No.81 パパとママ
「パパ~あそんでー!」
キロは何やら新聞紙を丸めた棒を持って立っていた。
「キロ…手に持ってるのはなんだ?」
「さいきょうのけんだよ! おじいちゃんがつくってくれた!」
あのじいさん、何お手製の武器を渡してんだよ…。
「で、何して遊ぶんだ?」
「あのね、わるものをやっつけるごっこやる! パパがわるものね!」
正直心の中では「いや、悪者はどっちかというと轟狐であるお前じゃね?」と思わなくもなかったが、流石にこんな小さい子供にそんな事言うつもりもなかった。
恐らく善悪の区別もそこまでついてないだろうし、轟狐が悪党集団だとかいう認識も無いのだろう。
「はい、俺が悪者ね。で、キロは何をやるんだ?」
「ぼくもわるものだよ」
「お前も悪者かい! え、これ悪者をやっつける遊びじゃないの?」
「うーんとね、やっぱりわるくないものをやっつけるやつにする!」
あれ、もしかしてコイツ、轟狐が悪党集団だって分かってんじゃね?
「じゃあいくよ! てやー、わるものめ、かくご~!」
そう叫びながら、キロは俺の頭部を思いっきりひっ叩いた。
「痛ぇ! あれ、結局俺が倒されるの!? 悪くない奴を倒すんじゃないの?」
「パパはわるくないものになったから、たおすの」
「演技途中で役割変更かい!」
「てやー、わるくないものめ、かくご~!」
キロはひたすら俺をタコ殴りにし始めた。
子供の力とはいえ、新聞紙をギチギチに固めているせいか、そこそこ痛い。
「キロ君、そんなに叩いたらパパ、痛い痛いだよ~」
そう言うスーナは、子供用の絵本をテンに読み聴かせていた。
毎日の勉強の甲斐があり、ひらがなとカタカナ、簡単な漢字なら問題なく読める用になっていた。
「王子様とお姫様は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし~」
「ママ~、ママはおひめさまなの?」
「え、ど、どうしたの急に」
「このおひめさま、ママにそっくり」
「そ、そうかな?」
「ママ、おひめさま~」
「ふふふ、ありがとう。じゃあ私がお姫様だったら、王子様はレン君かな♪」
「ちょ、スーナ!?」
「パパ、おうじさまなの?」
急にスーナがとんでもない爆弾をぶっこんで来た。
なんかもう色々な意味を含んでる様にしか聞こえない。
「みんな、夕御飯ができたから、居間の片付けお願いね!」
ばあちゃんがタイミング良く話をぶち切ってくれたので、俺の王子様問題は一旦保留になった…様に見えた。
テーブルには部活の帰りが遅い夏美以外の6人がついていた。
「はい、じゃあ頂きましょう」
キロとテンには子供用の小さな椅子に座らせた。
コイツらが今着ている服にしてもそうだけど、案外小さい頃に使っていた物とか録っておいてるもんだな。
「お味はどうかしら、王子様とお姫様。それともパパとママかしら♪」
最悪だ、さっきの会話全部聞かれてた…。
スーナも下を俯いて恥ずかしそうにしている。
「キロ君とテンちゃんもどう?」
「おいしいー!」
「なら良かったわ、たくさんあるから、たくさん食べてね!」
「そうだぞ、ガキは沢山食ってなんぼだからな」
「しかし、健ちゃんったら、いつの間に孫が居たのかしらね」
「ははは、全く時間の流れってのは早いよな!」
「そもそも健ちゃんって、結婚してなかったような…」
「その…要はあれだ、連れ孫って奴だ」
「…何連れ孫って…?」
「再婚相手の子供の子供…つまり義理の孫って奴だ」
「あら、そう言う事だったの? 健ちゃんったら、一気に子供と孫が出来て大変ね~」
こんなしどろもどろな説明を信じこんでしまうばあちゃんもばあちゃんだが、とりあえず難を逃れた。
ちびっ子二人はポカーンとした顔でじいちゃんとばあちゃんを見ていた。
食事を終えると、ちびっ子二人はじいちゃんとばあちゃんに遊んでもらっていた。
「いやー、アイツら元気だなぁ…」
「ホントだね!でも元気なのは良い事だよ♪」
「いや、そうなんだけどさ。まぁ俺も小さい頃は似たようなもんだったのかな…」
「ふふふ、そうかもね♪」
すると夏美が部活から帰ってきた。
「ただいま~! ふぅ、すっかり遅くなっちゃった。あれ、このちっこい靴って誰の?」
「あー、えっと実は…」
「パパ~ママ~、そのひとだれ~?」
「この子達は…? って言うかパパ…ママ…? え、にぃとスーナちゃん…もしかして…いつの間に…?」
夏美は物凄く動揺した顔でこちらを見つめていた。
「いや、違うから! そういう事じゃ決してないから!」
俺は嫌々ながら、先程じいちゃんの繰り広げた苦し紛れの説明を夏美にもした。
途中から辛くなったので、全部の語尾の最後に、魔法の言葉「ってじいちゃんが言ってた」を付け加えた。
夏美は不審そうに俺の顔を見ながら話を聞いていたが、最終的には納得してくれた。
いや、妥協してくれたというのが正しいかもしれないけど。
「それにしても可愛いね、この子達♡ 将来きっとイケメン、美人さんになるね!」
「まぁ可愛いは可愛いけどね」
「ちなみにこの子達、いつまでウチに居るの?」
「いや…それは…まぁしばらくかな?」
「えー、何それ、そんなにあやふやなの? 健じいちゃんも無責任だよね~」
自分の知らない所で勝手に結婚させられて、勝手に子供と孫が出来て、挙げ句に評判まで下げられてしまった健じいが不憫でならなかった。
「あれ、彩から電話だ。どうしたんだろ…?」
そう言って、電話に出ながら夏美は自分の部屋に戻っていった。
「パパ、だっこ~」
「抱っこ? 急だなぁ…。ホラ」
俺はテンを優しく抱き上げると、テンは満足そうな顔で俺の体にしがみついていた。
「ふふふ、テンちゃんは甘えんぼうさんだね♪」
「パパ、パパ、ぼくも~!」
「分かった、分かった! ホレ」
俺は両手でしっかりとテンとキロを抱き抱えた。
子供ってこんなに軽いんだなぁとしみじみ感じていると、2階から夏美が慌てて、階段を降りてきた。
「ん? どうした夏美、そんなに慌てて…」
「彩が!」
「この間ウチに来てた夏美の友達か。その子がどうかしたの?」
「彩が家出したって! それで…」
そう言いながら、夏美が家の玄関を開けるとそこには瞼を赤く腫らした彩ちゃんが立っていた。
今日は色々と長くなりそうだ…。