↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて国外追放もされた生贄令嬢ですが、世界は私が救うのでしょうか?  作者: 和泉
第二章 王立学園

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/259

038.鉛筆

「楽しそうですね」

 パタンと扉が閉まり、仮眠を終えたノアールが部屋へ入ってきた。


「調子はどうですか? 顔色は良さそうですが」

 少し機嫌が悪そうなノアールを見るのは初めてかもしれない。

 忙しくて疲れている姿は見たことがあるが、それとは少し違う気がする。


「大丈夫です。ご飯も食べたし」

 リリアーナはやっと動くようになった腕を上げ、平気ですアピールをした。


 エドワードは椅子から立ち上がりノアールに席を譲る。


「これ、何に使うか教えてもらえますか?」

 ノアールはテーブルの鉛筆を手に取るとリリアーナの前に出した。


「……字を書く物です」

 街でお店を見た時、インクと羽ペンしかなかったので、この国にはきっとないのだろう。

 リリアーナは目を伏せた。


「どうやって使いますか?」

 リリアーナは鉛筆を手に取ると、ナイフでここを削って、と説明した。

 しかし、言葉ではなかなかうまく伝わらない。


 鉛筆削りを使っていたのでカッターナイフで削った経験はほとんどないが、エドワードから小型ナイフを借りて実際にやって見せることにした。


「え? 危ないよ、僕がやるって」

 変わった持ち方で驚いたのだろう。

 エドワードが心配する。


「大丈夫ですよ、お兄様」

 ゆっくり木を削っていくと、鉛筆から黒い芯が出てきた。

 不恰好だがなんとか書ける状態にする。

 引き出しからノートを取り出し自分の名前を書くと、懐かしい書き心地にちょっとほっとした。


「……すごいですね」

「何それ。インクつけてないじゃん」

 ノアールもエドワードも驚いて鉛筆とノートを交互に見る。


「少し良いですか?」

 ノアールもノートにサラサラと書いた。


「すごっ!」

 エドワードが初めての書き心地に驚く。

 羽ペンしか使ったことがない2人にとっては斬新すぎるだろう。


「これはどこから持ってきたのですか? それとも作ったのですか?」

 いつものような優しい声ではないノアールの声にリリアーナは驚いた。

 部屋に入ってきた時から不機嫌そうだと思ったが、やはり機嫌は良くないようだ。

 こんなノアールは初めて見る。

 リリアーナは黙り込んだ。


 第1の可能性。

 転移魔術を応用し、リリアーナがどこかから手に入れた。


 第2の可能性。

 創造魔術で新しい物を生み出した。


 以前、ヘアゴムを報告したときのウィンチェスタ侯爵の仮説だ。


「手の上に急に現れました。心当たりはありますか?」

 手に? 急に?

 リリアーナの伏せた目が揺れる。


「……わかりません」

 確かに倒れる前、鉛筆があったら良いなと思った。

 だがそれだけだ。

 どこかから持ってこようと思ったわけでもないし、作ったわけでもない。


「僕も見たんだ。最初出た時は触れなかったけど、段々濃くなってリリーが握ったと思ったら倒れたんだ」

 当時の状況を教えてもらうが全く心当たりがない。


 鉛筆だって普通の特徴のないものだ。

 どこにでもあるような物。

 どこから持ってきたかとかわからない。

 さすがに作ったはあり得ないが。

 リリアーナは首を横に振った。


「……そうですか」

 ノアールは溜息をつきながら立ち上がった。


 状況を説明しにウィンチェスタ家へ行かなくてはならない。

 昨日医師を手配してもらっている。

 心配しているだろう。

 今のところ何もわからないが、鉛筆が現れた状況だけでも伝えなくては。

 たくさんの書物を読んでいる父上なら、何か手がかりがもらえるかもしれない。


 口数の少ないノアールに、リリアーナは不安になった。

 迷惑ばかりかけて嫌われたかもしれない。


「これを借りていっても良いですか?」

 ノアールがテーブルの上の鉛筆を指差した。

 父上に実物を見てもらったほうが良いだろう。

 これを言葉で説明するのは難しい。


「……どうぞ。もともとノア先生に。と思った物なので」

 リリアーナの言葉にノアールが止まった。


「どういう事ですか?」

「リビングにインクがなかったので」

 ノアールが研究結果をいつでもどこでもメモできたら良いなと思った事、持ち歩きに困らないもの、インクがいらないもの。

 リリアーナはあの時思っていた事をそのまま述べた。


 ボールペンやシャープペンも考えたが目が熱くなった時に浮かんだイメージは鉛筆だった事。

 手も熱かった事。

 倒れる前に鉛筆を握った記憶はない事。

 俯きながら話しているため、エドワードとノアールの表情は見えない。


 引いているかもしれない。

 気持ちの悪い子だと思っているかもしれない。

 リリアーナは顔を上げることが出来なかった。


「……そう……ですか」

 私のため……ノアールは小さな声で呟いた。


 ふわっと良い匂いがした。


 気がついたらノアールの腕の中にいて、視界が狭い。

 目の前には緑の髪と、髪を結った紐、ノアールの首。

 リリアーナの体温が一気に上がった。


「ありがとう、リリー」

 頭の上から声がする。

 先ほどまでとは違う、いつもの優しい声。


「でも無理はしないでください」

 ノアールがリリアーナから少し身体を離した。


 頬からアゴを撫で、リリアーナの顔を上げる。

 優しく微笑むノアールと目が合った。

 そのままノアールの顔がゆっくりと近づいてくる。


 待って! 待って! これキスの流れ!

 リリアーナの顔が赤くなった。


 ガタン。

 突然の音に2人でハッとする。


 ノアールの動きがピタリと止まった。


「あー、あー、僕、その、ごゆっくり~」

 狼狽えたエドワードが慌てて走り去る。

 バタンと勢いよく扉が閉まった。


 触れるか触れないかの距離で止まってしまったキス(未遂)。


「……すみません」

 ノアールは慌てて離れて自分の口を押さえた。

 ノアールの顔も真っ赤だ。


 リリアーナも顔から火が出そうだ。


 ぎこちない動きでノアールはテーブルの上の鉛筆を手に取ると、「大切にしますね」と微笑んだ。

 その笑顔も破壊力満点だ。


「ウィンチェスタ家に行ってきます。夕方には戻るので安静に」

 ノアールはリリアーナは頭を優しく撫でた。


「は、はい。いってらっしゃい」

 ノアールの手は頭から頬を通ってリリアーナの口へ。

 指でリリアーナの口をなぞると、ノアールはゆっくりと手を離した。


 私、たぶん今日死ぬ。


 ノアールが部屋から出ていったのを確認したリリアーナは真っ赤な顔でベッドに倒れ込んだ。

 ドクドクする心臓が爆発しそうだ。

 リリアーナは胸に手を当て、落ち着かない心臓を抑えながらベッドで悶えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。