おまけ2〜男達の密談〜
リリアンとザックを見送った後、王宮の一室には王太子ウィリアムと側近のロベルト・フィルディン、直下騎士団隊長レオナルド・ヴェルモート、王宮精霊つかいハイドが集まっていた。
「ついに行ってしまったな。」
「寂しくなるなぁ。」
「おい、ハイド。リリアン嬢がいなくなったからって、また不規則な生活に戻るなよ。」
「ロベルト…君に言われたくないよ。」
そんな好き勝手な話をしている3人の会話には入らず、いつにも増して不機嫌そうなレオナルドが椅子に座る。普通ならば王太子の御前では不敬にあたるが、昔ながらの友人4人なので注意する者はいない。逆に不機嫌そうなレオナルドに遠慮する者もいないのだが。
「それにしてもレオ。あんな挨拶でよかったのか。」
「ほんとだよねぇ。僕もびっくりしたよ。」
「女性に対する挨拶ではなかったな。」
「…うるさい。」
酷い言い様だ。しかし、この3人にとってレオナルドはいじる対象であり、心配の種でもあるのだ。なぜなら、見ていてわかるだろう。人間関係を築くのが不器用なのである。レオナルドにしては珍しく女性と普通に話せていただけに、少し期待していたのだが、このザマだ。
「いい感じの雰囲気だったのになぁ。」
「ハイド。お前、俺にリリアンは特別な存在だと言っただろう。」
レオナルドがハイドに食ってかかる。そんなハイドはきょとんとした顔で見つめ返した。
「え?それを気にしてたとか言わないよね?あんな5体もの精霊に愛されている彼女は特別な存在でしょ。」
「それは精霊つかいとしてということだろう。だがレオは気づかないぞ、それは。」
思わずウィリアムがつっこむ。隣では笑いを堪えるロベルトがいた。なぜなら、目を見開き、驚いた顔のレオナルドが目の前にいたからだ。
「率直に聞くけど、レオナルドはリリアン嬢のことどう思ってたの?」
「どうと言われても。別に活発で、よく笑いよく泣く、話しやすい相手というぐらいだ。」
「「「…」」」
レオナルドの言葉を聞くと、同時に3人が後ろを向き、小声で話し出した。
「あれは自覚がないのか。ほんとに気持ちがないのか。私はわからなくなってきた。」
「…僕もわかんない。」
「自分の気持ちにも鈍感なんて。これは当分、レオナルドの恋愛話はないね。」
「おい!何を話してるんだ !」
レオナルドの叫び声で3人は元の姿勢に戻る。しかし、これ以上聞き出しても意味はないと判断し、この密談という名の『レオナルド恋愛相談会』は終了することになった。
「よし、今回はこれでお開きだ。ロベルト、この後の予定は?」
「お、おい!」
レオナルドの声を無視するように、ウィリアムが歩き出す。その斜め後ろをロベルトがついて行った。
「はい。複数の貴族から、王太子の婚約者候補にご息女を、と面談の希望が入っております。」
「はぁ…今までそんなことを言ってこなかったというのに、厄介なことになりそうだな。私は会うつもりはない、そう伝えておいてくれ。」
「ウィリアム様、諦めたほうがよろしいのでは?ティア嬢は立派な騎士を目指すと意気込んでいますよ。」
「そう簡単に諦められるか!」
小さくため息をついたロベルトが、先ほどよりも小さく見えたハイドとレオナルドであった。
「それじゃ、僕も研究があるから行くよ。レオ、今のままの怖い顔で訓練所に行くなよ。みんな怖がって訓練にならないから。」
そう言って、軽い足取りでハイドが部屋を出ていく。残されたのはレオナルドのみ。長いため息が響き渡る。
「あいつら、好き勝手言いやがって。」
ゆっくり椅子から立ち上がると、窓に近づき空を見上げる。
「あいつの瞳も、あんな色だったか。」
そんな彼の呟きは静かになった部屋に消えていった。
この話で、『神がつくりし世界で』は完結いたします。ご愛読ありがとうございました。
この小説では、世界の過去や人それぞれが抱える過去によって、起こった出来事にリリアン達がどう向き合い、成長していくかを主に書きました。もっとまとめようと思ったんですけど、結局この長さにまでなってしまいました。もはや中編小説ではないですね。(苦笑)
登場するキャラが多く、考えていた過去設定を上手く書ききれず、個性が薄くなってしまったかなと反省してます。それも世界の成り立ちという大きな題材を取り上げた割に、まとめようとしすぎたことが原因でもあると思いますが。
恋愛部分なんかすごく中途半端!そう思われた方…その通りなんです、はい。
ですが、恋愛要素を含め、もう少し近場にスポットをしぼって、その後の彼らを書きたいと思っています。番外編というよりは、登場人物や設定が同じの別小説というかんじで。よろしければ、そちらも気長にお待ちいただければと思います。
初めて小説を書かせていただき、読みづらい点などあったと思いますが、辛抱強く読んでくださったことを、本当に感謝しています。
よろしければ、評価をつけていただけると嬉しいです。それを糧に、これからも頑張っていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。感想もお待ちしております!!
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。
史煌




