辺境の悪女、見参
はじめまして。石川奈々生です。
恋愛小説を書いてみたくなって、投稿してみました。
よろしくお願いいたします。
今回はプロローグ的なパートです。
シャンデリアには灯がともり、窓辺のカーテンはどこも美しく整えられている。
さんざめく着飾った紳士淑女、笑い声、誰かを揶揄するような視線と潜めた声。
「ランベルト辺境伯ご夫妻、入場です」
朗々と響く声に、人々が大きく開いた部屋の入り口を振り返った。
「うわさの辺境伯ですわよ」
「『悪魔』の二つ名を持つ辺境伯と、その妻の『悪女』か……」
「王宮のパーティに二人そろって出席するのはこれが初めてですってよ」
しかしそこに立つ二人の姿を見た者は、紡ごうとした言葉を飲み込み、ただひたすらにその姿を見つめてしまう。
『悪魔』と呼ばれる辺境伯、オスカー・ランベルトは美丈夫だった。
男らしい、しかし整った顔立ちと、しっかり筋肉のついた長身の姿は、女性たちにときめきを与え、無意識に胸元を押さえさせた。
黒髪をゆるくかき上げ、ほんの数筋が輝くようなブルーグリーンの瞳にかかる。
鮮やかな瞳の色とはうらはらに、どこか憂いをおびた目つきが、彼を単なる美形から、物語のある一人の男に仕立てていた。
軍服めいたデザインの服は純金のボタンや金糸の刺しゅうで下品になる一歩手前まで飾られ、辺境伯家の財力を誇っていた。
コンラート侯爵令嬢……いや今はランベルト辺境伯の妻となったリリエスタは、『悪女』の名にふさわしく、夫と同じ黒い色のドレスを着ていた。
しかし、それは陰惨ではなく華やかなドレスだった。
驚くような細い腰を強調するドレスは、胸元を豪華な金色のレースで覆い、腰からスカートの後ろ側にかけて同じレースを何段にも重ねていた。
灰色がかった薄茶色の髪は豪華に結いあげられ、そこにオスカーの瞳と同じ色の宝石の飾りをつけていた。
ほっそりとした首に巻かれたチョーカーと、耳朶をすべて覆う程の耳飾りも同じ宝石で飾り立てられたリリエスタは、オスカーの「俺の女だ」という独占欲をこれでもかと見せつける。
リリエスタの白い肌に魅入られたように頬をほてらす男たちには、その輝きはまるで刃のように感じられて、熱い息をひゅうと飲み込ませた。
反対にオスカーの首元のタイを留める宝石は、リリエスタの瞳の深い紫色で、これもリリエスタの独占欲を彩っているようであった。
恐ろしい悪魔のような大男、魔物を顔色ひとつ変えず一刀両断する暴力的な武人、そして何よりひそかにささやかれる「妻殺し」というのがオスカーの王都での評判だった。
辺境を魔物の住む常闇の森から守るため、若くして家を継いで以来ほとんど王都に顔を出したことのないオスカーは、その武勲のみが伝わり、実像は何一つ伝わっていなかったのだ。
******
人々の目が私たちに集まっていた。
ずっと目立たぬように生きてきた私には、その視線が怖かった。
足がすくみそうになる。
私の指先をすくいあげるようにしてエスコートしているオスカーの指に、ほんの少し力がこもる。
「大丈夫だ、リリエスタ。俺が一緒だ」
唇が動き、私にだけ聞こえるように低い声が励ましてくれる。
「……ありがとうございます、オスカー」
練習したように、笑ってみせる。
紅く塗った唇は、うまく微笑んでいるかしら?
「そうだ、リリエスタ。君は美しい。私の——悪女」
オスカーはそういって、私の指先にキスを落とした。
読んでいただきありがとうございます。
次回より本格的に話が始まりますが、普段はラストのようにリリエスタの一人称になるかと思います。




