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「おはようございます、利家さま。」
いつになくビシッと決めている利家さま。
あぁ~なんて素敵なの!!
私は彼のために料理を作り、その前に出した。
旦那様方に出すものよりも利家さまに出す方が緊張するって言ったら笑う?
「君は食べないのですか?」
いつも言われない事を言われて手が止まる。
「えっ?」
まじまじと利家さまを見てしまった。
すると利家さまは、少し視線をずらしてしまった。
「わ、私は旦那様方のを用意した後に・・・いただきます。」
「そうでしたね。」
いつものように優雅に箸を使って食べている利家さま。
私は軽くお辞儀をして出て行くことにした。
「あっ、」
ふと利家さまの声がして振り向く。
けど、利家さまは何もなかったように朝食を食べていた。
利家さまが食事中に余計な声を出すなんてありえないか・・・。
私は、旦那様方の朝食のメニューを気にしながら母屋へと向かった。
私は、普段笠原家のことと、古賀家の家事の事を考えている。
利家さまの妻になって、実際に古賀家の方々のために腕を振るうのは朝食くらいなんです。
本格的に利家さまが働くようになってから、お義母様とお義父様は隠居された古賀の総帥邸へと行ってしまった。
師を失ってしまったような喪失感も利家様の存在が支えてくれてる。
もちろん、大きなキッチンには数名の料理人がいるのだけど、その方々は昼食と夕食の仕込みに忙しいし、
古賀の抱える使用人の朝食を作ることも彼らの仕事なのです。
ハウスキーパーの方にお掃除や家具のお手入れを指示するのが私の仕事。
お忙しい古賀の当主様夫妻に代わって学生の彩紋さまのお世話をするのも私の役目なの。
「おはよう、羽鳥。」
「おはようございます、彩紋ぼっちゃま。」
私がぼっちゃまというと彩紋さまは、いつも少しだけイヤそうな顔をされるのだけど、おぼっちゃまは、おぼっちゃまだ。
彩紋さまは高校を卒業して大学生になっていたけど、古賀の実権のほとんどは彼に委譲されていました。
亜紋旦那さまは、奥様の静養のために海外に移住してしまわれ、古賀の方の世話と言っても彩紋さまだけになってしまいました。
けれど、高校からの御親友である神津のぼっちゃまとも大学が一緒だから安心です。
幼い頃から英才教育を受けてこられた坊ちゃまは小学校にも通わず、家庭教師の方がついておられたと利家さまに聞きました。
高校に入って、同じ年頃の方との交流も必要だと大旦那様の言葉で高校に通うようになった彩紋さまは、
そこで神津さまと出会ったそう。
これは、利家さまのお義母さまからの情報。
「彩紋さまが、学校生活を有意義に楽しく過ごされているのはとてもいいことなのだけど、
元々のお茶目な性格に輪が掛かったみたいだわ。ボロアパートを借りたりしてるのよ。」
苦笑するお義母さま。
でも、嬉しそう。
「彩紋さまは、とてもピアノがお上手なのだ。古賀の家に生まれていなければ・・・もっと自由に。」
ある日、初めて彩紋さまのピアノを聞かせてもらったときに、利家さまがぽつりと呟いた言葉。
ふと思った。利家さまにも別の未来があったんじゃないかって。
「おはよう、羽鳥。今日も笑顔が素敵だね。」
彩紋さまは、いつもこんな言葉をくださるの。
「彩紋さまったら・・・。」
彩紋さまは挨拶にいった時には既に起きていて身支度もしっかりおわってるのよね。
本気にしていると疲れると利家さまが漏らしたことがあったのを思い出す。
彩紋さまは、どう言う人なのか計り知れない。
時々冗談を言っては、裏でとてつもないことを考えておいでで、
だんなさまもびっくりするアイデアを言ってこられる事もあるんだと利家さまが感心しておられたの。
「羽鳥ぃ・・・。」
「はい、なんでございますか?」
ニコニコと笑顔の彩紋さま。
「年下は嫌い?」
「はい?」
ニコニコ。
「利家よりもずっと将来性がある僕と結婚し直さない?」
何を言っているのかも理解できなかった。
「冗談ではないよ?たかだが7歳差。父も母も働き者の羽鳥なら満足してくれるだろうし。」
「彩紋さま、お戯れも過ぎると怒りますよ。」
「僕のことは嫌いかい?」
すっと近くに寄ってきた彩紋さまは、私よりもずっと背が高い。
彼が冗談で言っていないのは目を見たら分かるけれど・・。
「嫌いなはずがありませんわ。でも、これは恋でも愛でもありません。分かっておいででしょう?」
ふうっとため息を吐く彩紋さま。
その瞳に宿るのは何?
「あ~あ、羽鳥となら、おもろい家庭が作れる思うたんやけどなぁ!」
「彩紋さまにも、いつかただ1人の方が現れますわ。旦那様にとっての奥様みたいな。」
彩紋さまが鼻で笑う。
「父と母は、政略結婚だよ。ま、今はどうだかわかんないけどね。」
悪戯っぽく笑う彩紋さま。
「ま、出会いがなければ家が選んだ適当な人と結婚して、子供作るんだろな。」
子供という言葉に反応してしまう。
「子供ですか?」
「跡継ぎね。男なんて、好きでなくても女は抱けるからね。」
結婚して2年。
私と利家さまの間にはまだ子供はいない。
あの行為は、利家さまに愛されているのかもって勘違いをしてしまいそうになるほど、私には甘美なことなんだけど。
「愛とか、恋とかって本当に必要?」
「えっ?」
気が付くと目の前に彩紋さま。
「利家のそばにいられて幸せ?そこに愛はあるの?」
「さ・・・彩紋さま・・・。」
「君を雇った事、少し後悔しているんだ。」
私が利家さまのそばにいたいと願って、その願いを彩紋さまはかなえてくれた。
「未来を決めてしまって、振り返る事も、立ち止る事もしない利家に羽鳥の明るさを与えたかった。
けれど、利家は変わらないし、羽鳥・・・君の笑顔が曇って行くのを・・・。」
「私は幸せです!」
力を込めて言った。
愛する人と一緒にいられて、尊敬する主人に仕えることができて。
一方的な愛でも・・・。
つづく




