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「と、利家さまっ!えっ、あっ、あのっ!」

と、利家さまが、わ、私をお姫様抱っこした!

嘘っ!

「静かになさい。風呂場に行きます。」

「あ、あの…。」

軽々と私を運ぶ利家さま。

あの細身の体の何処にそんな力が!!

「雨に濡れたまま、何時間いたのです?身体が冷え切ってますよ。」

風呂場の脱衣所に着いた私達。

利家さまは、そっと私を下ろすとあれよ、あれよと言う間に服を脱がしていく。

「濡れた服というものは、脱がしにくいものです。協力を。」

「は、はい。」

最後の一枚に手をかける利家さま。

いや、ちょっと、待って。

「羽鳥?今更照れなくてもいいんですよ。私はあなたの全てを知っているのですから。」

真っ赤になったと確信できる。

だって、利家さまが、こ、こんな言葉を言うはずなんてない。

「また、呆けた顔をして、可愛い人だ。」

押し込められるように全裸になった私は風呂場、シャワーの前に立たされた。

ギョッとなった次の瞬間、暖かいシャワーが足に掛かった。

「しばらく、待ってなさい。」

利家さまの身体が離れた。

あれ?なに?

利家さまなの?足先に当たる湯がだんだんと実感できたころ、不意に背中から抱きしめられた。

「と、利家さま?」

彼の手が私のお腹から胸へと上がってくる。

「あ、あの…。」

「やっと、危惧していたことが今日決着したのです。頑張った私にご褒美を…。」

ご、御褒美って、何ですかっ!

くるりと向き合うとそこには、利家さまの綺麗な身体があった。

「ご褒美…って、何ですか?」

彼の顔が近づいてきて、私の唇を塞ぐ。

あまりにも突然のキスだったから、目は開いたままだったけど、深くなるキスに私の瞼は閉じるしかなかった。

彼の腕に捕まっていないと倒れそうになるような深いキス。

こんなキス知らない。

やっと離れた利家さまに抱きしめられながら、身体の隅々を洗われる。

「ご褒美は、愛する妻との子供です。」

「あっ、愛するっ!」

ギョッとした顔を見たのだろう。

利家さまは、ふっと軽く笑った。

「三上さんは中々尻尾を出してくれなかったんですよ。」

「えっ?」

誘導されて湯船に浸かる。

2人で一杯になった湯船から湯が溢れ出た。

「元々、怪しかったんです。古賀に入った経緯から。そして、彼女が亜紋さま付きになってからというもの、三塚氏が否応なしに現れるものだからね。」

彼の唇が首筋をなでる。

「三塚氏は、偶然を装い、亜紋さまが一人で楽しもうと思っていた料亭にまで現れた。そして、誰も知るはずのないことを言ったのです。」

彼の手が私を愛撫する。

利家さまの言葉を聴きたいのに集中できない。

「亜紋さまが、蘭菊さまのことで近々引退を考えていることを知っているだろう?」

うなずくしかできない。

蘭菊さまは、亜紋さまの奥様で、対外的には“みゆ”さまと言う名前ですごされている。

蘭菊さまは優しすぎるが故に心を2つに分けてしまわれた。

その症状がここ最近酷くなっているのだと亜紋さまは悩んでらした。

蘭菊さまの心が分かれてしまった原因を作ったのが自分だと思われているから。

「彩紋さまは、まだ、大学生だが、十二分過ぎるほど古賀の仕事をこなされている。あの方ほど、古賀にふさわしい方はいない。」

そう、だから、亜紋さまは、蘭菊さまのそばにいようと考えたの。

「その引退のことを三塚氏は知っていた。みゆさまの御病状まで。近しいものが情報を漏らしたとしか考えられなかったんです。」

彼の手が私の足をなでる。

「あっ…。」

自分の声が風呂場に響いて唇をかみ締めた。

「声を殺さないで…聞かせてください、羽鳥。」

だめ…名前を呼ばないで。

「笠原家の人間として、その情報を彼に漏らしたのが誰なのかをずっと探っていたのです。ですから、羽鳥、君の相手をする時間が少なくなってしまったんです。」

「と、利家さまは、三上さんの言うことを真に受けてらしたわ…。私が彩紋さまに…。」

指が奥に入ってきて、湯船の淵を掴む手に力が入った。

「敵を騙すには、まず味方からだと言うでしょう?あなたを傷付けるつもりはなかったのですが、あなたに愛されてると分かって嬉しかったですよ。」

最後の方は意識がおかしくなって聞こえなかった。


「大丈夫ですか?少しのぼせてしまいましたね。」

ひんやりとした手が額に置かれた。

ベッドに横にされた私を覗き込む利家さま。

「わ、私…利家さまにとって、ちゃんと妻ですか?」

そう尋ねた私に利家さまはにっこりと笑って見せた。

「えぇ、もちろん。あなたほど、私を愛してくれる人はいないでしょう?」

ずるい言い方だ。

「彩紋さまの戯言も軽く交わせるんですから、大したものですよ。」

ニコニコしてる利家さま。

いったい、どこまで知ってるの?

「彩紋さまや古賀の方々が心配しているように、私には結婚は無理だと思っていたんです。」

いつになく、寛いだ風に見える利家さま。

くそ~真正面からその顔を見たいのに起き上がれない。

「な、何でです?利家さまは、素敵です。きっと、私なんかより綺麗で…。」

そっと指が唇に触れた。

「自慢じゃないですが、私は性格が悪いのですよ。こと、古賀に対する人々に関しては。」

「…。」

自分で言ってしまうことが凄いです。

「その人を古賀から遠ざけるためなら、味方も平気で騙すほどに。ですから、私を通して古賀に近づこうとする女性にも辛辣なんです。」

首をかしげる。

「三上さんも、一度は私から離れていった人です。気に入らなかったので、振られて差し上げたのです。プライドの高い女性は振られることに慣れてませんから、もし振ったとなると古賀にとって不利益になることをしでかすかもしれません。」

ちゅっと頬にキスをされる。

ですから、今までの利家さまなら、こんなことはしないです!って。

「再び近づいてきたのは、三上さんが初めてだったんですよ。だから、今度は遠慮なく振って差し上げようと思ったのです。秘密漏洩の件もかねて。」

利家さま?私の問いの答えをください。

じっと見つめる。

どうして、尋ねたいのに、言葉が出ない。

優しい利家さまに期待してしまってる私がいるからだ。

「私は自分のことをよく分かってますからね、私のような人間にまっすぐ告白してきた人間はあなただけでしたし、観察して見るとどうやら裏表もない。面白い方だと思ったのですよ。まぁ、周囲があなたを私にと押していることは解せなかったのですが、」

利家さまは私の隣に横になって私の髪で遊んでいる。

「あなたの真面目な働き振りと奥様に対する思いやりを見て、素敵な方だと思ったんです。好きですよ、これは、愛でしょう?」

ニコニコと笑う利家さまの顔がゆっくりと近づいてきた。




つづく

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