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「君は、古賀の家に仕えるモノとして、節度を保たなければならないよ。」

不意に利家さまが言った。

屋敷内にある食堂で昼食を終えた私に目の前の彼が。

「えっ?」

「彩紋さまは、古賀にとってかけがえのない方です。君は、あの方にとって一番身近な使用人のようだが、それをわきまえなくてはならない。」

何のことを言っているのだろう。

「三上が、言っていたんだよ。君が彩紋さまを誘惑していると。」

私は言葉をなくした。

三上さんって言うのは、古賀家に仕える使用人の1人で、私が来るまで利家さまの右腕といわれてきた女性だ。

主に奥様の秘書として仕えている彼女はきりりとした女性で、ポッと出の私をよく思っていないようだった。

「そ、そんな誘うなんてしていません。私は、利家さまの妻です。」

私と利家さまだけが残っている食堂に私の声が響いた。

利家さまの冷たい目・・・。

「そうだったね。では、三上に誤解などされないようにしてください。」

スッと立ち上がり、食堂の奥に食器を返却して行く利家さまの背中が歪んだ。

涙が溢れてくる。

利家さまに愛されなくても、信頼だけはされたかった。

だから、利家さまの言葉は辛いものだった。

視界の向こうに消えて行く彼の横には、三上さんらしき人影。

「大丈夫かい?」

そっと声を掛けてくれたのは料理長夫人。

「吉川さん・・・。」

「まったく、利家くんも困ったものだねぇ。」

料理長も厨房から私達の様子を見ていたみたいで、出てきてくれた。

「羽鳥ちゃんを見ていたら、どれだけ利家くんを好いているか分かるだろうに。」

苦笑する私。

吉川夫妻は、利家さまのお父様やお母様と同じ頃から古賀に仕えてきた人達で、

利家さまのことを御自分達の子供のように思ってらっしゃるの。

「三上さんもねぇ・・・。また利家くんに未練でもあるのかねぇ。」

料理長の言葉に思わず身構えた。

奥さんが料理長の肩を叩く。

「未練?」

「ほら、あんた・・・。」

大きなため息を吐く2人。

「気、気にせんとき?」

苦笑する料理長。

「吉川さん・・・何を知ってらっしゃるのですか・・・。」

「いや、昔の事だよ。」

そそくさと厨房に戻って行く料理長。

私は奥さんの方に向いた。

「そうそう、昔の事。羽鳥ちゃんは、何も心配しなくていいんだよ。」

奥さんも厨房へと戻っていった。

三上さんと利家さんの間には、私の知らないことがあるんだ。

そう思ったら、胸の奥がきゅっと痛くなった。


屋敷の掃除をしているハウスキーパーに指示を出している間も利家さまと三上さんの過去が気になっていた。

「どうしたんですか?」

声を掛けてきたのは古賀家と契約しているハウスキーパー会社“光”の社員の横橋くん。

たしか私と同い年でハウスクリーニング“光”の跡取りだ。

「えっ?」

「顔色が悪いですよ。」

きっと変なことを考えていたからだろう。

「大丈夫です。それより、明日は、庭ですね。」

「え・・・あぁ、そうですね。庭師の埴さんの指示を待って掃除します。それより・・・羽鳥さん・・・今晩、お暇ですか?」

彼の最後の言葉が遠かった。

「えっ?」

「ですから、今晩一緒にお食事でもいかがですか?」

「ありがとうございます。けれど、夫も忙しいですし・・・時間的に無理だと・・・。」

「違います。僕は、あなたと2人で食事に行きたいんです。」

男の人に食事の誘いを受けるなんて初めてだった。

けれど、その誘いを受ける事はできない。

だって、忙しいし・・・私には利家さまだけだから。



つづく



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