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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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40/60

40. その物語の続きは


《永遠の向日葵を、君に》


 確か――そんなタイトルの物語だった。


 王城に来ていたローズマリーは、いつものように窓の外を眺めながら、大きな溜め息をついた。


 あの日。アッシュに出会ってから、すでに2か月近く経つが、あれ以降、一度も彼に会えていない。

 妃教育で王城に行くたびに、この前、会えた建物の廊下や花のある場所をいろいろ歩き回っているが出会えない。


 本来であれば、妃教育から救ってくれるはずだ。


(やっぱり、全部お姉さまのせいだわ……)


 なぜか、“彼”と一緒にいた異母姉ウィステリア。


(一体どうして、お姉さまが……? ()()私の邪魔をするつもりなの?)


 幼い頃からすべてを姉に邪魔されてきた。

 自分の方ができるからと、いつも父に取り入ろうとしていた。

 ローズマリーはそのたびに何度も何度も姉の魔法が遣えなくなるように、と祈っていた。


『おとうさま。私、風をおこすことができますわ』

『すごいなぁ。さすが、私の娘だ!』


 少し遅く生まれただけの、同じ歳の異母姉妹。

 自分が主役の物語なのだから、できるのは当たり前。父に頭を撫でられ、褒められるのも、すべてはローズマリーが主人公の物語だから。

 ――それなのに!


『おとうさま、私もできますわ』

『ウィステリア……いたのか。お前にできるはずがないだろう? 嘘をつくんじゃない!』

『みてください! ――ほら!!』


 まるでローズマリーに対抗するように、ふわりと風を起こしてみせ、自分も褒めてもらおうとする姉ウィステリア。

 やはり彼女は――主人公(ヒロイン)を邪魔する『悪役令嬢』なのだ。


 ローズマリーは、父にしゅんとしょげた顔をしてみせた。


『一体、どうした? ローズマリー。具合でも悪くなったのか?』

『おとうさま、ごめんなさい。おねえさまがかわいそうで……ローズマリーがおねえさまをてつだってあげたのです』


(お姉さまが私に意地悪するからいけないの。先にやってきたのはお姉さま、あなたよ)


『そうか……姉想いで優しいな、ローズマリーは。――ウィステリア。お前も妹であるローズマリーを少しは見倣え!』

『……はい、おとうさま……』


 悔しそうな『悪役令嬢』の顔に思わず、前の世界の“ざまぁ”というものを思い出した。


(お姉さまは“ざまぁ”されたのよ。仕方がないわ。だって、お姉さまは『悪役令嬢』なんだもの)


 あの日を境に、姉は魔法が遣えなくなった。


(ふふ。きっと、私の願いが叶ったのね!)


 これが主人公チートというものだろう。


 しかし、その後のローズマリーには何のチートも起こらなかった。

 魔法の実践テストも合格ギリギリ。課題も面倒なものばかり。すべてを姉が自分にする意地悪のせいにして、ここまで何とか乗り切ってきた。


 でも今、すでに自分が知っていた物語といろいろ違ってきている。


 『悪役令嬢』である姉ウィステリアは、学園の卒業記念パーティーで今までおこなってきた数々の悪事を断罪され、王太子に婚約を破棄され、アーネスト侯爵家から追放される。


 それは、()()同じだった。そこまでで大きく違っていたのは、主人公であるローズマリーが、()()()()()であるアッシュとまだ一度も出会えていない、ということだった。


 それが先日、やっと出会えたというのに、こともあろうが『悪役令嬢』であるウィステリアに、またも邪魔された。


(アッシュ様は、確か――()()()王子様なのよね)


 どういう設定だったか、なぜそうだったのか。

 そして、物語の中で異母姉ウィステリアと彼の間には、どんな関係があったのか。


 ローズマリーは年々少しずつ薄くなっている記憶から、懸命に思い出そうとしていた。


 あの物語の続きを――



 ◇◇◇◇



『迎えにきましたよ、お嬢様』

『あなたは……あの時の?』

『ええ。いつか、お嬢様を迎えにいく、と約束しましたから』


 彼はローズマリーに向かって微笑むと、手にしていた一輪のヒマワリを差し出す。


『初めて会ったその日に、あなたを好きになりました。一輪のヒマワリの花言葉をご存知ですか?』

『ええ、もちろん。“一目惚れ”、でしょう?』


 彼は嬉しそうに目を細めて笑った。


『今日のヒマワリで3本目です。3本のヒマワリの花言葉はご存知ですか?』

『それは……もしかして……?』


 彼はヒマワリを掲げ、ローズマリーの前に跪く。


『私はあなたを愛しています』


 ローズマリーの胸がドキドキと高鳴る。

 自分もあなたと同じ気持ちだと、言ってしまいたい――けれど、それは許されない。なぜなら、今の自分は王太子の婚約者なのだから。


『私があなたを必ず救い出します』

『えっ?』

『エルレスト王家からも、そして、アーネスト侯爵家からも』

『どうして……?』


 彼は悲しそうに微笑んだ。


『偽りを正し、元の姿に戻す。――それが私の使命ですから』


 ヒマワリを握りしめたローズマリーの小さな白い手を、彼は優しく包み込んだ。


『だから、どうか待っていてください。私が本当の姿を取り戻すまで――』


 ローズマリーの薄紫色をした美しい瞳から、ほろりとひとつ滴が流れた。


『待っています。ずっと。あなたが戻るまで――』



 〜・〜・〜



 ローズマリーの花言葉は――『私を想って』『私を忘れないで』『あなたに会うと幸せ』『変わらぬ愛』。


 そして、大切な人に真心をもって『忠誠』を尽くすことや大事な人との『思い出』を忘れないという『記憶』など、“愛”に関する言葉であふれている。


 ()()()()()彼女は――『静かな力強さ』を持ち、『誠実』で『献身』的な、いわゆる“絶対的主人公(ヒロイン)”なのである。


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