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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第2章 王都へ
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 2階から飛び降りた私は受け身を取りながら中庭へ着地した。ティアから護身術を習っていたし、木や岩のたくさんある森を駆け回っていた私にとって、2階の高さから降りることなど大したことではない。私の後を追ってティアも飛び降りた。その窓からは驚いた顔のセレーナとエリンが見えて、協力してくれていたのに少しだけ申し訳ない気持ちがわいてきたが、今はザックが優先である。

 先ほどエリンが言っていたであろう部屋の真下へ行くと、3階に向かって叫ぶ。


「ザックーーー!私よ!リリアンよーー!」

「ザックー!ザックーー!」


 私達が大声で叫ぶ事によって、色々な部屋から寮に住んでいる人達が窓から顔を出す。そんなことを気にせず叫び続けると、中庭へ入るドアから数人の警備員が入ってきて叫ぶのを止めるように注意しながら近づいてくる。


 すると、私の足元から植物が伸びてくるではないか。それは植物というより樹木と言っていいほど大きくなり、3階の高さを越すほどに成長した。野次馬をしている寮の住人や警備員達が驚いていることをいいことに、私はその木へよじ登る。木登りなど朝飯前である。一気に登りザックの部屋をよじ登ると、私の目に飛び込んできたのは丸い結界の中で喚くザックの姿だった。ザックの周りには魔術師であろう人達が数人囲むように立ち、結界を貼り続けているようだ。その顔は凄い力を押さえ込んでいるかのように歪んでいる。窓の外の木と私の姿を見て驚いた表情をしたが、結界が歪んだ為もう一度集中し始めた。


「ザック!ザック!どうしたのザック!!」


 窓を思い切り叩いて叫ぶ。1人の結界を張っていない魔術師が窓に近づいてきた。


「君、なにをしている!どうやってこんなものを…危ないから降りなさい!」

「私は彼の姉です!彼が心配で来ただけです!!」

「姉って…そんなの聞いていないが…」

「ザックはどうなっているのですか!どうしてこんなことに!」


 私の迫力に負けたのか、今のままでは私が危険と判断したのかわからないが、私を部屋に入れてくれた。駆け寄ろうとする私の腕を入れてくれた魔術師がつかむ。


「近づいてはだめだ。今、魔力が暴走しているから結界で外に漏れないようにしているんだ。危険だからここにいなさい。」

「そんな…でも……」

「大丈夫、何度か暴走しているが少ししたら落ち着くから。」

「何度も?そんな。ザック…」


 何度もあんなに苦しそうに暴れていたのか。頭を抑えながら喚いているザックを見て、この3か月の間のザックのことを考えるのが怖くなる。私は楽観視していたのかもしれない。私達よりも知識のある人達が多くの人がいる王都へ連れて行ったのだから、ザックに何か変化を与えてくれているのではないかと。憧れの王都へと期待をしすぎていた。しかしそれは勝手な期待で、実際はザックは感情のない表情で生き、何度も魔力を暴走している。あのままではザックが魔毒にやられるのも時間の問題だ。


「ザック、ごめんね…」


 私は一歩ずつザックに近づく。私を引き止めていた魔術師は追ってきたティアによって説得されていた。突然結界の側まできた少女に驚いていたが、魔術師達はどうしたらよいかわからない表情でいた。


「ザックごめんね、1人にして…ザック、私の声聞こえる?」


 私の声に反応するようにザックがこちらを見て、目を見開いた。


「姉…さん?」

「そうよ。」


 精一杯の笑顔を向ける。すると、ザックの周りの魔力が落ち着いたのか結界が解かれ、ザックは体の力が抜けたように地面に崩れ落ちた。慌ててかけより抱きしめると、私の体をザックが押し返した。


「僕に触れちゃだめだよ…姉さん。」

「どうして?」

「僕は今まで一緒にいたような人間じゃない。お母さんもお父さんも救えない。いつ魔力が暴走するかもわからない。ただ危険でどうしようもないやつさ。」


 そう言うザックの姿は絶望に染まりきった表情で、私を見もしなかった。そんなザックをもう一度抱きしめる。


「何を言ってるの、あなたは今もこれからも私の弟よ。」

「やめてよ、そんな綺麗事。僕は自分で自分を制御できない。姉さんにだって攻撃するかもしれない。今までのように側になんていられないんだよ!」


 ザックは怒りをぶつける様に叫んだ。きっと幸せだったあの頃に戻れない絶望やあの時の自分への怒り、盗賊への憎しみ、全てがぐちゃぐちゃで誰にも言えない。それが今爆発している、そう見えた。つい3か月前に別れたのに、食事や環境は今の方が良いはずなのに、痩せてしまった手で顔を覆いこもった声が漏れてくる。


「寝ると毎日のように夢で見るんだ。みんなでご飯を食べて畑仕事して、小屋で勉強してる。何も変わらないけれど楽しい毎日…それが最後にはあいつらがやって来る。僕の目の前で全てを奪う。でも僕は体も動かないし、声も出ない。叫んでお母さんの前に立ちたいと思うのに、何も動かない。それが毎日毎日…毎日…。」

「…ザック。」

「僕はあの頃に戻りたい。戻れないなら、もうどうなってもいい。あの襲ってきたやつらは死んで復讐さえできない。もうどうだっていいんだ。」


 これがザックの今抱えてる全てなのだろう。怒りと悲しみしかない。これは目覚めないお父さんの隣にいた私と同じ。その気持ちがよくわかる…でも、このままでいいはずがない。ザックを助ける、それが両親に託されたこと。


「ザック…もうあの頃には戻れない。」


 ザックが私を睨む。でも怯んでなんていられない。


「お母さんは亡くなったわ…でも、お父さんも私もティアも、そしてあなたも生きている。お母さんはあなたに生きて欲しいと願って命をかけた。お父さんもあなたを助けたいと命をかけたの。そしてあなたはここにいる。」


 そっとザックに触れる。今度は拒絶がされず、ホッとする。


「盗賊を恨むなとは言わない。無力だった自分を憎むなとも言わない。でも、お父さんお母さんの意思を無視して、生きることを諦めるのは許さないわ。」


 なるべく優しく微笑む。私の気持ちが届くように…


「ザック、あなたの悲しみを私と分け合おう。あなたの憎しみを私と分け合おう。無力だと自分を責めるのはやめよう。お父さんがね、私やザックは無力じゃないんだって言ってた。」

「え?」

「私達が生きているだけで、お父さんは生きていけるって。お父さんね、目覚めてお母さんの話を聞いた時『そうか』ってそれしか言わなかったの。あのお母さん大好きなお父さんがだよ。でもねその後、ザックが生きていてくれただけでよかったって、お母さんに託されたからって涙を堪えて言ったの。ねぇ、ザック…わかる?お父さん達は自分の命より、愛する人と離れるより私達子供のことを想ってくれてる。その想いで生かされてる。幸せなあの頃に戻りたいのはわかる。でも、生かされた私達は精一杯生きなきゃ。前を向いて足掻いて、失敗して、それでも生きてかなきゃ。今、ザックはお母さんに会える?大好きなお母さんやお父さんに姿を見せられる?私はね、今はまだ見て欲しくないんだ。まだ、何も出来なくて、胸を張って会えないから。でも、会えるようになりたいの。強くなりたい。ザック…」


 目の前にいるザックは涙を流しながら、私の袖を強く強く掴んだ。あぁ、もう大丈夫。ザックは頭が良くて優しい子だから。お父さんお母さんの気持ちがわからない子でもない。


「姉…さん…僕。」

「ん?」

「まだ、あいつらが憎いよ。」

「うん。」

「でも、今のままじゃだめだって薄々気付いてた。」


 少しずつ溢れるザックの声は、さっきまでの絶望に染まったものではなくなっていた。


「姉さんが来てくれてよかった。お母さんに僕も今のままじゃ会えないな。…姉さんはすごいね。」

「すごくなんかないわ。私もザックと同じようになったけど、お父さんやティアが救ってくれた。だから今度は私が救いたいと思ったの。それだけよ。」

「…ありがとう姉さん。」


 そう言って久しぶりに笑い合った私達にティアが思い切り抱きついてきた。


「私の存在を忘れてないかい?」

「ごめんごめん、忘れてなんかいないったら。」

「ティアもここまで来てくれてありがとう。そして、お父さんや姉さんを救ってくれてありがとう。」

「当たり前だよ。私にとっては皆大切なんだから。」


 そして私達は強く抱き合った。これから楽しいことばかりじゃないのはわかっているけど、大切な人に胸を張って姿を見せられるように精一杯生きてみせると誓って……これが私達の新たなスタートライン。

ザックに無事会えました。

正直なんて言葉をかけたらいいのか迷いました。人を勇気付けるのって凄く難しいですよね。もっと良い言葉があるんじゃないかとか思ってしまいます。

悲しみとかは簡単に分かち合えなくて、でも吐き出さなくちゃ耐えられなくて、ザックはそんな狭間で暴走していたと思います。


まだまだ過去に囚われたりしてしまうかもしれないけれど、一歩ずつ進む彼らを見たいと作者は思ってます。

どうなるかは彼ら次第…というか、彼らの気持ちで簡単に動かされる作者次第かな(苦笑

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