第一章 招かれざる誘い
【第一章 招かれざる誘い】ーーーーーーーーーーー
八月の終わり、蝉の声がやけに遠く響く午後。
淳は友人の悠斗と圭介に誘われ、村はずれの「鏡沼」へ行くことになった。
鏡沼――その名の通り、風が止むと水面はまるで鏡のように周囲を映す。しかし村の者は誰一人として近寄らない。理由を尋ねても「縁起が悪い」「昔からそうだ」としか返ってこない。
「どうせただの湿地だろ? 心霊スポットだって言われてんだぜ」
悠斗が得意げに笑った。彼は怖いもの知らずで、夏休み中は肝試しや怪談ばかりを企画している。
圭介は無口だが、そうした誘いを断ることはほとんどない。
淳は嫌な予感を覚えながらも、二人の勢いに抗えなかった。
日が落ち、提灯の明かりだけを頼りに三人は森の小道を抜けた。湿気は重く、土はぬかるみ、どこかから腐ったような甘い匂いが漂っていた。
やがて、闇の中にぽっかりと開いた水面が現れた。
「ほら、これが鏡沼だ」
悠斗が石を拾って投げ込む。ちゃぷん、と波紋が広がり、森の影が歪む。
――そのとき。
「……なあ、誰か沈んでる」
淳の声は震えていた。水草に絡まるように、女の顔が浮かんでいたのだ。
真っ白に膨らみ、唇は裂け、濁った瞳がこちらを見ている。
悠斗と圭介は笑ったが、次の瞬間――悠斗の笑い声が悲鳴に変わり、彼は背を向けて走り去った。圭介も顔色を失い、何も言わずに消えた。
残された淳は、再び沼を見た。そこには自分と瓜二つの顔が浮かんでいた。
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