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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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53話 白井ほのかは恨まない

 踊り場で急遽披露した決勝戦用のネタは感触が掴めないまま終わる。

 白井さんは気丈に振る舞っていたが、俺と一緒で言葉数は少なかった。

 「今日は帰ろう」と女子さんに引っ張られて、ファナさんも一緒に帰る三人の後ろ姿を見送る。


 決勝戦は審査員が採点するのだが、ランダムで選ばれた生徒2名という枠がある。いくら公平にと言われても、故意に点数を操作することも可能だし(捻じ曲がった考えはしたくないが)、それは他の審査員にも影響するだろう。


 夜、俺は違った目的を持って配信を始める。

 リッカさんが来るのを待つ。配信はハルとして切り替えようとしていたがそうは言ってられない状況だ。

 アーヴァンチュールに対して否定的な意見を持つ生徒たちは、未だにアンチコメントを連投している。


 >ハルさんこんばんは!(@rikka)


 ……来た! ミュートにして深呼吸を繰り返す。

 彼女に問わなくちゃいけない。

 そして、撤回してもらうように説得するんだ。

 彼女は白井さんを取り戻したいと言っていた。

 それは、自分から一方的に離れた白井さんともう一度仲良くなりたいということだろうけど、やり方が間違っている。


「こんばんは、リッカさん」


 聞くべきことはわかっているこの期に及んで言ったらどうなる、解決できるのかと悩みだす心が心臓を容赦なく叩きつけてくる。


「……」


 >画面止まってません? 離席中?(笑)(@rikka)


 >それより聞いて下さい! ハルさん!(@rikka)


「リッカさん! 今すぐ、SNSの投稿を削除して、間違いでしたって訂正してもらえないですか……?」


 言った――


 相手の反応も表情もわからない。リッカさんからのコメントがない時間が永遠のように長く、突き刺すようにコメント欄を凝視しているので目が痛くなってくる。


 >なんのことですか?(@rikka)


 音もなく浮かぶリッカさんのメッセージにドキンと心臓が跳ねる。


「……僕は、アーヴァンチュールの梶です」


 30秒ほどの沈黙があった。体感的にはその何倍にも感じた。

 リッカさんは返事もなく退出し、俺は机の上で頭を抱えながらとてつもなく長いため息を吐いた。


「明日、会うしかない……か」


 戻ってこないリッカさんをしばらく待っていたが、俺はそう決意すると配信を止めなだれ込むようにベッドに潜り込んだ。


 ああくそ。なんでこんなことに……。



◇ ◇ ◇



 翌朝、体が鉄になったみたいに重くてなかなか起き上がれなかった。まるで全身が登校を拒否しているようだった。

 一度学校についてしまえば流れる時間に身を任せて放課後を待つだけ……。

 クラスの視線はいつもより多かったが、授業中も休み時間もずっと下を向いていたのでそこまで気にすることはなかった。何も考えないようにしていた。


 白井さんにどう伝えるべきかも答えなんか出なかった。

 この状態で俺は雨宮さんに会おうとしている。

 雨宮さんのクラスを忘れてしまったので、内緒でファナさんに雨宮さんのクラスを聞いた。何も聞かれずに教えてくれたけど、全員にちゃんと伝えておくべきだろう。

 白井さんは元気に振舞っているらしいが、ファナさんが見る限りではやっぱり落ち込んでいるようだ。


『うちはへーきだから、あんまり騒がんとこのまま決勝戦いこ! こうなったら正々堂々、本気でぶつかるんや!』


 と炎のスタンプを連打して気合を入れる白井さんだったが、見せないように取り繕っている風にしか見えない。



 気が重い。左胸が朝からずっと痛いけど、このまま何もしないまま過ごしどうなるかわからない決勝戦を迎える方が嫌だった。

 こうなった以上、事態の収拾は難しいのかもしれない。

 ならせめて、雨宮さんに認めてもらって「間違いでした」の一言だけでも投稿してもらえれば、少しは風向きが変わるかもしれない。


 動きたがらない足に鞭を打って、HR終了と同時に一年のクラスに向かって走る。


 階段を駆け下り、雨宮さんのクラスに行くと、上着を着て帰宅しようとしている雨宮さんを見つける。


「――!」


 出入り口付近で立つ俺と目が合うと、雨宮さんの体が分かりやすいくらい大げさに跳ねた。

 一瞬だけ見開いた瞳をすぐに細く尖らせると、俺など眼中にないような素振りで足早に通り抜けて立ち去ろうとする。


「雨宮さん!」


 思わず俺は声を出して名前を呼ぶと雨宮さんの動きが止まる。


「話したいことがあるんです!」

「私にはありません」


 後ろを向いたまま歩き出す雨宮さんの後を追う。


「ついてこないでください」

「雨宮さん、ちょっと待って!」


 今にも走り出しそうな勢いの雨宮さんより速く、目の前に回り込む。


「少しだけ時間もらえないですか」

「……」


 学校でよく見る、塩っぽく、背筋が伸びてしまうくらい威圧感のあるジト目に負けないよう、唇をぎゅっと締め雨宮さんの目を真っすぐに見る。


「リッカさん、ですよね。僕です、ハル、です」

「……だからなんなんです。そんなの知りません」


 眉一つ動かさず雨宮さんは淡々と答える。

 いや、もう間違いないんだ。


「そんなわけない、だってアーヴァンチュールって言ってたじゃないですか」

「ほんといい加減してもらえません? 私、忙しいんです」


 雨宮さんは白を切るつもりだ。当然と言ったら当然かもしれない。ここでそうですと認めたとしてどうなるっていうんだ。


「雨宮さんがリッカさんだと、色々、繋がるんですよ!」

「しつこいです。だったらなんだって言うんですか!」

「……あの写真、投稿したのは雨宮さんですよね」

「…………」


 微動だにしなかった雨宮さんの表情に変化があった。ぎりっと奥歯を噛みしめる音が聞こえてきそうなほど顎に力が入っている。


「梶くん? あ……、理羽りうちゃん」


 時間が止まったみたいに凍り付く雨宮さんと俺の間に、眩しい日差しのような声が一気に空気を氷解させていく。

 白井さんと俺が二人並ぶと、歓声と悲鳴が混ざった声に包まれる。騒ぎの中心になっている一年の階ではこれ以上い続けるのはまずい。


「ここだと目立ちますし、わらおー会行きましょう。忙しいところすみません……雨宮さん、もう少しだけ時間ください」

「……」


 雨宮さんは俺よりも白井さんをチラチラと見ていた。人が集まって着そうな雰囲気があったので、雨宮さんは小さく肩をすくめると、観念したようにため息をついた。



◇ ◇ ◇



 教室に入ると女子さんとファナさんは警戒心丸出しで身構えたが、あとで話をするからと外に出てもらった。たぶん俺が妙に変な顔をしていたんだろう、「ぜんぶ言えよ!」と指先で肩の付け根をぐりぐりされる。痛い。

 その後は二人とも何度か振り返りながら「今日は先に帰るね」とファナさんの優しく言い残して、頭の後ろで手を組む女子さんに笑いかけながら帰って行った。


「……梶くん」


 教室には白井さん、雨宮さんと俺だけになった。線を引くと三角形になる立ち位置でお互いに微妙な空間はお互いの距離そのものを示しているようだ。

 雨宮さんはさっきから小刻みに肩を震わせていた。


「ぜんぶ、あんたが悪いんだから」


 俺が言い出すより先に口を開いたのは雨宮さんだった。


「あんたが私を裏切ったからこうなったんだ。自業自得なの」

「え、……え?」


 事態を把握しきれてないのか、白井さんは雨宮さんと俺を行ったり来たり見て首を傾げている。

 予想外だった。てっきり雨宮さんは否定し続けるのだと思っていた。それでも投稿を消してくれと頼み続ければ、もしかしたら裏で消してくれるのではと思っていた。

 雨宮さんはもう俺になんて目もくれず、白井さんに直接話しかけている。


「まだわからない? 私があの写真を投稿したの。どう? 愛想振りまいて仲良くしてた奴らが手のひら返したみたいな顔して離れていく感じ。私の気持ちがわかったでしょう?」


 あはは、と雨宮さんは甲高い声で笑うと、


「いくら笑ったからって、投票したからって、結局そんなものなの。だから薄い付き合いなんて何にも生まれない。ちょっとの綻びで解けていくくらいなら、最初から付き合う方が馬鹿馬鹿しい。でしょう? でも安心して、私は――裏切らないから」

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