第二十一話 翔馬『宣戦布告と甘いご馳走』
姫様が怪我をした。軽い捻挫だったそうだけど、その翌日の昼休み、白姫の隣にあの輝かしい姿がないことに気付いてゾッとした。
具合や、数日後には登校することを、憔悴している白姫に聞いても不安は消えなかった。……だって気付いてしまったんだ。
──置いて逝かれる可能性もあることにも。
だからとにかく彼女を守ろうと色々頑張ったんだけど……、
ある日呼び出され伝えられた。
──愛玩物のように愛でられ愛されるのじゃ足りない、人形のように真綿で包んで愛でられるのじゃイヤ、だから僕以外を手に入れる。と、
私が幸せならそれで良いんでしょう? そう笑って続ける姫様に思わず、
「……許さない、姫様に僕以外が近づくなんて、触れるなんて許さない……あなたが僕以外を見たらそれを殺す、あなたに僕以外が触れたらそいつも殺す……いや、それ以前に姫様が僕以外選べないように閉じ込めるのが良いか……あなたが大好きな物を詰め込んだ部屋で」
そんな、我ながら狂った願いを伝え迫ってしまった。けれど姫様は楽しそうに、
「……で?」
先を促すから、
「……一生二人で過ごしましょう?」
思わずそんなことを言ってしまった。一生隠し続ける予定の願望を、
当然姫様は、
「い、や、私はあんたと違って家族も友人も必要なの、二人っきりでぐずぐずと腐って行くなんて不健全な生活はゴメンよ」
拒絶をした。……ああ、
「じゃあどうすればあなたは僕だけを見てくれる……」
こんなもう何百年も前に壊れている僕じゃ駄目なのはわかっているけれど……と、そう思ったんだけど……、
けれど、けれど彼女は、とても、とても美しい笑顔で、
「は、簡単なことよ。あんたが私を他がいらないほど強く熱く愛し続ければ良い……私が退屈を感じないくらいに」
この異常なほどの僕の愛も執着を望でくれ、
「そして、私が老衰で死んだ二ヶ月後にあんたは死んで」
これまで望むことすら困難だった未来を示してくれた。
……ああ! ああ! こんな奇跡が起きるなんて!
僕は彼女の願いを叶えると、そう伝えようとした。……けれど、姫様は、
「……ねぇ、私あんたと今年初めて会ったのよね?」
「私何も忘れてないわよね?」
「なのに何でこんなにも苦しいの? 悲しいの?」
「何でこんな赤い記憶があるの?」
魂に刻まれた傷を思い出しかけてしまった。……ああ、駄目だ!
「……良いんですよ……覚えていないことは覚えていない方が良い記憶なんですから……姫様は真っさらに生まれて幸せになるべきなんです……覚えてなくて……思い出さなくて良いんです」
そう、彼女は、彼女だけは歪んじゃ駄目なんだ。
「でもっ!」
「平気です……もう僕は姫様を置いて行きません……あなたと共に百歳まで生きて死にます……ずっと一緒です」
真珠のようなあなたが、ずっと置いて逝ってしまった僕を、それでもいいと受け入れてくれるなら、
「……ほんとに? 置いてかない?」
「はい、姫様がいらないって言っても纏わり付いて行きます」
僕には怖いものなんて無いんだ。
中高等部の体育系で父ちゃんがやらかしてから三日後の昼食中、姫様が児童会メンバーらしいワイルド系な美少年に妙に気安い感じで呼び出された。
「……誰あの人?」
イケメンが姫様に! エアのハンカチを噛み締めてると白姫が淡々と、
「モカたんの再従兄弟だよ。……安心しろ、彼は緑兄の同類だ」
と、説明してくれた。現在大学生の義理のお姉さんを着々と囲い込み中だそうな。……わー、
で、その色々障害の多い恋愛中の彼が、所属する児童会の用件というのが、
「ハロウィン、で、ございますか?」
全校あげてのハロウィンイベントについてとのこと、
けど話してるうちに中高等部も大学も学祭準備で大変だよね? 無理っぽいよね? との結論に達しかけた、その時、
「でしたら……わたくし共初等部の……好き放題に出来ませんか?」
と、白姫が告げた。……僕にひそかに目配せをして、
「まあ、遊びのほとんど無い運動会と舞台発表会しかないこの初等部で思う存分遊べるのは……良いわね」
僕は目を輝かせ賛同する姫様を見て気付いた。
──この絶好のチャンスを掴めということだと。
なのでイベントの企画進行に立候補し、姫様に宣戦布告してきます。と、宣言してきた訳ですが……、
「……胃が」
「だろうな」
ちょっと話したところ結構いい人だと判明した再従兄弟殿──前嶋尊行君初等部五年生に同情した目で見られるくらいの顔色です。僕……なぜなら、
「もう一度言うが、俺。元治君は恩義ある上司なんで、絶対君を庇えない……元治君からももちろん優菜様からも」
姉ちゃんからさんざん脅かされていたこと、
──最大の障害は桜花院優菜様、が、彼の口から事実だと告げられたから。
……うん、姫様からも『姉様』対策を徹底して教え込まれてたんでうっすら気付いてはいたんだけどね。
あのお方、これまでの繰り返しと、白姫と同じくらい『違う』っぽい人だからどうしようかと……、
……でも、あのいつでも姫様の味方だったあの人なら……、
「誠心誠意、姫様への思いを語れば……受け入れてもらえる! ……はず、だよね?」
きっと! 多分! ……うん……頑張る。
「あら、君、元佳ちゃんに求愛中ですの……聞いてないな、どこからも」
こ、怖い……圧迫感ハンパない……どうしてみんな揃って『姉様』対策を徹底しろって言ってたのか良くわかりました。笑顔なのに猛吹雪が……ええとわざとらしくない笑顔となるべく穏やかな声で……、
「はい、桃園翔馬です。元佳様には春頃から好意をお伝えし、返していただけることを期待しています」
とにかく誠心誠意真実だけを伝える、のがベスト、と、
「……そう恋人関係を望んでいるのね……ふふ」
あっ、確かに少し和らい、だ?
「は、はい!」
ちなみに今世はそれほど過激ではないと伝え聞くお兄さんは、
「……………………」
無言でずっと睨んでいます。……うう、美形のマジ睨み怖いぃ、
「……まあ、翔馬君のことは元佳ちゃんに聞いてから判断するとして……初等部の皆さんが考えたハロウィンイベントの企画とは?」
「あ、はい! ……僕達が考えたのは……」
その後、企画とその進行での評価と、姉ちゃん達からの保証と、当人である姫様からの排除しないで? とのお願いで、僕は姫様の家族公認の『求愛者筆頭』と、なれた訳です。
……や、やりました!
で、迎えたハロウィン、姫様不足に時折叫びつつ準備に奔走したかいあって、午後いっぱいを使ったイベントは目立ったトラブルも無く終わりました。……けれど、けれど!
「……ううう、何故、何故! 姫様は……っ!」
準備中、心の支えにしていた姫様の仮装がっ! なんでっ!
「男装なんですかっ!」
白い詰め襟の軍服って!?
「しょうがないでしょ? ファンクラブのリクエストなんだから」
……うう、労働力確保と盛り上げる為にファンクラブ連合に衣装選びを任せたんだよね。そして『双姫会』の皆さんは姫達の男装を熱望したんだよね。
「そんな姫様を見る為に頑張った訳じゃ……くっ、でもそれはそれでイケる自分がっ!」
超似合ってるけどっ!! メッチャカッコイイけどっ!! もし来世、姫様が男になっても絶対付き合うけどっ!
「変な扉開くな」
いや、できれば女性に生まれて欲しいですが……って!?
「トリック・オア・トリート?」
そ、そんな王子様チックな笑顔で……って!?
「……ふわっ!?」
ちょ、ちょっと待ってくださいっ!? さっき最後の一つを……うう、
「さて、いかなる悪戯がお望みですか?」
リ、リクエストOK!? だ、ダメだ、魂に残る高校生の僕が煩悩をっ! 軽蔑される希望しか浮かばないぃ、
「……っ! お、お任せしますっ!」
姫様からの悪戯なら全部ご褒美だしっ!
「目を閉じて……そのまま……動かないで……」
め、目を!? う、うう、って!?
「!? ひ、姫、様?」
か、顔に体温がっ!
「ひ、姫様……」
こ、今度は体!?
「ひ、姫様!」
あ、頭撫で撫で!?
「ひ、姫様……あのっ!」
ご、ご褒美多過ぎじゃ!?
「目を開けて」
あ、開け……ひ、至近距離に姫様のお顔がっ!? こ、これは……、
「終わりです」
もう一度目を閉じかけたら終了を告げられた……うう、
「……な、生殺しだ……」
僕の煩悩混じりの純情の行き場はっ!?
「で?」
え、お、お返しOK?
「で?」
ひ、姫様もお菓子持ってないですよね!? ……で、では遠慮なく、
「……ト、トリック・オア・トリート?」
ど、どんな悪戯を…………え、
「!? ひ、姫様!?」
い、今、頬に素晴らしい感触がっ!?
「ご馳走、でしょ?」
な、なんて魅惑的な笑顔で……、
「はい……」
最高に甘く素晴らしいご馳走です。
一生ついて行きますぅ姫様!!




