第10話 白骨遺体を見つけましょう
その日の夕方、エリーニャは菓子工房の裏手にいた。
労働が終わった修道女達は、それぞれの部屋に帰っていったが、エリーニャはすぐに帰る気分になれなかった。
このブラックな労働環境もどうにかしたいしハンナの事も気になった。
なんとかしなければ!
思いだけが先走るが、どうしたらいいのやら。
お嬢様のフリも忘れ、地団駄を踏んでいた。中身の佐藤恵理也(47)の性質は、そう簡単に消せない。
お嬢様のフリをし続けて、もしや「こっちの方が本性か!?」と妙なものに目覚めそうにもなったが、やっぱり中の人の性質は隠せそうになかった。
ただ、この場で膝をつき祈っていると、何か閃いてきた。
もしかしたらゲームの敵、ラスボスはアシュラか?
アシュラを倒せば、ゲームクリアになり元の世界に帰れるかもしれない。
どうもこのゲームは、敵に勝ち続けるバトルゲームや恋愛で勝利する乙女ゲームとは違うようだ。世界観は乙女ゲーム風だが、シナリオはがっちり決まっていないようだ。プレイヤーの自由意思がある程度認められているようだった。
もしかしたら、ゲームクリアの条件も自分で決めて良いのかもしれない。
とりあえず、アシュラを倒すのがゲームクリアという仮説をたて、それを証明して見ようと考えた。
間違っていたとしても、何もやらないよりマシだ。エリーニャは、とことん前向きだった。
その為にはあの噂の真意を確認した方が良いだろう。
もしアッシュラやルナが生贄儀式をやっているとしたら、この修道院の土地に白骨遺体があるはずだ。
無闇矢鱈と土地を掘り起こすのは、やめた方がいいとも思ったが、元いた世界では修道院でどっさり白骨遺体が出土されていた。もしかしたら、菓子工房の裏手にあるこの土地にも白骨遺体が埋まっている可能性がある。
「エリーニャ、何やってるの?」
そこにユリヤがやってきた。
「もう、夕飯の時間よ? エリーニャ何をやってるの?」
「それどころじゃない気がするのよ。シャベルとか置いてある物置はない?」
「は?」
ユリヤに手短に事情を説明した。ゲーム世界である事は信じてもらえなかったが、噂の真意はユリヤも確かめたいという。
「だったらこの土地をほじくり返しましょうよ」
「いいの?」
「ええ。もし、生贄儀式をやっていたら私達にも身の危険がるあるという事よね? これは早く確かめた方がいいわよ」
いつの間にエリーニャよりもユリヤの方がのりきになっていた。菓子工房のそばにある物置からシャベルと軍手をもってきて、土地をほじくり返す事になった。
菓子工房の裏手にあるジメジメとした土地は、意外と土もやわらかだった。女二人の手でもサクサクと土地を掘っていった。
やはりアバターの肉体のためか、それほど疲労感は感じない。汗も出なかった。ただ、土埃は舞い散り、エリーニャやユリヤの修道着を汚した。
「本当に白骨遺体なんてあるのか。いえ、あるかしら?」
エリーニャは元の口調に戻りかけながらも土を掘っていった。
「いいえ。あるわ。あのアシュラやルナだったらやりかねないもの!」
ユリヤはプリプリと怒りながら、シャベルで土を掘っていた。
「アッシュラは、修道女を見る目も嫌らしいのよね」
「そう?」
「エリーニャは感じない? ゾッとするわよ」
元は佐藤恵理也(47)なので、男性からのエロい視線は想像できない。ただ、エリーニャになり、女性特有の不自由さも感じ始めていた。
確かに自分より遥かに肉的に強い異性がいるのは、脅威に感じた。その異性が性的に見ていると思うとゾッとしてしまう。元いた世界では、全く感じた事のない感覚だが、今はよくわかる。聖書では心の中でエロい気持ちを持つ事も罪と書いてる。その理由が身をもってわかってしまった。心の中とはいえ、神様が創った大事な隣人を汚す事は罪としか言いようがない。
「特にハンナがアシュラのお気に入りみたいね。じーっと見てたわよ」
「本当?」
ハンナは菓子工房でルナにいじめられていた子だ。そんな話を聞くと、あの時ハンナを守れなかった事に罪悪感しか感じない。
「ええ。生贄儀式の噂が本当だったとしたら、ハンナが選ばれる気がする。怖いわ。早く、噂の証拠を見つけないと」
「そうね」
エリーニャは頷き、土地を堀りしばらく夢中で続けた。
「あ!」
ユリヤの悲鳴のような声が響いた時だった。
「あり得ない!」
エリーニャの声も響く。心なしか野太い声で、中の人の性質が滲み出ていたが、今はそれどころでは無い。
掘り続けた土地の底に白骨遺体があった。専門家では無いので断言はできないが、子供か女性の小さな骨で、エリーニャはついつい拳を強く握ってしまう。怒りや悲しみが、津波のようにエリーニャの心を襲っていた。
白骨遺体は一つだけではなかった。さらに掘り続けると、何人かの白骨遺体が見つかった。
元いた世界でカトリック教会の修道院で白骨遺体が見つかったというニュースを聞いた時のショックの比では無い。
ゲーム世界で、今の自分の身体はアバターのようだが、エリーニャの頬は涙で濡れていた。
「そんな、噂が本当だったなんて」
ユリヤも悔しそうに唇を噛んでいた。
「エリーニャ、どうする? これは、みんなに伝えた方がいい?」
「そうね! 手分けして修道院のみんなに伝えましょう」
ずっと泣いているわけにはいかない。こうして証拠が出てきた以上、ぼーっと指を咥えて見ているわけにはいかない。
エリーニャとユリヤは修道院に戻ったら、すぐに行動を起こした。
修道女達の部屋を周り、アシュラ達が生贄儀式をやっているから気をつけろと伝え続けた。
そうこうしているうちに、日はすっかり暮れていった。気づくと夜になり、チラチラと星が輝いていた。




