↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて国外追放もされた生贄令嬢ですが、世界は私が救うのでしょうか?  作者: 和泉
第二章 王立学園

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/259

065.創造魔術

「ノア先生おかえりなさい」

 別邸のキッチンで頬に白い粉をつけたリリアーナが手を作業台の上に乗せたまま振り返った。

 長い黒髪は邪魔にならないように三つ編みにし、寮長がくれたフリフリのエプロンをして何かを混ぜている。


「何を作っているのですか?」

 ノアールは無防備なリリアーナを後ろから抱きしめた。


「だ、ダメですよ、粉ついちゃいますっ」

 真っ赤な顔で訴えるリリアーナの首に口づけすると、一気に首まで赤くなった。


 くっついていると作業をしにくそうだったので渋々離れたが、ノアールはキッチンの椅子に座りリリアーナを見つめる事にした。


「ベリータルトです」

 ニコニコと言われるがタルトとは?

 ノアールが料理長を見ると、手でわかりませんポーズをされた。


 生地を伸ばし、手慣れた感じで型の上に。


「その入れ物は何ですか?」

 周りが2cmほど高くなっており波をうったような細工。

 金属のようだが見たことがない。


「タルトを焼く容器ですよ?」

 普通のです。という反応をされたが、やはりよくわからなかった。


「料理長、これオーブンで焼いて」

 リリアーナが料理長に型を渡すと、はいよ。と受け取ってくれた。

 数年前にヒョロヒョロから変わった今のムキムキの料理長は、リリアーナがキッチンに来ても嫌がらない。

 むしろ寮へ持っていく調味料などを準備してくれる良い人だ。


「何分だ?」

 オーブンへ入れ扉を閉じた料理長がリリアーナに確認する。


「焼き目を見ないとわからなので、覗きたいです」

 オーブンは上にあるため背の低いリリアーナからは見えない。

 ぴょこぴょこ飛ぶリリアーナを料理長はヒョイと片手で持ち上げた。

 まるで小さい子を抱っこするかのようだ。


「リ、リリー!」

 小さい頃ウィンチェスタ侯爵にも抱っこされていたのでリリアーナは何も気にしていなかったが、年頃の令嬢が男性に持ち上げられる状態は良くないとノアールに怒られた。

 エドワードがいたなら間違いなく『常識がない』と言われただろう。


 面倒だが毎回料理長にタルト生地をオーブンから出してもらう。


「このくらいで大丈夫です」

 美しい焦げ色がついたところで型から外しお皿の上へ置いた。

 生地は今のところ成功だ。


 オーブンの電源を切っている料理長の横顔をたまたま見たリリアーナは、あれ? と止まった。

 見た事がある。

 王宮でお兄様の後ろの方にいた人。


 あの時その横にいたのは、もしかして冷蔵庫を作ってくれた庭師さん?


 リリアーナは気づいてしまった。

 王宮でフレディリック殿下の声に集まった20人程のメンバーの中にいたのだ。

 服が違うのであの時は気づかなかった。


 特殊部隊ができる前から、ずっと彼らは護っていてくれたのだ。


「リリー? どうしましたか?」

 料理長を見つめたまま動かないリリアーナにノアールが声をかけた。


「・・・料理長、特殊部隊の人?」

 小さな声でつぶやかれた言葉に料理長が振り向いた。


「庭師さんも、寮長も?」

 今思えば必要以上にムキムキな人たちばかりだ。


 バレたか。と笑う料理長。


「ありがとうございます」

 リリアーナは泣きそうな顔でお礼を言った。


 少し冷めたタルト生地に先に作っておいたカスタードクリームを入れ、いちごやブルーベリーを飾り、完成だ。

 切るのとお皿に乗せるのは料理長に任せて、先にリリアーナとノアールはリビングへ戻った。


 侍女のミナが紅茶とタルトを運んでくれる。

 残ったタルトは料理長や庭師、侍女で食べてほしいとミナに頼んだ。


「美味しいです」

 ノアールが緑の眼を細めて微笑んだ。


「こんな美味しい焼き菓子は食べた事がありません」

 サクサクの食感もいいし、甘いクリームと酸味のある果物の組み合わせがいいですねと褒めてくれる。

 完璧な食リポだ。


 そういえば、王宮でもらったお菓子はフルーツを使用したものがなかった。

 ナマモノとか日持ちしないものはダメなのかもしれない。


 リリアーナもタルトにフォークを刺すと、サクッと良い音がした。

 うん。ちゃんと出来ている!

 材料も適当な分量で作ったが上手くできてよかった。

 いちごも美味しい。


「見せたい魔術って何ですか?」

 タルトを食べ終わったノアールが紅茶を飲みながら尋ねた。

 話しかける口実だったって事はないですよね? と確認される。


「え~っと、倒れないと思うので心配しないでくださいね?」

 変な前置きをして、リリアーナはソファーに座ったまま腕を前に出した。


 目を閉じて思い浮かべる。

 今日作るのは2穴のルーズリーフバインダー。

 実はリリアーナはもう寮でこっそり使っている。

 ノートと違ってページを差し替えできるのですごく便利だ。

 これをノアールにもプレゼントしたい。


 色は黒。

 持っていても目立たない黒。

 大きさは紙がちょうど入る大きさ。

 こちらの紙はA4サイズではない微妙なサイズ。

 2穴の部分、表紙、素材、質感。

 具体的にイメージする。


 目が熱くなり、涙が流れた。


「リリー!」

 これはヘアゴムとエンピツの時と同じ。

 ノアールは慌てて駆け寄り、隣に座った。

 横から指先を確認すると、段々冷えてきている。

 倒れるといけないので片腕を背中に回し、横から支えた。


 手の上に現れる四角いもの。

 エンピツに比べるとだいぶ大きい。


 黒い潤んだ大きな眼が一瞬開いたが、上を向くとまた眼を閉じてしまった。


 実体を持ちはじめる黒い物体。

 何かわからない。


 リリアーナは現れた黒いものを手に取ると、ゆっくりと目を開けた。


「リリー!」

 ぐらりと揺れる身体を慌ててノアールが支える。

 リリアーナはノアールの胸に倒れ込むと、大きく息をはいた。


「だ、いじょうぶ、です」

 肩で息をしながらバインダーを抱きしめる。

 ノアールはリリアーナの背中を優しく撫でた。

 片手で指先を触るとかなり冷たい。

 意識は失わなかったが、ギリギリといった所だろうか。


 身体は自分にもたれさせ、片手で背中を撫でながらもう片方の手でリリアーナの手を握る。

 自分の腕の中にすっぽり入ってしまう小さなリリアーナをノアールは抱きしめた。


「無理はしないでください」

 ノアールの心配そうな声にリリアーナは顔を上げて微笑んだ。

 だが、すぐにまた腕の中に顔を埋めてしまう。


 しばらくするとようやく呼吸が落ち着いたリリアーナが顔を上げた。

 もたれかかっていたノアールから身体を離し、抱きかかえていたバインダーを手渡した。


「これは何ですか?」

 開いてみるがよくわからない。

 黒い板?

 素材もよくわからない。

 柔らかいような固いような不思議な固さ。

 真ん中の2つの輪は何だろうか?


「バインダーです。ノートの代わりです」

「ノート?」

 黒い板がノート?

 ノアールは首を傾げた。


 リリアーナは当たり前のように言うが、ノアールにはその名前も使い方も全くわからなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。