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039.報告

「目の前で見ても、わからなかったのだね?」

 ウィンチェスタ侯爵は、書斎で頬杖をつきながらノアールに尋ねた。


 第1の可能性。

 転移魔術を応用し、リリアーナがどこかから手に入れた。


 第2の可能性。

 創造魔術で新しい物を生み出した。


 その場に居合わせたかった。と心底残念そうだ。


 ウィンチェスタ侯爵は、鉛筆を手に取るとサラサラと紙に走らせた。


「不思議だね」

 インクがないのに黒い跡がつく。

 持った感じも悪くない。

 不自然な六角形は持ちやすさと転がらないようにというところだろうか。


「何も持っていない手から、薄く出現し、実体になったように見えました」

 ノアールが当時の状況を説明する。

 薄いときはエドワードが触れられなかったこと、濃くなったらリリアーナが握ったこと。

 リリアーナは他にも思い浮かべたがそれらは出なかったこと。


「出ないものもある……」

 トントントンとウィンチェスタ侯爵は、指でテーブルを叩きながら考え出した。


 その現場に居合わせたのにリリアーナが倒れるのを避けられなかった事、何も出来なかった事、ノアールは自分の無力さを思い知った。

 そのせいで少し不機嫌な態度でリリアーナに会ってしまった事も後悔している。


 私のために。と聞いて、一気に理性が吹っ飛んでしまった。

 まだ11歳のリリアーナに口づけしようとするなんて。


「おや、顔が赤いけれど」

 ウィンチェスタ侯爵が珍しい表情のノアールを見て笑った。


「ふむ。今の段階ではどちらの可能性も否定できないね」

 あるいはまったく別の、第3の可能性があるのかどうか。

 今のところ思いつかないが。


 前回が2年前。学園に入学する前のヘアゴム。

 そして今回がエンピツ。

 大きさ、素材に共通点はない。


「リリアーナが望む物……リリアーナだけ使い方がわかる物……」

 トントントンとリズムよく音が繰り返された。


 おそらくリリアーナの魂の姿。

 あちらで使用していた物なのだろう。

 だいぶ文明が違うようだ。

 リリアーナにとってこの世界はきっと不便だろう。


 以前頼まれた冷蔵庫という物。

 あれもかなり興味深かった。


 あちらの世界のものを取り寄せているのであれば、冷蔵庫でも何でも取り寄せればいい。


「出なかったというボールペン? というのはどういう物か聞いたのかい?」

 出ないものもあるという事は、何か条件があるのだろうか。


「はい。エンピツと同じくらいの大きさで、こちらも書くものだそうです。木ではないと言っていました」

 ノアールも疑問に思うと何でも知りたいと思ってしまう性格だ。

 親子だからなのか思考が似ているとお互いに思う。

 嬉しいかどうかは別として。


「……そうか」

 結局、推測の域を出ないな。

 ウィンチェスタ侯爵は溜息をついた。


「ところで、リリアーナとは順調かい?」

 13歳で婚約してもらえそうかい?

 ウィンチェスタ侯爵は急にノアールに話を振った。


「なぜ急に……」

 横を向いたノアールの反応は照れている普通の若者だ。

 あんなに笑わない、感情がないと言われていた学園時代が嘘のように。


「フレディリック殿下が隣国の姫との婚約を破談にされたそうだよ」

 まだ内密だけどね。

 ウィンチェスタ侯爵は口の前に人差し指を立てた。


「……え?」

 ノアールが目を見開く。


「隣国の姫が今年16歳。どうやら騎士と恋仲のようでね。隣国から打診があったそうだ」

「そんな国同士の、」

 ノアールが珍しく声を上げた。


 王子と王女の婚約を破棄するなど通常なら外交問題に発展する事だ。

 そんなにあっさりと反故にするものではないだろう。


「どうやらお腹に子供がいるようでね」

 隣国としては大失態だ。

 こちらの国に対し、とにかく平謝りで輸出入でも魔道具でも何でも望みのものを提供するから許してほしいと連絡があったそうだ。


「せっかくだから魔道具の設計書を提出してもらうことにしたよ。気になるものがいくつかあったからね」

 ウィンチェスタ侯爵は目を細めて笑った。


 だからまだ内密にも関わらず知っているのか。

 ノアールは溜息をついた。


「これでリリアーナが嫌がる問題の1つが解決だね」

 ウィンチェスタ侯爵がさらりと気になる事を言ってくる。

 この雰囲気は、状況を少し楽しんでいるようだ。


「リリアーナはフレディリック殿下に『奥さんが3人もいるなんて無理!』と言ったそうだよ」

 王族の務めなのにね。とクスクス笑う。


 ノアールが知らないうちに王宮でフレディリック殿下のお茶会に参加していたらしい。

 今までに3回ほど。

 何度連れていっても王宮の廊下で萎縮してね。とウィンチェスタ侯爵は笑って言った。


「王宮に行っているなんて聞いていません」

「おや、ノアールの許可が必要なのかい?」

 後見人は私だよ?とニヤニヤされる。


「だから昔、教えてあげただろう?」

 ウィンチェスタ侯爵はニヤリと笑った。


『油断していると誰かに攫われてしまうよ? 私なら腕の中に閉じ込めて誰にも見せないけどね。』


 覚えているかい?

 ウィンチェスタ侯爵が目を細めて笑うので、ノアールはそれ以上何も言えずに別邸へ帰宅することにした。


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