No.80 泉狐族
「お前らその耳は…?」
「みみ…? あ!」
キロはしまったという感じで必死に耳を手で隠そうとしていた。
「いや、今頃隠そうとしたって遅いから。俺、もう見ちゃってるから」
それでもキロは一生懸命耳を隠そうと頑張っている。
テンの方は俺の膝の上で、クッキーに夢中になっており、耳の事など全く気付いていない様子だった。
「なんでそんなに耳を隠そうとするんだ?」
「だって…アリアスおじちゃんが人に見せるなって…」
「ふーん…」
「もしかして、二人とも…泉狐族の子達…?」
「なんだスーナ、せんこ族って…」
「私も村長さんから、チラッと聞いただけだけど…。世界で1番神様に近い一族って言われてるんだ。けど…」
「けど…?」
「他の民族や国から妬まれたりして、迫害されたりして人数がすごく少なくなっちゃったって。後は、耳とか尻尾が珍しいって理由で高額で売り飛ばされちゃったり…」
「それでか…。でもその割りには轟狐の連中はコイツらを売り飛ばしたりはしなかったんだな」
「だからぼくたち、みみとしっぽはみせちゃダメって…」
「それがクッキーの美味しさに思わず、気が緩んじゃったのか」
微笑ましいようで、悲しい背景が見え隠れする事実に俺は複雑な気持ちになった。
「まぁでもここじゃあ別にお前達が耳出そうが尻尾出そうが、とって食う連中は安心しろ。まぁ外じゃなるべく隠した方が良いかもしれないけど…」
いまだクッキーに夢中になっているテンの頭を軽く撫でた。
テンは口の周りをクッキーの食べかすだらけにしながら、キョトンとした顔をして、こちらを見ていた。
「ホラホラ、口の周り汚れてるよ」
テンの口の周りを拭いてやると、お腹一杯になって眠くなったのか、膝の上でウトウトし出した。
キロに比べて、かなりのんびりとした性格の様だ。
「ふふふ、眠くなっちゃったのかな? 今、タオルケット持ってくるね♪」
そう言ってスーナはタオルケットを取りに2階に上がって行った。
俺達が帰るタイミングで一緒にこちらにやって来たとすると、1週間もの間、二人だけで過ごしてきたって事になるけど、どうやって生きてきたのだろうか?
「お前ら、今まで二人だけでどうやって過ごしてきたんだ? 食べ物とか家とか…」
「なんかそとに、くだものがたくさんあるおうちがあったから、それたべてた」
「…あぁ、商店街の八百屋の事か。…あれ勝手に食べたらダメだから!」
というか、よく八百屋のおっちゃんにバレなかったな…。
その内、2階からスーナがタオルケットを持って降りてきた。
「はい、タオルケット持ってきたよ」
「スーナ、ありがとう! よいしょっと…」
膝ですっかり夢の中にいるテンを横に寝かせて、タオルケットを掛けてあげた。
「その子、テンちゃんっていうんだね。可愛い顔して寝てるね♪」
「うん。こうしてみるとホントに普通の子供と一緒だな」
「キロ君は眠くないの?」
「ぼくはテンみたいにあかちゃんじゃないもん!」
「ふふふ、頼もしいね♪」
すると、じいちゃんとばあちゃんが帰ってきた。
「ただいま。あら、その子達がこの人が言ってたおチビちゃん達ね!」
じいちゃんがばあちゃんにどんな風に言ったのかは兎も角、とりあえず話は通ってるみたいで良かった。
「あらあら、気持ち良さそうに眠ってるわね~。この子達は兄妹なんでしょ?」
「うん、ぼくとテンはきょうだいだよ」
「あ、そうなの?」
「なに蓮人、この子達の事何も知らずに連れてきたの?」
「あははは…つい勢いで…」
勢いで小さな子供を家に連れてきたって言うと、なんだか犯罪臭が半端ないな。
「あら、二人共頭に着けてる耳は…?」
「あ、あぁこれはなんかちっちゃい子の間で流行ってるらしくてさ!」
「そうなの? 知らなかったわ」
うぅ、我ながら苦しい言い訳だ…。
ただ、これが本物の耳だと信じる訳もないから、案外みんな飾りだと信じて疑わないかも。
「ともかく、その子達まだちっちゃいんだから、目を離さない様にね」
「はいよー」
ばあちゃんはそのまま台所の方に行ってしまった。
「じいちゃん、一体ばあちゃんになんて言って納得させたんだ?」
俺はすぐにじいちゃんの所へ駆け寄り、事情聴取を行った。
「別に大した事ぁ言ってねぇよ。健三の孫をちょっくら預かるって言っただけだ。それで丸く収まった」
「いや、どんだけ大胆な嘘ついてんだよ! 健じい、孫なんて居ない所か、そもそも結婚もしてねぇだろ! つーか、なんでそれで丸く収まるんだよ!」
「そこは俺の巧みな話術で一発よ。三和子の奴はすっかり信じまったぜ」
「なんで信じちゃうんだよ。ばあちゃんももうちょいしっかりしてくれ~」
「まぁ何にせよ、これでひとまずは安心だろ? あとは次の新月の日までお前が面倒見てりゃあ万事解決だ」
「軽く言うよな…。まぁ元はと言えば俺が連れてきたんだし、何も言えないけど…」
「そういうこった。男たる者、自分の行動にはしっかりと責任を持ちやがれよ」
そう言い残すと、じいちゃんは和室の方へ行ってしまった。
「つー訳だ。しばらくこの家でお前らを預かる事にしたからさ。良い子にしてるんだぞ」
「はーい!」
「よし、いい返事だ」
「ふふふ、レン君すっかり二人のパパみたいだね♪」
「そういうスーナこそ、こいつらのお母さんみたいだよ」
「そっか、じゃあ私達夫婦…」
そこまで口にした瞬間、スーナは自分が口にした言葉にハッとしたのか、急に赤面して黙ってしまった。
何故か自分も恥ずかしくなってしまった。
「ふたり…ぼくたちのパパとママ…?」
「あ…いや、今のはその…なぁスーナ?」
「え、あ、いや、え、その、えーと…うぅ…」
流石にこのタイミングでスーナに話を振ったのはちょっとずるかったかもと、少し反省した。
すると、いつの間にか起きていたテンが俺の足に縋り付いていた。
「パパ~ママ~…」
その破壊力たるや、俺とスーナは完全にハートを撃ち抜かれてしまった。
パパとママを知らないハズのテンの口からその言葉が出たとなっては、俺達に為す術は無かった。
「うん…俺がパパ。そして、スーナはママ…」
こうして、齢17にして俺は四人家族の家長となってしまった。




