第19話:伝説が息づく街と、かつての戦友たちが残した足跡
『エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜』第19話をお届けします!
ついにガロウ師匠の故郷である歴史ある街に到着したアラン。そこは、かつて世界を救った伝説のパーティー――人間の元勇者ユリウスや、エルフの元天才魔導師エルリィたちが足跡を残した場所でした。街の重厚なインフラや人々の営みに大興奮しつつ、師匠の過去の意外な交友関係に迫る話をお届けします!
【年齢:9歳後半(少年期・修行編・ロードトリップ道中)】
地平線の向こうに夕暮れのシルエットとして浮かび上がっていたその街は、実際に足を踏み入れてみると、想像以上に重厚で歴史の重みを感じさせる美しい石造りの要塞都市だった。
王国の中央から遠く離れた辺境に位置していながら、街を取り囲む外壁はきれいにメンテナンスされており、門のあたりを行き交う衛兵や冒険者、商人の姿にも活気がある。人間だけでなく、ドワーフや各種族の亜人たちがごく自然に共存し、それぞれの専門技術を活かした商売を営んでいる様子は、私の「将来の理想郷計画」のデータベースにとっても非常に価値の高いサンプルだった。
「ふう……。相変わらず、この街の門はごつい造りをしてやがるな」
隣を歩いていたガロウ師匠が、頭上にそびえる巨大な石造りのアーチ門を見上げながら、やれやれといった調子で低く呟いた。
その声には、故郷に戻ってきた者特有の、気恥ずかしさと深い懐古の念が入り混じっていた。
私は師匠の隣に立ちつつ、表面上はいつもの完璧な「礼儀正しい美少年のポーカーフェイス」を保ちながらも、内心では大歓喜の嵐が吹き荒れていた。
(――ついに到着した……! ここがガロウ師匠の故郷……! かつて世界を救った伝説のパーティーの足跡が残り、無数の他種族たちが独自の文化を築き上げている歴史ある街……! 街の石畳の排水溝の勾配設計から、門の開閉にかかる物理的負荷の分散機構に至るまで、行政的合理性の美しさが完璧に体現されている……! あぁ、たまらん……! この街に一ヶ月ほど引きこもって、インフラの構造図を隅から隅までスケッチしたい衝動に駆られる……!)
内心のオタク的狂喜乱舞を顔に出さないように必死で顔の筋肉をコントロールしつつ、私は冷静なトーンで師匠に話しかけた。
「素晴らしい街並みですね、師匠。外壁の石積みは雨水が溜まらないように微妙な傾斜がつけられていますし、門番の交代要員の配置や動線も無駄がない。何より、人間と亜人がこれほどスムーズに共存しているのは、長年にわたる優れた都市管理の歴史がある証拠です」
私のその感想を聞いたガロウは、呆れたように片眉を上げ、私の頭に軽くチョップを落とした。
「痛っ」と小さく声を上げると、ガロウはフッと鼻を鳴らして笑った。
「お前は相変わらずだな。普通のガキなら、街のデカさや賑わいに目を丸くするところだが、お前は最初から石垣の構造や都市管理の話かよ。まあ、お前のその変な頭の良さと肝の据わり方がなければ、俺のスパルタについてこられなかっただろうがな」
「褒め言葉として受け取っておきます、師匠。それで、まずはどちらへ向かいますか? 旅の宿を取るのが先決かと思いますが」
「そうだな……。まずは、この街の古くからの知人のところへ顔を出して、情報収集といこう。お前が欲しがっている『新しい相棒』の件についても、あいつなら何か知っているかもしれん」
ガロウに連れられて私たちが向かったのは、大通りから一本外れた、少し落ち着いた雰囲気の漂う石造りの一角だった。
「古物商・オルヴァン」と控えめな看板がかかったその店の扉をガロウが押し開けると、カランカランと心地よい真鍮のベルの音が響いた。
店内には、古い魔導具の部品や、各種族の伝統的な工芸品、さらにはどこかの遺跡から発掘されたような古びた武具の数々が所狭しと並んでいる。
カウンターの奥から、ひょっこりと顔を出した初老の男は、ガロウの姿を見るなり目を見張り、次に口をあんぐりと開けた。
「おいおい……! こいつは驚いた……! 幽霊でも見た気分だぞ、ガロウ! お前、数年前にふらっと姿を消してから、どこかで野垂れ死んだかと思ったぞ!」
店主のオルヴァンは驚愕と歓喜が入り混じった顔でカウンターを飛び出し、ガロウの頑丈な肩をパンと叩いた。
ガロウは豪快に笑いながら、「生憎と、しぶとく生き延びていたわい」と応じる。
そんな二人のやり取りを背にしながら、私のアンテナは店内に漂う古い書物や古美術品の数々へと向けられていた。
(――この店の品揃え……! 各種族の歴史的変遷を示す一次資料の宝庫じゃないか……!)
私が目を輝かせて店内のディスプレイを観察していると、ガロウが私をオルヴァンに紹介した。
「おい、オルヴァン。こいつは俺の弟子のアランだ。年の割には生意気だが、腕は確かでね」
オルヴァンは私をじろりと見つめ、その整った身なりと落ち着いた物腰に感心したように頷いた。
「ほう……こんな若いのに、ガロウの弟子かいそいつは。うちの頑固オヤジの弟子になるなんて、相当な変わり者か、あるいは怪物だな」
「初めまして、アランと申します。ご主人、この店に並んでいる品々はどれも素晴らしい歴史的価値を感じますね。特に、そこの棚にあるエルフ族の古い魔導回路の断片は……」
私が専門的な視点でその場で流暢に語り始めると、オルヴァンは目を丸くし、やがて大笑いしながら言った。
「ははっ! こいつはたまげた! ガロウ、お前の弟子は学者崩れか何かなのか!? いや、面白い! 旅の疲れだろう、まずは奥の席に座りな!」
私たちはオルヴァンの厚意に甘え、店の奥にある暖かな暖炉の前に席を取った。
熱いハーブティーが出され、旅の冷えた身体に染み渡る。
しばらく世間話や街の近況について語り合っているうちに、話題は自然と「かつての英雄たち」の噂へと移っていった。
オルヴァンはグラスを拭きながら、遠い目をしてぽつりと呟いた。
「それにしても、お前が戻ってきたとなれば、かつての仲間たちにも伝えた方がいいんじゃないか? ほら、王都で騎士団長をやっているあのユリウスとかさ」
その名前が出た瞬間、私の耳がピクっと反応した。
――ユリウス・ベルンハルト。
かつてガロウと共に世界を救ったパーティーのリーダーであり、人間の元・勇者にして剣聖。現在は大国の王国騎士団長として表舞台の最高峰に立っている男。
ガロウは面倒そうに頭を掻きむしりながら、ぶっきらぼうに答えた。
「あいつは今や国の要人だ。俺みたいな隠居の老いぼれが、のほほんと顔を出せる立場じゃねえよ。せいぜい、向こうが勝手に噂を聞きつけて『まだ生きていたのか』と酒でも送りつけてくれば上等だ」
「ははっ、相変わらずつれない野郎だな。だが、ユリウスだけじゃないぞ。エルフの森のほうでは、あの天才魔導師だったエルリィの噂も時々耳にする。なんでも、長命なエルフの間でまた新しい魔導理論の論文を出したとか何とか……。お前らのパーティーの連中は、年をとっても化け物ばかりだ」
――エルリィ・フォン・ミスト。
エルフの元・天才魔導師であり、かつてのパーティーの頭脳。長寿の賢者として今なおその名を轟かせる彼女の名前が、ここで飛び出したのだ。
私の脳裏に、以前から考えていた「全属性同時圧縮エンチャント」の魔術理論と、エルフ族の高度な魔力制御技術が電撃的に結びついた。
(――エルリィ・フォン・ミスト……! かつてガロウと共に戦ったエルフの天才魔導師……! その魔導理論の断片だけでも私のエンチャント技術をさらに昇華させるヒントが眠っているはずだ……! いつか直接お会いして、魔力制御の効率化について朝まで議論したい……!)
私の内面で激しい知的興奮が渦巻いているのとは裏腹に、外面の私はあくまで上品にハーブティーのカップを傾けていた。
ガロウはオルヴァンの言葉に小さく鼻を鳴らしただけで、それ以上昔の仲間の話は深く掘り下げようとしなかった。しかし、その表情の奥には、かつて共に死線をくぐり抜けた戦友たちへの確かな信頼と、複雑な想いが宿っているのが私には分かった。
「でだ、オルヴァン」
ガロウは話題を本題へと切り替えた。
「俺のこの弟子がな、そろそろまともな相棒(武器)を欲していてね。この街の腕利きの職人を紹介してほしいんだが……」
オルヴァンはニヤリと笑い、腕を組んだ。
「武器か……それなら、この街の連中に聞くまでもないだろう。お前がここに来たってことは、つまり……あの『偏屈なドワーフ』のところに行くつもりなんだろ?」
ガロウはフッと不敵に笑い、何も言わずに頷いた。
その名前を聞いた瞬間、私の胸が高鳴る。
――伝説の鍛冶師、ドルフ・グラント。
ガロウの故郷の街での滞在は、私にとって単なる通過点ではなく、最強の相棒を手に入れるための「最重要のインフラ整備フェーズ」の幕開けだった。
歴史と伝説が息づくこの街の空気を感じながら、来るべきドルフとの出会いと、自身の技術の集大成に向け、私は静かに闘志を燃やすのだった。
第19話をお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ついにガロウの故郷の街へ到着したアランとガロウが、古物商の主人オルヴァンとの会話を通じて、かつての伝説の仲間たち(ユリウスやエルリィ)の噂に触れるエピソードを描きました。
アランの内心のオタク的狂喜乱舞と外面のクールな美少年のギャップを交えつつ、物語はいよいよ伝説の鍛冶師ドルフの工房への足がかりへと進んでいきます。
次回、アランとドルフの運命の出会いと、「霊刀・虚空」に向けた熱いクラフトのドラマが幕を開けます。ぜひ次回の展開もお楽しみに!




