27.ふたりのソフィア
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しばらくすると突然視界が真っ暗になり、前から誰かが歩いてくるのが分かった。目の前に現れるのは『自分』だと思ったが、実際は『ソフィア』だった。そして自分の姿が元に戻っている事に焦りを覚える。
「ふふ、大丈夫よ。今は魂で会話しているからこの姿に戻っているだけ、目が覚めれば貴方は『ソフィア』、私は『チエ』に戻れるわ。」
「…そう。」
ホッとしている自分に心の底から驚く。
ちなみに、『チエ』は私の元の姿の名前だ。
「何で私と人生を入れ替えたの?」
「…自由になりたかった。元の世界では、貴族令嬢にとって結婚が仕事みたいなものですし、自分のやりたい事なんて何もできないと思っていたから。」
「それだけ?ウィリアム殿下のことは?」
「大好きだったわ。レイモンド殿下に振られてから、私の側にずっといてくれたのはウィリアム殿下。そもそもレイモンド殿下の事を好きになった領地での事件も、ウィリアム殿下を見間違えての事でしたし。」
「ウィリアム殿下も貴方のこととても愛していたし、大切にしていたのに何故?」
「好きだから、同情で一緒にいてもらうのは辛かったの。」
「同情?」
「ウィリアム殿下はレイモンド殿下に振られた私を慰めるためにずっと一緒にいてくれたの。妹のようにとても可愛がってくれてたけど、ただそれだけ。女性として見てくれていたわけではないのよ…。」
ソフィアの瞳が悲しげに揺れる。
「同情されて一緒にいてもらうくらいなら、わたくしは自分のやりたい事を目一杯やってみたかった。大好きなドレスのデザインもやってみたかったし、自分のお店も持ちたかったし、そのドレスを着る広告塔にもなりたかった。貴方のお陰で全て叶えることができたわ。本当にありがとう。」
「人の人生乗っ取っておいて何を呑気な…」
「うっ…。」
「って多少思うところはあるけれど、ソフィアの努力は並大抵のモノではないと認めるし、私なんかの人生がこんな風に変わるなんて思わなかった。本気で頑張ればまだまだ色んなことが出来たんだなって。」
「…ごめんなさい。」
「この世界に来て大変なこともあったけど、今はとても楽しくて幸せよ。」
「ありがとう。私は、『ソフィア』の人生じゃ貴方のようにはできなかった。自分の夢を叶えるには、ウィリアム殿下に婚約を取り下げて貰うしかないと思ってたから。でもまさか、ウィリアム殿下の本当の心も自分のお店もしっかり手に入れちゃうなんてね。」
「後悔はしてない?」
「そんなわけないじゃない!せっかく来月には念願の自分のブランドが立ち上がって、夢が叶うのよ。これからもやりたい事がたくさんあるわ!」
「そう。よかった。」
後悔はしていないと分かり、ほっと胸を撫で下ろす。ウィリアムを置いて元の世界には戻りたくないし、私1人ではきっと『ネット配信者』と『経営者』は務まらない。
まあ、『侯爵令嬢』まもなく『公爵夫人』と『経営者』も務まるのか疑問が残るが、ウィリアムとなら何とかやっていける気がしている。
すると、目の前で大きなため息が聞こえた。
「はぁー、心配にしなくても殿下が好きなのはあなたの魂だし、私が戻ったら彼はガッカリさせてしまうわ。私のことなんて微塵も気にせず幸せになって。私も、今めちゃくちゃ幸せだから。」
満遍の笑みを浮かべたソフィアの姿が徐々に薄くなっていく。
「あっ、待って!私も変わるきっかけをくれてありがとう。ソフィアの挑戦応援してるね!私も頑張るわ。」
笑顔で手を振るソフィアが完全に消えたと思ったら、急に周りが明るくなる。すると、バンッと大きな音を立てて誰かが店に入って来た。
「ちょうどいいところに、お迎えが来たようじゃな。」




