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063.デート

 エドワードの卒業後、特に大きな事件もなく淡々と日々は過ぎて行った。

 もともと前世では一人暮らしが長い。

 必要な物は寮長が揃えてくれるので、生活には困らない。


 平日は学園へ行き、料理して、宿題をして寝る。

 土日はウィンチェスタ家から借りた本を読んだり、少し凝った料理を作ったりするが、スマホが恋しい。

 時間が有り余ってしまうのだ。


 リリアーナには欲しいものがたくさんある。

 ドライヤーやアイロンも欲しいし、洗濯機も欲しい。


 早く高等科に行って魔道具が作れるようになりたいと最近よく思う。


 月2回の特別講座でフレディリック殿下と会い、月1回土日にノアールと別邸で会い、3ヵ月に1回エドワードと会う。

 そんな生活が1年ほど続き、リリアーナは中等科3年、15歳になった。


「リリー、何が欲しいですか?」

 手を引かれながらノアールと街を歩く。

 やっとデートっぽいデートだ。

 前回は身長差がありすぎて兄妹にしか見えなかっただろう。

 今回は年頃の男女として見てもらえないだろうか。

 服もドレスほどではないがオシャレをしたつもりだし。


「新しいカバンが見たいです。教科書を入れると穴が開きそうで」

 リリアーナが学園で使っているカバンは初等科から使っているものだ。

 5年経ち、だいぶ傷んでいる。


「これはどうですか?」

 使いやすそうな斜めがけのカバンと、リュックっぽいカバンの2つを見せられた。

 落ち着いたデザインのカバンでどちらも使いやすそうだ。


「こっちの方が好きです」

 斜めがけを指差すと、ノアールは当たり前のようにお支払いしてくれた。


「誕生日プレゼントです」

「ありがとう、ノア先生」

 リリアーナは大事に使うね。とノアールに向かって微笑んだ。


 リリアーナの身長はやっと150cm になり、ノアールの手が肩ではなく腰に添えられるようになった。

 ずっと肩だったので、腰は少し照れる。

 クビレは大丈夫だろうか。

 貴族の女性は下着で頑張っているせいだろうか、腰が細い人が多い。

 自分もそろそろそういう下着をつけるべきなのかもしれない。

 でも下着なんて誰に相談すればいいのだろう?


「リリー? 疲れましたか?」

 優しい緑の眼が顔を覗き込んでくる。


「ほわぁ!」

 リリアーナは近すぎる綺麗なノアールの顔に驚いて変な声を出した。

 何ですか? とクスクス笑われるが顔は近いままだ。

 リリアーナは真っ赤になった。


 広場の屋台でフレッシュジュースを買い、半分ずつ飲んだ。

 この世界にも間接キスという言葉はあるのだろうか。

 自分だけ意識しているようでちょっと恥ずかしい。


 緑色なのにリンゴ味のジュース。

 視覚と味が一致しなくて不思議な感じがする。

 見た目だけなら青汁だ。


 街に来るのは3回目。

 ノアールに本を買ってもらった日、フォード侯爵と神託に来た日、そして今日。

 あまり記憶に残っていないが、お店はだいぶ変わった気がする。


 カバンを買った後は、目的もなく2人でウィンドウショッピングを楽しんだ。

 クッキーの良い匂いがするお店、派手な服の店、変な置物の店。

 見ているだけですごく楽しい。


 ノアールはリリアーナの歩く速度に合わせてゆっくりと、人とぶつからないようにさりげなくフォローしながら歩いてくれる。


 もしかしてデートしなれている?

 不安になったリリアーナがノアールを見た瞬間、ノアールがピタリと止まった。


 真っ白なドレスが置いてある店の前。

 豪華で綺麗なドレスを嬉しそうに着ている女性が中に見える。


「結婚式のドレスですよ」

 ノアールの手がリリアーナの腰をグイッと引き寄せた。


「ノ、ノア先生??」

「早くリリーと結婚したいです」

 色気ダダ漏れで耳元に囁かれた言葉にリリアーナは真っ赤になった。


 パクパクと酸欠の魚のように口を開けるが息の仕方を忘れてしまった。

 囁かれた耳にキス、そのまま首にもキスをされる。


 ノア先生! ここ外です! 街です!

 15歳ですー!


 ノアールの吐息にリリアーナは身体中が熱くなった。


 すぐに何事もなかったように解放され、再び手は腰へ。

 そのまま歩き出すノアールの顔をこっそり覗くと、少し照れた表情が見えた。


 ノアールがモテるのはわかっている。

 でも遊び慣れているわけではなさそうでよかった。

 リリアーナはほっとした。


 すれ違う人がノアールを見て振り返る。

 うっとり見つめるお姉様もいる。

 一緒にいるのが何であんな普通の子! という目で見るのはやめてください。

 本人が1番わかってますから!


 角を曲がると広い通りに出た。

 人通りも多く、馬車も通る大通り。

 馬車が止まっている白い大きな建物はフォード侯爵と行った教会だ。

 リリアーナの足がピタリと止まる。


「リリー?」

 どうかしましたか? とノアールはリリアーナの顔を覗き込んだ。


 できれば前を通りたくない。

 でも教会で直接何かをされたわけではない。

 平気だけれども近づきたくない。

 リリアーナは教会を見ないように目をそらした。


 動けずにいるリリアーナの腰をグイッと引き寄せるとノアールが別の道の方へ歩き出した。


「……配慮が足りなくてすみませんでした」

 少し早足で角を曲がり、教会が見えない位置で止まると、ノアールはリリアーナの頬を両手で包み込んだ。


「大丈夫ですか?」

 心配そうな緑の眼がリリアーナの黒眼に映る。

 リリアーナは少し泣きそうな顔で、大丈夫です。と微笑んだ。


 神託から7年。

 まだフォード侯爵は見つかっていない。

 もうすぐエドワードが20歳になるので、最年少の侯爵が誕生する。


 エドワードも超優良物件だ。

 見た目良し、浮いた話なし、学園時代の模擬戦2位、王太子付き騎士なのに侯爵位。

 エドワードもモテるのだろうなぁ。


 やっぱり世の中は不公平だ。

 黒髪・黒眼の華のない平凡な自分が悲しい。


「……結婚式は新婚旅行先の国外でしましょう」


 はい?

 急な話にリリアーナは驚いた。


「ドラゴニアス帝国に新婚旅行に行きましょう。ドラゴンを見たいと言っていましたよね」

 ノアールがにっこり微笑む。


 この国で1番大きな教会はさっきの教会だ。

 あの教会で教皇様立ち会いの結婚式を挙げるのがご令嬢の憧れだというのは有名な話。

 学園時代に何度も夢見る令嬢の話をクラスで聞いた事がある。


 結婚式で初めて口づけを交わし、魔力の交換をすると幸せになれるのだと。

 何度か理性が飛びそうになり危なかったが今のところ口にはしていない。

 我慢出来ず、耳や首には口づけしてしまうが。


 18歳で学園を卒業したら普通にあの教会で結婚式だと思っていた。

 でも、リリアーナはあの教会に良い思い出がないのだ。

 まさか見るのもイヤだとは思っていなかった。

 ノアールは、リリアーナの心の傷が全く癒えていない事を知ってしまった。

 自分ができる事は、あの教会を使わない事くらいだ。


「世界で1番大きな国なので教会もこの国よりきっと綺麗ですよ」

 腰を引き寄せられ、抱きしめられる。


「ノ、ノア先生! ここ、道! 外です!」

 真っ赤なリリアーナの訴えは却下だった。


 うん。と言うまで離しませんよ。と耳元で囁かれる。


 あー。魂が抜けそうです!

 色気ダダ漏れで積極的なノアールは心臓に悪い!


「今すぐ連れ去りたいです」

 連れ去って自分だけのものにしたい。

 王太子殿下にも、他の誰にも会わせたくないと伝えたらリリアーナは嫌がるだろうか?

 ゆっくり離れたノアールの顔は少し切なそうに見えた。


 さぁ、次のお店に行きましょう。と何事もなかったように歩き出すノアール。

 リリアーナは繋いだ手をギュッと握ると、ノアールの1歩後ろをついて行った。


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