068.豪華弁当
リリアーナの体調不良は、成長に伴い体内の魔力バランスが狂って気分が悪くなる『魔力酔い』ではないかと魔術師団長が言った。
女の子から女性へと身体が変化する思春期特有の症状だ。
リリアーナは無理矢理魔力を抑えているせいで普通よりも影響が大きいのではないかと言う。
このままではまた魔力滞留になるだろう。
いくら魔石で吸い取ってもバランスは変わらないため辛いだろうと魔術師団長は心配していた。
魔力酔いを防ぐために、毎週土日は別邸でリリアーナに適度に魔術を使わせる事が決まった。
何かあった時にリリアーナが相談しやすいノアールが適任だろうと魔術師団長が推薦し、フレディリックはリリアーナの体調のためと渋々了解した。
国王陛下、魔術師団長、教皇には、ノアールのもう1つの任務である光魔術の調査を説明し、結果は報告するが秘匿にする事で合意。
ウィンチェスタ侯爵の計画通りの展開に収まる事になった。
「どうしてこうなったのでしょうか?」
リリアーナは学園長室で豪華なお昼ご飯と、優雅に紅茶を飲むフレディリックを見て固まった。
「あいつと毎週土日に一緒なのだろう? 平日の昼に会うしかないだろう」
何かおかしいか? とフレディリックが言う。
全てがおかしいです。
リリアーナは心の中で突っ込んだ。
「お前の手作りか?」
フレディリックはリリアーナが手に持っている小さな包みを指差した。
昨日の夕飯の残りを詰めただけのお弁当だ。
こんな豪華な料理の前で広げるのは恥ずかしい。
「食わせろ」
「だ、ダメです! こんな庶民の食べ物をフレッド殿下が食べたらダメです!」
普段は毒味係とかいるのでしょう?とリリアーナは訴えたが、あっさり手から取られてしまった。
「お前はこっちを食べろ」
豪華な料理と、リリアーナの庶民弁当が交換される。
見た事がない料理を前にリリアーナは固まった。
「これは何という料理だ?」
フレディリックもリリアーナのお弁当に入っている見た事がない料理に驚いていた。
卵焼き、里芋とトリを煮たもの、ほうれん草のお浸し、カボチャ煮。トリの唐揚げ。ごぼうサラダ。
見事に和食だ。
パンとは合わない。
この国には米がないのが残念だ。
なんとなく醤油っぽい味の調味料があっただけ良かったが。
「うまいな」
フレディリックは似合わない里芋を食べながら笑った。
珍しい料理だから褒めてくれるのだろう。
普段、王宮の料理人の美味しい料理を食べているから、こんな質素な料理は物足りない味だろうな。
「肉は嫌いか?」
「食べますよ?」
急な問いかけにリリアーナは首を傾けた。
「これ食ってみろ」
突然、顔の前に食べ物が出された。
無言のプレッシャーがかかり、有無を言わさず口に突っ込まれる。
柔らかい豚の角煮のような食べ物だ。
「美味しいです」
口の中であっという間に溶けてなくなった。
脂っこくなくて美味しい。
さすが王宮料理人さん!
「いつも1人で食べているのか?」
フレディリックはタイミングを見計らって春巻きのようなものをリリアーナの口に突っ込む。
いつの間にか食べさせられているのだ。
「1人も友達がいないのです」
リリアーナが肩をすくめると、フレディリックは声をあげて笑った。
リリアーナがフォークを動かそうとした瞬間に次の食べ物が口の前に。
「自分で食べられますよ?」
リリアーナが首を傾げると、フレディリックは頬杖をつきながら微笑んだ。
「体調はどうだ」
フレディリックの言葉にリリアーナは驚いて顔をあげた。
忙しい中、体調を心配してわざわざ来てくれたのだ。
ちゃんと食べているのか見に来たのだろう。
豪華なお弁当まで準備して。
相変わらず優しい。
一人一人にこうやって気遣いできるから人望が厚い殿下と言われるのだろうな。
「大丈夫です」
リリアーナは微笑んだ。
「お前の大丈夫は当てにならん」
ふぅ。と溜息をつかれてしまった。
予鈴が鳴ったが行かなくても良いと言う。
次は魔術演習だ。
実技なので何もできず、ただ見ているだけの授業。
それでもみんなの技をいろいろ見る事ができるので、一応勉強にはなっているのだが。
「担任に伝えてある。しっかり食べろ」
やっぱり優しい。
リリアーナは微笑んだ。
そのまま特別講座の時間まで学園長室を占領し、たわいもない話が続く。
フレディリック殿下は話すのが上手だと改めて実感する。
どの話もとても楽しい。
「以前ドラゴンを見せる約束をしたが、来年の建国祭で来るぞ」
エスト国の建国200年祭。
節目の年のため、ドラゴニアス帝国から皇太子殿下が来るそうだ。
ドラゴニアス帝国は世界で1番大きな国のため、20年ほど前から出席のお願いをして、ようやく来てもらえるらしい。
20年前に来た使者が乗ってきたドラゴン。
それがフレディリックが子供の頃に見たというドラゴンだ。
これを逃すと、次は建国300年祭になるだろうとフレディリックは笑う。
「見逃さないように、夜会に招待してやるからな」
ダンスを練習しておけよ。フレディリックがニヤリと笑った。
「ダ、ダンス?」
あ、無理だ。
社交ダンスみたいなやつでしょう?
授業も一応あるが、壊滅的にリズムが取れない。
「ダンスは苦手か?」
リリアーナは全力で首を縦に振った。
相手の足を踏むとか、そんなレベルではない。
最初の足は右? 左? のレベルだ。
「では俺と練習だな」
半年あれば何とかなるだろうと笑われたが、なんとかなる気がしない。
「ウィンチェスタと練習は禁止だ。あいつに魔術を教わるのだろう? ダンスは俺からだ」
よくわからない理屈だが、とりあえずリリアーナは頷いた。
ドラゴンは見たいけど、ダンスかぁ……。
リリアーナはガックリと項垂れた。




