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真っ暗な世界に一握りほどの小さな光が揺れている。辺りは岩で覆われ、何処かの洞窟のようでもある。静まり返る空気の中を真っ黒な服を纏った大柄な男がゆっくりと進む。男の向かう先にはフードを深く被った者が1人。
「かなりの数が集まった。」
低くドスの効いた声が響く。
「いよいよ仕上げだ。」
そう言うフードの者の手元には黒く輝きのない水晶が転がっている。
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「ティア、また1人で休憩してるの?」
「いいの、あいつらと休憩してると休憩にならないから。」
そう言いながら紅茶とお菓子を食べるティアは、今日も私の働くカフェで休憩している。意外とお菓子好きなティアは来ると1つだけ食べて帰っていく。
「ティアちゃん、なんだかんだ自警団の人たちに好かれてるものね!」
「ミラさん、変なこと言わないでくださいよー!」
最近はミラさん夫婦にも心を開いているティアだけど、外では男性のような固い雰囲気を醸し出している。そのせいか、女性のファンが増えてしまっている気がするのだが。自警団の中にはティアの実力を知って尊敬の念を抱いている者もいるそう。それでも、私達の前では素でいてくれていると思うから、少しだけ優越感に浸ってる。
突然、外が騒がしくなった。ティアが紅茶を一気飲みし、お代をテーブルに置き、行ってくると言って店を出た。ちょうど店の外で窃盗犯とティアが鉢あった。どけぇ、と叫びながら男が突っ込んでくる。ギリギリまで引きつけ、足をかける。勢い余った男は、そのまま地面に叩きつけられ、ティアに組み敷かれる。さすがに女であるティアは暴れる男を1人で捕らえることは出来なかったのか、一発男にくらわし気絶させた。後から騒ぎを聞きつけた自警団がやって来て、窃盗犯を捕まえたティアを見ると苦笑いで側まで来た。
「悪かったなティア、休憩中に。」
「別に構わない。」
「こいつもある意味運が悪かったな。ティア、お前そんな腕があるんだから自警団なんて儲からねぇ仕事しないで、騎士にでもなればいい。」
「そうっすよ!ちょうど今度入団試験があるそうですし、ティアさん程なら余裕っす。」
「いや、私は別に…」
そこにリリアンが店から慌てて出てきた。
「ティア!怪我はない?」
「別に大丈夫だよ。」
そう言っていつもと変わらない笑顔をリリアンに向けていると、周りの動きが止まった。不思議に思った2人が周りを見ると、周りからは「あのティアさんが笑った…」「なんつー破壊力だ。」と意味不明な呟きが聞こえてきた。先程までティアに話していた人が慌てて元に戻り咳払いをする。
「ティア、そちらのお嬢さんは?」
「ティアさんの彼女さんっすか?そっかー、ティアさんのタイプはふつー」
話していた青年は隣のおじさんに思い切り殴られ、話しを途中で止めることになった。ちょっと憐れに思った私は声をかけようとするが、ティアに気にしなくていいと言われたので止めておいた。
「いえ、家族です。」
「おぉ、そうなのか!お前家族がいたんだな。なら尚のこと、騎士団の入団試験受けてみろ。稼ぎが全然違うし、剣の腕も磨けるぞ!」
「騎士!ティア凄い!騎士になれるかもしれないの?」
「いや、そういうわけじゃないけど…」
騎士といえば、花形である。自警団がしっかり治安維持という役目を果たしているエレントル王国は、他国よりも騎士という地位に着くのは難しい。実力がある程度ないとなれないからである。入団試験に落ちたものは多くが自警団に入り、訓練して実力が上がれば何度でも試験が受けられる。そのため、自警団の実力も上がっていくというわけだ。剣の腕だけではなく、諜報力や知力など様々な分野に秀でている者もとるという。
「まぁ、考えておけよ。俺たちはお前なら大丈夫だと思ってるぞ!んじゃ、そいつはこっちで預かるな。じゃあなお嬢さん。」
そう言って窃盗犯を預かった自警団は去っていった。ふっとティアのほうに振り返ると、険しい顔のティアがいた。
「ティア?」
「…じゃあ休憩もそろそろ終わりだから、詰所に戻るよ。」
「あ、うん、わかった。気をつけてね!」
「はーい!」
すぐにいつものティアに戻ったが、仕事中もあの時のティアの顔が忘れられなかった。
その日の夜、ティアは帰りが遅かった。ザックが心配し始めたので、昼間の出来事を話す。すると、ザックは難しい顔をした。
「騎士か…自警団でも危険なのに、騎士になったら遠くに行ったり危険なことが増えやしないかな。」
「そう言われたら、そうね。でも、ティアはそういうことで悩んでるとは思えないわ。1人で旅をしてきて、かなりの実力があって危険なことはたくさん経験しているんじゃないかって、一緒に旅をしてて思ったもの。」
「うーん、それもそうだけど。」
「ましてや、剣の訓練を怠りたくないって理由で自警団に入団したくらいだし。」
心当たりがなくて2人で唸っていると、ドアが開く音がした。2人で振り向くとティアが入ってくる。
「おかえり、ティア。」
「遅くなってごめん。」
「大丈夫だよ。…ティアは大丈夫?」
「え?」
ティアは驚いているようだけど、帰ってきてから今まで顔が塞ぎ込んでいるのだ、心配になるだろう。やっぱり騎士の入団試験で悩んでいるのかなと思った。
「ティア、昼間は凄いとか言っちゃったけど、騎士になんてならなくてもいいんだよ!」
「そうだよ!周りのことなんて気にしなくていいんだよ!」
「リリアン、ザック…」
ティアは表情を歪め、手を強く握りしめる。そして、何かを決意したかのように顔を上げた。
「今まで黙っていたけれど、実は2人に話さなくちゃいけないことがあるの。」
その後話されたのは、私達が絶句してしまうほどのティアの秘密だった。
新たな章に入りました。
またまた登場人物が増えます。わからなくなってきたら登場人物をまとめたほうがいいのかな。私はすぐにわからなくなります(笑




