No.89 優しい青色
もしかして周りの誰かに見られていないかと、急に俺は心配になり、辺りを見回した。
「レン君、どうしたの急にそわそわして?」
「いや、全然? いつも通りの俺だけど?」
「ふふふ、変なパパだね♪」
「へんー! パパへんー!」
何故か俺は3人からディスられてしまったが、なんとか目的の洋服屋に到着した。
ここは昔から俺や夏美の服を買うのに御用達にしていた店だ。
「ここなにー?」
「洋服屋さん。二人の服を買うの」
「ようふく…?」
「キロとテンが今着てるのが洋服。今、二人のサイズに合うのがそれしかないから、新しいのをここで買うの」
「ふーん…」
反応を見る限り、余り分かって無さそうだった。
店の中に入り、とりあえず子供服のエリアに行った。
しかし…当然の事ながら子供服など全く詳しく無いので、善し悪しが全く判断がつかなかった。
「子供服って言ってもこんなに沢山種類があんのか…」
「何か迷っちゃうね」
「とりあえず、二人の採寸だけ取ってもらおうか」
店員さんを呼び、二人の採寸を取ってもらった。
二人とも4~5歳の一般的なサイズだった。
するとスーナが突然俺を引っ張った。
「ちょ、ちょ、スーナどうした?」
「レン君、これなんかどうかな!?」
スーナが興奮しながら指差す先には、キツネの着ぐるみの様な可愛らしい服が丁度二つあった。
商品棚には「動物なりきりシリーズ」と書いてあり、他にも犬やら猫やら羊やらが置いてあった。
「へぇー、面白いね。ちょっと派手な気もするけど、まぁ良いか」
「じゃあ早速試着させてみようよ♪」
俺達は二人を試着室にぶちこみ、例のキツネ服を着せてみた。
想像以上に似合っており、見ているこっちが癒されてしまう程だった。
「スゴい可愛い♪ これにしようよ!」
「じゃあこれで決まりだね」
正直、キロ達よりも俺達の方が盛り上がっており、肝心の二人は終始キョトンとしていた。
「後は、スーナの洋服かな。ホントに俺が選んで良いの?」
「うん、レン君にお任せします♪」
「じゃあ…任されました」
とは言ったものの、当然今まで女の子の服を選んだ事など一度も無いし、ましてや流行なんて知らない。
店員さんにオススメの服を聞くべきか…。
いやでも、それじゃあ俺が選んだって言えないよな…。
ぶつぶつと自問自答をしながら、物色をしていると、とある1着の服が目に入った。
「これだ…! これならスーナにきっと似合う!」
今だかつてない程にビビっときた俺は、すぐにそれを手に取り、スーナの元に行った。
「これ…これ、試着してみて!」
「す、スゴい勢いだね、レン君。じゃあ今から試着するね!」
そう言って、スーナは試着室に入った。
「ママ、どうしたの?」
「ママはね、今からお着替えするの。さっき二人もやっただろ?」
「おきがえー! ぼくたちもいっしょにおきがえするー!」
「いや、二人はもう必要ないだろ? ここでママが着替え終わるのを待ってるよ」
「いっしょにおきがえするー!」
「あー、分かったよ、じゃあさっきのキツネの洋服に着替えておいで」
「やったー! ママー、いっしょにおきがえしよー」
「ちょ、ちょっとキロ君、いま私着替えてるから急に開けちゃダメだよー」
はい、割りとガッツリと見えてしまった。
しばらく俺はぼーっとしていると、ようやく3人が試着室から出てきた。
「どう…かな? 似合ってる…?」
スーナは俺が選んだ淡い青色のワンピースを身に纏っており、衝撃的に似合っていた。
「うん、すごく似合ってる!」
「パパー、ぼくたちはー?」
「二人もすごく似合ってるよ」
「わーい、ママー、にあってるって!」
「二人とも良かったね♪ じゃあ今度は3人でレン君の服を選んであげる!」
「え、いや、俺は別にいいよ…」
「ダメ~、パパのもえらぶのー!」
「ははは…」
俺ら4人のやり取りが、周りに居た他のお客をホッコリさせていたのは、また別の話である。




