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100.スズ

 そのままお互いに何も言わずにただ抱き合うと、ジークハルトの心臓の音が聞こえる。

 ジークハルトはリリアーナの髪をゆっくり撫でるだけで何も言わない。

 リリアーナはしばらくジークハルトの腕の中に閉じ込められた。


「……出て行けと……言わないのですか?」

 リリアーナがようやく口を開く。


「なぜ?」

「……変だから」

 リリアーナの回答にジークハルトは首を傾げた。


「ずっと一緒だと、絶対に離さないと約束したはずだが?」

 腕が緩む気配はない。

 しっかりと抱きかかえられ、支えられている。


 リリアーナは、ゆっくり話し始めた。

 説明はうまくない。

 きちんと伝わるかはわからないが、5歳で火がでた事件から、神託の日の話、なぜ国外追放になったかわからないという話をジークハルトに伝えた。


 指輪や腕輪で魔術を使えなくしていた事、そのせいで魔力滞留にも魔力酔いにも頻繁になり、みんなに迷惑をかけた事、『物を作る魔術』で魔力不足になり何度も倒れた事。


 自分一人では何もできない事、侍女長などみんないなくなってしまった事、フォード侯爵に自分の娘ではないと言われた事。

 時系列もバラバラで、うまくまとまらない話を、ジークハルトはずっと聞いてくれた。


 ジークハルトは泣きながら話すリリアーナの頭を優しく撫で続けた。

 何かを思い出しすぐ泣くと思っていたが、想像以上に壮絶な辛い思いをしていた。

 頼りにしていた者達に突き放された現場は建国祭で見た。

 あの日の出来事だけで泣いていたわけではなかったのだ。


 話したくなかっただろう。

 ずっと辛かっただろう。

 ようやく話してくれたということは、少しは信頼してくれたということだろうか。


「ずっと一緒だ。絶対に離さない。世界の終りまで一緒にいてやる」

 ジークハルトの言葉に、リリアーナは泣きながら頷く。


「竜の愛は重いと教えただろう? 覚悟しろよ」

 本当に離さないからな。とジークハルトが言うとリリアーナはうんうん。と小さく頷いた。


 話したことで少しでも気持ちが軽くなればいい。

 ジークハルトがリリアーナをギュッと抱き締めると、リリアーナもジークハルトに擦り寄った。


 しばらく何も言わずにお互いの温もりを確かめ合う。


 甘い匂いとふわふわの黒髪。

 泣き顔も可愛いと言ったら驚くだろうか?

 もっと頼って欲しい。

 もっと甘えて欲しい。

 ずっとこの腕の中から離したくない。


 ようやく落ち着いてきたリリアーナがゆっくり身体を起こすと、ジークハルトは頬にチュッと口づけをした。

 驚いたリリアーナが再び身体を密着させ顔を隠すと、ジークハルトは声を上げて笑う。


「そういえば、学園の授業は決めたのか?」

 ジークハルトが尋ねると、リリアーナはまだ迷っていると答えた。


 ジークハルトはリリアーナを抱き上げリビングへ向かった。

 時間割を手に取ると再び執務室の椅子に腰掛ける。


「……これはどうしても受けたいか?」

 火曜日2時間目。3年生の歴史の授業を指差された。


「歴史0点だったから」

 ドラゴニアス帝国の歴史を知らないのでまったく解くことができなかった。


「歴史は本でも読めばいいだろう。あとは、これは?」

 火曜日3時間目。11年生の薬草学。

 できれば受けてみたいがどうしてもというほどでもない。


「テストで70点はあったな。11年生よりも12年生の薬草学の方がいいだろう。金曜の4時間目だ」

 金曜の4時間目に入っていた12年生の魔術演習は、レオンハルトも出ているという金曜の5時間目の魔術実践に変更。

 あれこれ組み換えをして、どんどん時間割が埋められていく。


「ジーク様、火曜日に1つも入っていないです」

 見事に火曜日の授業が別の曜日に振り分けられてる。


「あぁ、火曜日は俺と出かける。毎週」

 さっき決めたとジークハルトは笑う。


「毎週?」

「あぁ、毎週だ。もう1つの仕事をリナにも手伝ってもらう」

 もう1つの仕事? リリアーナは首を傾げた。


「冒険者だ」

 ジークハルトは執務室の引き出しを開け、金色のドッグタグを取り出した。

 金のチェーンがついており、タグには何か書かれている。


『NAME-HARD

 RANK-S

 ARIA-DRAGONIUS

 Auditors license』


「ハルト? ハル?」

 ジークハルト(Sieghard)のハルト(hard)だろうか?

 リリアーナが尋ねると、ジークハルトは『ハル』だと言った。


 Sランク!?

 もし前世のようなゲームの世界ならSランクって1番上なのでは!?

 Auditors license(監査員)って何?

 ゲームでは一般的?

 ユージはよくゲームをしていた。

 ランクが上がったとか、防具を買ったとか、モンスターを倒したとか。

 話は聞いていたが一緒にやったことはない。


「冒険者……」

 冷蔵庫を作るとき、ドラゴニアス帝国には冒険者ギルドや商業ギルドがあり、魔石が取引される事があるとノアールに聞いた気がする。


「どうしてジーク様が冒険者?」

 この国の第1皇子がそんな危ないことをしていて良いのだろうか?

 大型生物と戦ったり、迷宮? ダンジョン? とかに行くのだろうか。


「もともと叔父が冒険者ギルドの管理をしていたんだが引き継いだ。商業ギルドはレオンハルトの担当。ラインハルトはまだ子供だから公務をしていない」

 ジークハルトはドッグタグを引き出しにしまうと、リリアーナの頭を撫でた。


「冒険者なら魔術が使える。あとは魔術実践の授業で週2回は魔術を使う機会ができる」

 ジークハルトの言葉にリリアーナは驚いた。

 魔力滞留にも魔力酔いにもならないように考えてくれたのだ。


 冒険者は1番下がGランク、1番上がSランクだと教えてくれた。

 パーティ登録をすると、ランクの平均まで依頼を受けることができるそうだ。

 SランクとGランクがパーティ登録するとCランクまで受けることが可能だという。


 いやいや、普通SとGが一緒になることないから!


 名前は『SUZU』に決まった。鈴原のスズだ。


「スズ? 鈴?」

 迷子にならないようにリナに鈴でもつけるか? とジークハルトが笑う。


 追い出されなかった。

 ずっと一緒にいてくれると言ってくれた。

 どこにいても見つけてくれるのなら、鈴をつけてもいいなと思った事は内緒だ。


「ジーク様、大型生物をいつか蒸し焼きにしましょうね」

 帝立学園の入学テストのおまけ問題、フレディリック殿下の特別講座の宿題だ。


「早くAランクになれ。サーベルタイガーで試すぞ」

 ジークハルトはリリアーナの頭をなでながら優しく微笑んだ。

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