河童三四郎(前編)
『河童』
日本妖怪の中でも最もポピュラーな妖怪だ。日本にいる人間でその名を知らない人はそうそういないのではないだろうか。
起源は様々で、源平合戦で敗れた平家の落ち武者の成れの果てだったり、大陸から来た猿のような妖怪、安倍晴明の式神等。
容姿も様々だが、一般的には子供のような姿で頭に皿、指の間には水かきが、背中には亀のような甲羅がある姿が馴染み深いだろう。
性格も地域によって異なる。邪悪だったり、善良だったり。
また一説には土左衛門、つまり水死体とする説もある。
流されて岩などにぶつけて禿げた頭は皿、水を取り込んで膨らみ張った背中が甲羅に、と類似点が多く、又河童伝説が残る川はかつて水死体が多かったというところが多い。
今回の物語は水死体や落ち武者でも無く、慣れ親しんだ亀のような姿の、妖怪としての河童が出てくるお話です。
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ある夏の日、雨が遠くなって久しく、そのくせ異様に湿度が高いため、むわっとした空気が体に貼り付いて不快感を覚えるその日、齢十になる少年は村の川原に来ていた。
目的は修行、数日後に神社で行う子供相撲大会で優勝するためだ。
「フンッ二二二、エイヤー! ハァ……ハァ」
川原にドシリと構えた約七尺(二百十センチメートル)にも及ぶ大きな石、少年はその石を動かさんと必死だった。
「これ動かしたら今年は絶対優勝じゃ!」
少年の着ている白いシャツは既に泥にまみれていた。
「おい小僧、俺と勝負しろ」
「あ?」
修行中の少年に水を差すが如く、少ししゃがれた声の持ち主に勝負を挑まれた。
振り返るが誰もいない。暑さで頭をやられたかと思い、川に飛び込んで涼もうとしたその時、川に佇む妙ちくりんな生き物が見えた。
「な、なななな何だおめぇ?」
思わず声が上ずってしまった。
それは全身が緑色で亀のような甲羅を背負った子供だった。
「オイラは河太郎の三四郎、俺と相撲で勝負しろ」
河太郎? 河太郎とは何だ。そういえばばっちゃんが言っていた。村の川には河童がいると。
聞かされていた容姿に似ている。そうかこいつは河童だ!
「お前河童か! すげえ初めて見た! 友達に自慢しちゃおうかな」
「いいからオイラと勝負しろ」
「おおそうかそうか、いいぜ。相撲勝負だったな」
少年は落ちてた枝で地面に円を描いた後真ん中に二本の線を引いた。簡易的な土俵の完成だ。
真ん中に立ってシコを踏む。準備万端。
「よーし、いい度胸だ。オイラが勝ったら小僧の尻子玉をよこせ」
河童が謎な事を言った。
「尻子玉って何だ?」
「最近の子供はそんな事も知らんのか、尻のあたりにある贓物じゃ、オイラの食いもん」
贓物わかるぞ、ばっちゃんから無理矢理読まされた本に書いてあった。内臓のことだ。
「うぇぇそれってウンコついてんじゃん、汚ったねえ」
「ムム、そう言われると食欲失せる」
「だろ? そうだ! 尻子玉はやれないけどこれやるよ」
少年はスボンから包装紙に包まれた小さな玉を取り出した。家を出る前にばっちゃんから貰った飴玉だ。
熱で若干溶けている飴玉を包装紙から取り出して三四郎に渡す。
「飴ちゃんだ。うめえぞ」
三四郎は飴玉をしげしげと眺めた後、おもむろに口に運んだ。
「何じゃこりゃ、硬いぞ」
「噛むんじゃなくて舐めるんだよ」
「ふむ……くっちゃくっちゃ……美味いな」
三四郎はしばらく無言で飴玉を舐め続けた。そして飴玉が小さくなった時に意を決して飲み込んだ。
「仕切り直しじゃ、オイラが勝ったら小僧の飴玉をよこせ」
「いいぜ、じゃあ勝負だ」
少年と三四郎は土俵の上で睨み合う。腰は深く落とし、両手は地面に軽く付けていつでも踏み出せるように。
少年はゆっくり息を吐いた。
「はっけよーい、のこった!」
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おっぱいは柔らかい。
豊満な胸に顔を埋めながら桧山椋一はその柔らかさに感動していた。
場所は森を出て一番近くの民家、近いと言っても歩いて十五分は掛かる。
よくある一戸建ての家。表札には篠本の二文字。
引越しの挨拶に来たこの家で出迎えてくれたのは、淡いクリーム色の髪のダイナマイトグラマーな女性だった。
「えっと、お久しぶりです篠本のおばさん。森の管理人だった桧山静香の孫の、桧山椋一です。以前この近くに住んでいたんですけど」
「まあ! 椋君!? お久しぶりネ~! いつ帰ってきたの!? きゃ~懐かしい! ちょっと見ない内に男の子になっちゃってもう!」
「ふぎゃっ」
抱き締められた。その際胸に顔が当たって嬉しい。
彼女の名前は篠本ジェニー、その名前と容姿から察する通り出身はアメリカ。三十代半ばの既婚者で、二児の母である。
「オォ、失礼。つい昔の習慣でハグしちゃったヨ」
人妻もありだなと思い始めた頃にようやく開放された。だが自分の中の新しい性癖の扉は開放されなかった。
「いつ帰ってきたの?」
「昨日です」
「そう、また会えて嬉しいわぁ。マナ達もきっと喜ぶわね」
「マナちゃん達は今いないんですね」
「二人とも部活が忙しいみたいでね」
「そうですか」
篠本マナ、篠本ウラ。ジェニーの子供で双子の姉弟である。記憶が正しければ今は高校二年ぐらいか。
用意していた定番のつまらないものを差し上げた後、隣の家(歩いて三分程)へ向かった。
それを四、五回繰り返して引越しの挨拶が終わった後、商店街で食材の買い出し(出来合いのもの多数)を済ませる。気付けば日は既に傾き掛けていた。
「酢イカうまー」
駄菓子屋で買った酢イカを食べながら河原をブラブラ歩く。
夕日で赤く染まった河辺りを歩くのは中々乙なものですなぁ。
「おりゃー!!」
「おろ?」
川原に異様な存在感を出している直径二メートルの石、その石を十歳ぐらいの少年が必死で動かそうとしているのが見えた。
そういえば昔、この村に住んでいた時だが、自分もあの石を動かそうと必死だった事があった。
懐かしいなと思いつつ、椋一はその少年に足を向けて声を掛けた。
「よお少年、精が出るな」
「オジサン誰?」
「お兄さんと呼べ!! 俺はまだ二十二だ!」
「ふ~ん」
少年は興味が無いという感じだ。流石に傷つく。
子供からすれば二十代はオッサンなのだろう。実際椋一もそんな事を考えていた時期があった。
「まあお兄さんの俺は心が広いから許してやるよ。それはそうと少年、その石は動かないぞ。目に見えてるのはほんの一部で、地面の下にすんげえでかい石が広がってるからな」
「はぁ? そんなん常識だろ。子供だから無知だとか思うなよな……オッサン」
この餓鬼殴りたい。いっちょ前に無知とか難しい言葉使いやがって。しかもいつの間にかオジサンからオッサン呼びになってるし。
泣きそう。
「あっやべ、もうこんな時間だ。じゃあなオッサン」
少年は腕時計を確認した後、土手を駆けていった。
その背中を哀愁の目で見送った椋一は、食べかけの酢イカを一気に口に放り込むと一滴の涙を流した。
「最近の酢イカは鼻にツンとくるぜ」
この日は大人しく帰ることにした。
後編は一週間以内に上げる予定です。
サブタイの元ネタは名作柔道映画




