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095.謹慎

『誰にも愛されない娘』

 なぜあんな事を言ってしまったのだろう。


 傷つけた。

 誰よりも大切な妹を。

 絶対に護ると、一生守ると決めていたのに。


 リリアーナの寮からもらった冷蔵庫。

 エドワードは冷蔵庫から氷グラスを取り出し、紅茶とミルクを注いだ。


 傷ついた顔をしたリリアーナを無理矢理掴んで、会場の前に引きずっていった。

 なぜあんな事をしてしまったのだろう。


「リリー……ごめん……」

 机の上にはリリアーナからもらった剣帯。

 そして別邸から持ってきたリリアーナが光魔術で直した剣。

 模擬戦の決勝戦でアルバートと戦った時に折れてしまった剣だ。


「リリー……」

 エドワードは涙を流しながら、今日も机に塞ぎ込んだ。


    ◇


「自分が何をしたかわかっているのか!」

 昨晩、皇帝陛下に謁見の間に呼び出された。

 リビングで父に怒られたのではない。

 謁見の間で皇帝陛下に怒られたのだ。

 ラインハルトは自分の部屋のベッドにゴロンと大の字に寝転がった。


 謹慎。

 いつまでと言われていない。

 今日だけなのか1週間か、1ヶ月か。


 急に現れて、ジーク兄にべったりで、小国の女がいきなり宰相の養女なんておかしいだろう。

 自分で歩きもしない、食事だって全部食べさせてもらって、わがままな姫だ。

 ちょっと学園で困らせてやったら、大袈裟に宰相に告げ口しやがって。


 そう思っていた。


「死ぬかもしれなかった事に気づいているのか?」

 皇帝陛下の言葉に息が止まりそうになった。


 そんなつもりは全くなかった。


「つがいを無くしたらジークハルトがどうなるかわかっているのか?」

 そんな話は聞いていない。

 1回だけ一緒に食事をしただけのよく知らない女だ。

 ラインハルトは天井を見つめた。


「廃嫡も覚悟しておくんだな。北の果てに幽閉か、北の砦でギルに鍛えてもらうか。宰相がリリアーナとジークハルトに処分を確認する。決まるまでは謹慎だ」

 廃嫡。幽閉。

 そんな大事になるなんて思っていなかった。

 ラインハルトは目を閉じながら、大きく息を吐いた。



「クリス兄様、これ違います」

 リリアーナは書類の間違っている部分に正解を記載して、やり直し箱に入れた。


「本当ですね」

 クリスは書類を手にすると内容を確認し、またやり直し箱に戻す。


 宰相の提案により、リリアーナはクリスの仕事を手伝わせてもらう事になった。

 内容はわからないので、計算部分の担当だ。


 書類を種類ごとに仕分けする。

 計算の確認をする。

 ジークハルトのサインがされた書類を次の人の場所ごとに分ける。

 リリアーナの仕事はたったそれだけだった。


 それでもクリスは助かりますと褒めてくれる。

 ジークハルトも目が合うと微笑んでくれる。

 リリアーナは自分の居場所ができたみたいで嬉しかった。


「少し良いだろうか?」

 宰相がジークハルトの執務室を訪ねた。


「リリアーナに昨日の学園について聞きたいのだが」

 宰相がジークハルトに告げると、クリスの顔が強張った。

 ソファーに宰相とリリアーナが座り、ジークハルトとクリスは引き続き今日中の書類に目を通す。

 同じ部屋にいればジークハルトの執着は少ないようだ。


「すまなかった」

 宰相はいきなりリリアーナに謝罪した。


「……何があった?」

 ジークハルトの手が止まり、宰相を睨みつける。

 急にピリッとした空気が流れ、リリアーナは張り詰めた空気に驚いた。


「ラインハルト殿下が」

 宰相がジークハルトに説明しようとしたので、リリアーナは慌てて声を出した。


「あ、あの、その」

 ジークハルトに昨日の事を話せばラインハルトは怒られてしまう。

 ラインハルトがした事は許せないが、スライゴの言葉が本当なら、昨日はずっと演習場に放置だっただろう。

 とっさに思いついたので、1、2時間で目覚めるような調整はできていない。

 仕返しはしたつもりだ。


「ラインハルト殿下は怒っていますか?」

 リリアーナが宰相に尋ねると、宰相は驚いた顔をした。


「謹慎中だ」

 宰相の言葉にジークハルトの眉が片方上がった。

 何があったかはわからないが、皇帝に怒られるような事をしたという事だ。


「おい、何があった?」

 ジークハルトが不機嫌な顔で宰相を睨む。

 早く話せとピリピリした空気を出した。


「昨日、ラインハルト殿下とケンカしてしまったんです。それで……私がラインハルト殿下を置いて先に帰ってきてしまって……」

 リリアーナは俯きながらワンピースのスカートをぎゅっと握った。


 襲われた事を言わないつもりなのだろうか?

 宰相はリリアーナを見つめた。


「……ケンカの原因は?」

 ジークハルトが溜息をつきながらリリアーナに尋ねると、リリアーナは顔を上げて困ったように微笑んだ。


「通れなかったんです。透明な窓」

 その言葉にジークハルトもクリスも思い当たる物があった。

 学生証を持っていれば通れる近道。

 まだ学年が決まっていないリリアーナは昨日学生証を持っていないので通れなかったのだ。


「私だけ遠回り」

 結構遠かったんです。とリリアーナは言った。


「……そんなことで謹慎になるのか?」

 まだあるだろうとジークハルトは宰相を睨む。

 宰相は何も言えず口をつぐんだ。


「……授業に遅れたんです。遠回りしたら。ラインハルト殿下だけ間に合ってて」

 リリアーナは不満そうに呟いた。

 全て本当の事だ。


「だから、魔術演習でやっつけたんです。そのあと、ラインハルト殿下とは顔も合わせていません」

 実際にはラインハルトは演習場で寝ていたのだが、顔を合わせていないのは本当の事だ。


「やっつけた? ライを?」

 ジークハルトが眉間にシワを寄せた。

 ラインハルトはあの学年で1番だったはずだ。

 そのラインハルトをやっつけたと言うのか。


「リリアーナが勝ったとスライゴから聞いています。3時間目以降はスライゴが学園を案内し食堂にも連れて行ったそうです。帰りの馬車の手配も」

 宰相がようやく話に合流する。

 これでリリアーナは良いのだろうか?

 宰相がリリアーナを見ると、リリアーナはニコッと微笑んだ。


 クリスは3人の会話を聞きながらリリアーナを見ていた。

 なぜあんな危険な目にあったのにラインハルト殿下を庇うのか。

 もっと怒っても良いのではないか。

 もしかしたら命がなかったかもしれないのに。


「案内を放棄したから謹慎か?」

 少し罰が重たくないか? とジークハルトが溜息をつく。


「スライゴがいなかったらお昼も帰りも困ったでしょう」

 宰相は当然の罰だと主張した。


 リリアーナは昨日の事を知っているのに内緒にしてくれる宰相に感謝した。

 話を合わせてくれたのだ。


「早ければ今日の夜にテストの結果が出るそうだが……」

 宰相はリリアーナを見た。

 ラインハルト殿下と顔を合わせるのはイヤだろう。

 皇帝陛下には夕食に誘うように言われていたが、辞めておこう。


「結果が出たら知らせに来る」

「あ、あの、お父様。歴史も地理も白紙なんです。全然わからなくて。……1年生だったらごめんなさい」

 リリアーナが申し訳なさそうに微笑むと、宰相はそんな事は気にしなくていいと笑った。

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