菜は、
「……元治君は、なんだかんだ言って、私より覚の言うことを聞きますよね……」
と、わずかにすねた……うむ、やはり、二人っきりはまずい、そして優菜、俺が覚の言うことを聞くのは……優菜を握られてるからだ……うむ、一生言うつもりは無いが。
晴れて恋人になった俺と優菜、だが『ゆーちゃんを元治君から守る会』は解散しておらず、いまだに俺と優菜は完全な二人っきりにはなれない……まあ、たしかに二人っきりでは……うむ、理性を鍛えないとな、
で、仕方がないので俺達は大抵どちらかの家のリビングか食堂で会っている、今日は桜花院家のリビング、優菜は長椅子に腰掛け、俺はその足元に座っている。そして目の前のテーブルにはお見合い写真が積まれている……、
「……何故に、まだ正式発表もしていないのにこんなに釣書が届くのだ……」
俺は優菜の態度に押され、仕方なく婚約解消に応じた、だが、俺達は婚約解消に納得してはいない、だから、ちょっと情報を流したのだが……うむ、やはり想像通り、桐生は桜花院がこういった申し込みを嫌っていることを知っているからな、
「家にも、大量に届いたな、で……その、なんだ、やはり、その……婚約解消は無かった事に……」
ついでに優菜にヤキモチを妬いてもらえたら……、
「しませんね」
……うん、淡い夢だった、だが……いや、その、面倒だろう?
「元治君? 婚約解消は両家の合意のもと既になされたのですよ? いまさら無かった事には出来ません」
うむ、それはわかっている……、
「……だが……その、優菜は……とてもモテるし……不安なんだ」
本当に効果的だった泣き落としを踏まえ、俺はなるべく優菜よりも目線が低くなるようにしている、
「……元治君は私が信じられませんか?」
「……いや……ただ不安で……」
信じてはいる、だが優菜と桜花院は魅力的過ぎるからな……、
「ふー、私も不安ですよ、元治君はモテますし……」
「!? いや! 俺が優菜以外を見るとか! ありえん!」
ヤキモチは全然妬いて無いのに、何故か優菜は不安だと言う、ならば婚約をすれば……、
「……私はまだ君から言葉を貰ってないんだ……そりゃ不安にも思うさ」
…………えっ?
「私の告白に君はちゃんと返事をしてくれていない」
…………あっ!?
「言葉がほしい……元治君の言葉が……」
…………そう、だった、
「元治君の気持ちを感じたい」
優菜は不安そうな表情を作り俺を見る……ああ、うむ、すまん、で、ええと、その期待している表情は……、
……ああ、うむ、ええと、誰もいないな……では、その、
ええい! ままよ!
「愛してる! 大好きだ! 俺がほしいのは優菜だけだ! 俺のヒロインは初めから優菜だけだ! 俺と婚約してくれ!」
俺は一世一代の告白をした、その返事は、
「ふふ、顔が凄く赤いですよ?」
だった、
これは恋人になってから知ったが、どうやら優菜は俺をからかうのが好きらしい……まあ、それも普段は可愛く思ってしまうのだが、
さすがに今は無理だから!
「! それで! 返事は!」
俺は返答を求めた、すると彼女は、
息が止まるほど美しい満面の笑みで頷いた。




