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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第3部】恋トキ外伝 -DARK BLOSSOM-

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「二人目攻略完了ですわ(攻略じゃなく解決)」

 カイは美しい黒髪を揺らし、指先で眼鏡の位置を直す。


 その声は演劇でも始まりそうな調子で、柔らかく、取り乱す様子もなかった。


「ガーツさん。一つ、反論していいか」


「言え。……不満があるなら、すべて吐き出せ」


「あなたはあの魔女に未来を託したのかもしれない。だが、俺たちは違う。行き場を失って、この商会に流れ着いただけだ。まだ、その魔女に賭けると決めたわけじゃない」


 ガーツは何も言わずに、カイを見つめていた。


 今度は俺の口が、自然と動いた。


「カイ様」


 室内の視線が、一斉に俺へと集中する。


「あなたは我が商会の中で、せっせとネズミに餌を運ぶ下働きのように、商会の資産を外へ流しておりましたのね」


 いきなり暴露するのかよ。


 俺は満面の笑みだったのに、会議室の温度は一気に下がったように感じられた。


 顎をわずかに上げて、カイを見下ろす。


「そもそも、その程度の貧相な帳簿の改竄で、このわたくしを騙し通せると思っていらしたのかしら?  ご自分の頭の出来を過信なさるのも、大概にしてくださいませ。あまりに滑稽で、失笑を禁じえませんでしたわ」


 見破ったのはリンだけどな。


「……っ」


 カイは小さく息を呑み、観念したようにふっと視線を落とした。


 だが、すぐにゆっくりと顔を上げる。


 その眼鏡の奥の瞳から、剥き出しの執念が覗いている。物腰の柔らかかったイケメンの顔が、一瞬で鋭いレジスタンスの顔に変わった。


「……これ以上取り繕う意味はないか。認めましょう。俺が帳簿を書き換え、商会の資産を裏で動かしていたのは事実です」


「あら、素直でよろしいですわ。それで? 横流しした大金を、一体何に使いましたの?」


「……前線の仲間たちの、資金だ」


「資金?」


「前線で傷つき、今も飢えながら動いている他の仲間がいる。未来を信じて戦う彼らの命を繋ぐために、どうしても金が必要だ。……彼らを見捨てることだけは、絶対にできない!」


「それだけですの?」


「俺たちにとっては、最後の希望なんだ!」


「つまり、連邦への抵抗運動を継続させるために使いますの?」


「この腐った連邦の支配を終わらせるためなら、俺は命もいらない! どんな汚名でも着てみせる!」


 ……なるほど。大義名分としては立派だが、やり方がお粗末すぎだな。


 パサリ、と優雅な音を立てて扇を開く。


「まあ、なんて涙ぐましくも美しい。感情論としては満点ですわ。ですが、そんな不毛な慈善活動に、あなたが身銭を切ってお付き合いする必要がありまして?」


「……何だと?」 


「あなたがやっているのは、ただの持続不可能な延命処置ですわ。あなたの横流しが露見した今、その資金源は絶たれた。それに命を懸けたところで、予算も物資も湧いては出てきませんわ」


「……っ」


「ですが……レジスタンスが、連邦の独占市場をこじ開けるための先行投資としてなら、話は別ですわ」


「……どういう意味だ」


「わたくしが『人道的な支援事業』として、生活基盤と流通網を合法的に保障して差し上げますわ。つまり、レジスタンスを困窮した一般市民として扱いますの。連邦の目を欺くには、それだけで十分ですわね」


 俺の唇が愉快そうに吊り上がる。


「その代わり、解放した地域における関税免除と宙域資源の採掘権は、すべて我が商会がいただく。利権の確保と大義名分、双方の利益が一致しますわ。完璧なビジネスモデルだと思いませんこと?」


 カイは驚愕に目を見開いた。


「連邦法の抜け穴を利用してレジスタンスを合法化し、その代償として経済圏を丸ごと掌握する……?」


「人聞きの悪い言い方ですわね。わたくしは困っている方々を助けるだけですわ」


「助ける見返りにコロニーひとつ分の利権を持っていくのか!」


「慈善事業だけでは商会は運営できませんもの」


「……俺たちの名誉と命をかけた戦いを、金の為に利用するか!」


「あら、利用ではなく事業と言っていただきたいわ」


 俺はふっと目を細め、優雅に微笑む。


「そもそも、あなた方は武器も資金も補給線も不足している。戦って勝ったとして、その後はどうなさるおつもり?」


「それは……」


「解放した地域の治安維持。食料の確保。雇用の創出。インフラの再建。どれも武器では解決できませんわ」


 カイが言葉を詰まらせる。


「革命は戦場で終わりではありません。その後に人々を食べさせてこそ意味があるのですわ」


「……」


「だからわたくしが投資する。そして利益をいただく。当然の話ですわね」


 俺は扇子を広げるような優雅な仕客で微笑んだ。 


「あなたがただの反乱分子として消えるか、それとも我が商会の企画協力者として歴史に名を残すか。……お痛が過ぎたコソ泥さんに、選択肢を差し上げますわ」


 カイはゆっくりとガーツを見た。


 ガーツは何も言わず、ただ深く一回だけ頷く。


 やがて、カイが再び俺に向き直る。


 その顔には、どこか降伏を認めたような苦笑が浮かんでいた。


「……その人道的な支援事業とやらの続き、詳しく聞かせてもらえるか」


「ええ、喜んで」


 静まり返った廊下で、レイが壁に背を預けて待っていた。


「どうでしたか?」


「とても有意義な話し合いができましたわ」


「カイさん、横領してたんですよね!ただの話し合いで済ませちゃうんですか?」


「ええ、そうですわ」


「え、ええ!? 処分して追放とか、採用取り消しにはしないんですか?」


 追放。


 いや、追放はだめ。


 俺と蓮華のトラウマだし。


「今回はあくまで、規律違反である資金の横流しの問題ですわ。話し合いで利益のある解決策が見出せた以上、彼らを排除するかどうかはまた別の話ですわ」


「でも、カイさんは横領ですよ!犯罪ですよ!大問題起こしたのに、話し合いで落ち着かせて味方に引き入れるなんて……甘いと思います」


「救った恩義もある。資金の横流しの弱みもある。なにより能力もある。手放す理由がありませんわ。ここで処罰して敵に回すより、我が商会のために働いていただいた方が利益になりますもの。ね? ちっとも甘くなんてしていませんでしょう?」


 レイは大袈裟に頭を抱えて、それ以上語るのをやめた。


 その夜、しんとした廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号にナイラが音もなく姿を現した。


「何かあったのか」


 ナイラは事の詳細までは知らないはずだ。


 だが、ここ数日の商会内の張り詰めた空気を、持ち前の勘で察していたようだった。


「少々、揉め事がありましたの。でも、もう綺麗に解決しましたわ」


「……そうか」


「ご心配をおかけしましたわね」


「心配なんかしてないさ」


 ナイラはぶっきらぼうに短くそれだけ言うと、用は済んだとばかりに素っ気なく踵を返した。


「ナイラ」


「ん?」


「ありがとうございますわ」


 ナイラは足を止め、怪訝そうにほんの少しだけ首を傾げた。


「……アタイは、何もしてないよ」


「わたくしの周り、さりげなく警備の人数を増やしてくださっていたでしょう?」


「……ッ、気づいたのか」


「ええ、当然ですわ。わたくしの目を盗めるとお思いで?」


 ナイラは気まずそうに少しだけ目を逸らした後、振り返らないままぽつりと呟いた。


「……前にもらった、花のお礼だよ」


 それだけ言い残して、彼女は足早に部屋を出て行った。


「そういうことにしておきますわ」


 俺は手元の扇を、ゆっくりと、愛おしむように閉じた。


 誰一人として仲間を失わずに済んだ。


 それこそが、今回の事で俺が得た最大の利益だ。

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