No.79 キロとテン
俺は二人のちびっ子を引き連れながら、歩いていた。
先程、家に電話をしたら、幸いにもじいちゃんが居たので、おおよその事情を説明した。
すると、俺の説明を聞くなり、大笑いしながらこの子達を家に連れてく事を承諾した。
全く他人事だと思って…。
「ねぇねぇ、リノイエレント、どこいくの?」
「ん~、俺の家だよ。とりあえず、そこで色々話も聞きたいし…」
「…? おはなしするの?」
まぁ分かる訳ないか。
そもそもこんな小さい子供と普段接する事がないから、どういう目線で話をしたら良いのか分からない…。
「ねぇねぇ、リノイエレント、あそこにおっきないぬがいるよ~」
前から歩いてくるご婦人が連れている大型犬を指差しながら、俺に話しかけて来た。
「あらー、弟さんと妹さんの付き添いかしら? 可愛らしいわね♪」
「はは…どうも…」
軽くおじきをしながら、愛想笑いをしてやり過ごした。
『この子達、異世界から来た、異世界の悪党集団のメンバーなんです~』だなんて、言ったって信じるわけがない。
そもそもこんな子供が轟狐の一員だなんて事あり得るのだろうか?
両親が轟狐の一員という事ならまぁ分からないでもないけど。
「さっきも聞いたけど、お前達、お父さんとお母さんは?」
すると二人はお互い顔を見合わせてしまった。
「そんなの、さいしょからいたことないからしらないよ」
「最初から? お前ら今までどうやって生きてきた?」
「轟狐のひとたちにごはんたくさんもらった」
あまり要領は得ないが、どういう経緯があったのはともかく、轟狐に拾われて(?)現在に至るという感じか…。
「ねぇねぇ、だっこして~」
「抱っこ? 家までそんなに距離無いから頑張って歩きなさい」
「やだやだ、だっこだっこ~!」
段々と女の子の方がグズリ出してしまった。
「なんだお前はわがままだなぁ…」
このままだといよいよ泣き出しそうだったので、仕方なく俺は女の子を抱き抱えた。
幾ら子供とはいえ、これを抱えて歩くのは若干しんどかった。
「ふぅー…。そういえば、お前達俺の名前を知ってたけど、一体誰から聞いたんだ?」
「いっちゃダメっていわれてるから、いわない!」
「誰に?」
「アルアスおじちゃん」
成る程、アルアスとか言うおっさんから聞かされたらしい。
でも、そんな奴会った事も聞いた事も無いな…。
何で俺のフルネームを知ってんだ?
「よし、着いたぞ~」
俺は女の子を降ろすと、二人を連れて家の中に入っていった。
「ただいま~」
すると2階からパタパタと階段を降りる音が聞こえきた。
「レン君、おかえりなさい♪ あ、その子達がもしかして…」
「あぁ、じいちゃんから話聞いてたのか。あっちの世界から迷いこんだちびっ子二人。とりあえず連れてきた」
「ふふふ、二人とも可愛らしいね、いらっしゃい♪」
男の子の方は元気良く「こんにちは!」と出来たが、女の子の方は恥ずかしいのか、俺の後ろに隠れてしまった。
仕方ないので、俺は女の子を抱っこしてスーナの方を向いた。
「ホラ、お姉ちゃんに『こんにちは』って」
女の子はとても恥ずかしそうにしながら、スーナの方を向くと、とても小さな声で「こんにちは」と呟いた。
「こんにちは♪ じゃあレン君も中に入って♪」
そう言うと、スーナは居間の方に消えて行った。
最近だと、ばあちゃんから貰ったエプロン姿もだいぶ板についてきた。
掃除だけはどうもまだ苦手らしいが、それ以外の家事については率先して手伝っているらしく、ばあちゃんもかなり助かっているみたいだ。
俺は2人をつれて居間に入ろうとしたが、2人がだいぶ汚れている事に気が付いた。
「流石にこのまま居間に上げんのはまずいな…。まずは風呂で綺麗にしちまうか」
「おふろってなにー?」
「お風呂を知らないのか。簡単にいうと、お前達を今から綺麗にする所だぞー」
俺は居間で準備をしているスーナの所に行った。
「あのチビ達、だいぶ汚れちゃってるから、先に風呂で綺麗にしてくるよ」
「うん、分かった! その間に準備してるね♪」
「そういやじいちゃんとばあちゃんは?」
「なんか2人でお散歩に出掛けたよ。おじいちゃんの方がおばあちゃんを誘ったみたい」
「へぇー、なんか珍しいな…」
俺は風呂場に2人を連れていくと、汚れに汚れた服を脱がせ、まとめて洗い始めた。
「なにこれ、あわあわするー!」
「目開けるなよー、泡が滲みるからなー」
「は~い!」
ホントに轟狐の元で育てられたのかと思う位に素直で良い子達だ。
いや、寧ろ逆に言う事を聞かせる為に厳しくされてきたのかもしれない。
あらかた綺麗になったので、前もって沸かしておいた湯船に二人を浸からせた。
溺れてしまうと不味いので、お湯はいつもより少な目にしておいた。
「あったかくてきもちいいー♪」
「しあわせ~♪」
どうやら2人とも湯船が気に入ったようだ。
と同時にお風呂も満足に入る環境じゃなかったのかと思うと、心苦しくも思った。
「よーし、じゃあ上がるぞ~」
「えー、もっとはいってたい~」
「ダメ、言う事聞きなさい」
「はーい」
どうやら「言う事聞きなさい」というのが、魔法の言葉の様だ。
二人の体を乾かしてやると、スーナから渡された服に着替えさせた。
どうやらじいちゃんが気を利かせて、俺と夏美が小さい頃の服を引っ張り出して用意してくれたらしい。
「お、見事にサイズがピッタリだな! よし、お前ら居間に行くぞ~」
俺は二人を連れて居間に入った。
中ではスーナがオレンジジュースとお菓子を用意してくれていた。
「あ、スーナありがとう。ほら、二人とも食べて良いよ」
「これなーに?」
「クッキー。甘くて美味しいぞ」
先に男の子の方がクッキーをひと口食べた。
すると男の子の顔がみるみる内に緩んでいった。
「これ、おいしい! もういっこたべていい?」
「あはは、食べて良いよ。余程気に入ったんだな」
「キロ…これおいしいの?」
「おいしいぞ! はい、テンもどうぞ」
男の子の方がキロ、女の子の方がテンっていうのか。
テンはキロから渡されたクッキーをひと口食べると、キロより控えめながらも嬉しそうな顔をしていた。
「おいしい♪」
「そっか、良かった良かった」
そう言い終わるかさなかの時、俺は目を疑った。
「お前ら…その耳は…?」
キロとテンの頭から狐の様な耳が生えていた。