異界交差革命
イギリス南西部、ロンドンから西へ二百キロの位置にある州都ソールズベリー、そこから北西へ十三キロ移動した所にストーンヘンジと呼ばれる環状列石がある。
椋一がアヴィーに案内されて森を歩く事十五分、直径十メートル程の円形広場に出ると、日光を遮る木々が無くなったため眩しさで目を手で隠した。
眩しさに慣れ、辺りを見回した時椋一の目に入ったのは、前述のストーンサークルだった。
もっとも、規模はストーンヘンジより小さいが。
長方形の石を三つ馬蹄のような形に組み立てたのが合計十組、それらは円形に並べてあり、真ん中に台座のような石が置かれている。
「ここが異界と人間界を繋ぐ扉です。呼び方は様々で「天の梯子」「光の道」等、人間界では「異界の扉」が最もポピュラーですね」
「じゃあ俺もそう呼ぶか」
真ん中の台座が異界の扉なのだろうか。少なくとも扉には見えなかった。
試しに近付いて触ってみようかと思った時、アヴィーが通せんぼするかの如く腕を伸ばして椋一の歩みを遮った。
「先程も言ったように普通の人間が異界に行くと短時間で死にます。ですのであまり扉に近づかないよう注意して下さい。今は私がいますので例え異界に行っても連れ戻せますが、一人ですと自力では帰れませんのでくれぐれも気を付けて下さい」
「わ、わかった。気を付ける」
「はい! さて、私今日はこのまま異界に帰ります」
「そうか」
「明日は早速この扉から異界の住人が来ます。仕事ですよ仕事! ではこれにてドロン。ニンニン」
と言ってアヴィーは台座の上に立つと両手で適当な印を結んでシュバッと消えた。ドロンではない。
「もっと派手に光るのかと思ったけど、意外とアッサリしてるんだなあ。帰るか」
椋一は踵を返して家に帰ることにした。そこではおそらくコボちゃんが健気に掃除をしていることだろう。
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椋一がいなくなった後の異界の扉にて、台座の裏にスケキヨよろしく逆さに倒れた残念な美人がいた。
「うぅ〜、足を滑らせました。カッコ悪いです」
お約束は守るアヴィーであった。
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正午過ぎ、椋一は時代劇の再放送を観ながらコボちゃんの手料理に舌づつみを打っていた。
「うまい! うまいよコボちゃん。こんなうまい料理久しぶりだよ」
「コボ〜」
照れてる。
朝ご飯もそうだったが、コボちゃんは料理が上手い。いや料理だけじゃない掃除も洗濯も完璧にこなす。
アヴィーに聞いたのだが、管理人には身辺を世話するために家政婦が送られるのだそうだ。
選ばれるのはホブゴブリンやブラウニー、ドモヴォーイとドモヴィーハ、シルキーにキキーモラ、キルムーリ、そしてコボルト。
上記の妖精が家政婦として派遣されるそうだ。ゲームやマンガ等で聞いた事ある名前ばかり、主に敵モンスター役ばかりで悪い印象が強い。
そのためこれらが元々家を守る妖精、又は家人を世話する妖精と聞いた時は驚いた。
「皿は俺が片付け」
「コボ」
食器類を重ねて流しに持って行こうとした椋一の手をコボちゃんが静止した。
自分がやるらしい。
「いやほら、作ってもらっておいて何もしないのは」
「コボッ!」
コボちゃんの声に怒気が混じった。それどころか頭の上に怒りマークが物理的に現れた。
「何それ!?」
触ってみると石みたいに硬い。しばらくするとポンと消えた。
ひょっとするとコボちゃんは自分の仕事を取られるのを激しく嫌うのかもしれない。
明日アヴィーに聞いてみようか。
手持ち無沙汰になった。時代劇は終わって今は天気予報に変わっている。明日は晴れるそうだ。
「そういえば、食材はどこから調達したの?」
「コボ、コボッコ〜ボ!」
「成程ねー、何言ってるか全然わかんねえや」
その辺も明日アヴィーに聞こう。
「ん〜、そろそろ引越しの挨拶に行こうか」
今の時間なら大体の家庭は昼食も終わって、片付けも終わってゆっくりしている頃だろう。
この異界の森は村から少し離れたところにある。挨拶に行くのも森から近い数軒と、町長だけでいいだろう。多分。
一応街まで行くかな、街まで行くにはバスで約三十分かかる。
やっぱり車を買った方がいいな。
「それじゃあ行ってくる」
上着を取り、玄関で靴を履いた時、出鼻を挫くかのように固定電話が鳴った。
コボちゃんは「コボ」としか話せないため必然的に椋一が出ることになる。
「はいもしもし、桧山です」
「やあ桧山君、覚えてるかな? 幹部だよ」
覚えている。先週弁護士の人と一緒に管理人の仕事を持ち掛けてきた人だ。
名前は確か、幹部鳴雄。まるで何処かのグループの幹部になるために生まれたかのような名前でよく覚えている。
「覚えてます。どうかしたんですか?」
「いや何、様子はどうかと思ってね。そろそろ異界の森についてある程度の説明はされただろうし」
「やっぱり知ってたんですね」
「ああ、最初の時に言っても信じて貰えそうにないから、実際に見て聞いて貰おうと思ってね」
別にそんな事は無いと思うが、それは事情を知ったから感じる事で、よく知らないあの頃に聞かされていたら信じたかどうかはわからない。
「それで、どうする?」
「どうするとは?」
「管理人を辞めるか続けるかだよ、一応見方によっては君を騙したようなものだから辞めるなら慰謝料含め次の就職先を斡旋してもいい」
魅力的な提案だ。冷静に考えれば辞めるのが最善の選択だろう。
ここは山中の田舎で街までバスで三十分も掛かる。人口は三千人程と少ない……いや村にしては多いか。
お店は小さな商店街が一つとコンビニが一件、都会育ちのモヤシには色々と不便だ。
だが。
「いえ続けます。乗りかかった船です、最後までいきますよ。それに、今ちょっとワクワクしてるんです。自分が知らなかった世界の片隅を見ている。もっと知りたい、そう俺の知的好奇心が疼くんです」
「成程、君は冒険家気質のようだ。そういう事なら私は何も言わない、何か必要な物や情報があればこの番号に掛けるといい」
「わかりました。あっそれじゃあ早速車を一台経費でお願いできますか?」
「車だな、一週間で用意しよう」
「お願いします」と言って通話を終了した。
本当に経費で落とせるとは思わなかった。
さて今度こそ出発だ。
そうだ、幹部さんの会社についてもっと調べた方がいいよな、明らかに異界の森に深く関わってるし、もしかしたら幹部さんや他の社員も異界の住人かもしれない。確証は無いけど。
確か会社名は……思考を巡らして記憶を辿る。
そうだ「S.D.G.L」だ。何の略かまでは知らない、後で調べよう。
とりあえず今は引越しの挨拶だ。
解説は少しずついきます。
サブタイの元ネタはストーンヘンジが出てくる某B級SF映画




