No.62 プリンで契約
「あたしがお前らの用心棒を…?」
俺達からの突然の提案にユウさんは口をポカンとさせていた。
「今日ガラさんにも言われたんですけど、俺達は轟孤を追うにあたって、あまりにも無策すぎる。正直いってこのまま二人で旅するのは無謀かもしれないと思いまして」
「いや、今更かよ! 最初から分かれよ!」
「なのでこの先、旅を続けるにあたって、ユウさんに用心棒になってもらおうと思ったんです」
「いや、んな事急に言われても…」
「勿論、こっちは雇う側、ちゃんと報酬は渡すつもりです」
「いいよ、報酬だなんて! それにまだわたし、行くとも何とも言ってないだろ!」
「俺のばあちゃん、昔からお菓子作りが得意だったんです」
「お菓子作り…?」
「俺もばあちゃんからよくお菓子作り教えてもらってて…。その中で、一番良く作ってたのが、プリンだったんです。俺はそこまで好きじゃなかったんですけど、妹が好きでよく作ってやったりしました」
「プ…プリンを作るなんてできるのか…!?」
ユウさんは、驚きの顔で俺を見ていた。
「いや、そんなに驚かなくても…。正直、なんでこの世界でプリンがそんな高級品になってんのかよくわかりませんが、別にプリンを作るのにそこまで特別な食材は要りません。この世界にある食材で十分作れますよ」
ユウさんはゴクリと息を飲んだ。
「これから借金なんかしなくても、俺がユウさんにプリンを作ってあげます。だから、俺達の用心棒になってくれませんか?」
「よし、乗った! お前たちの旅に加わらせてもらうぜ!」
思った以上にちょろかったが、なんにせよこれで心強い味方が加わった。
スーナもすごく嬉しそうな顔をしている。
「とはいえ…今回の旅じゃああたしが出る幕はねぇな。よし、明日以降はあたしがまた町の中を案内するぜ! まだまだこの町には色んなもんがあんだぜ!」
「そういえば今日も案内してもらってたのに、途中でそれ所じゃなくなっちゃいましたもんね。じゃあ宜しくお願いします」
「へへっ、任せときな!」
それから、俺は約束通りユウさんにプリンを作った。
こちらの世界とは調理場の勝手が違うので、正直上手く作れるか心配だったが、なんとか完成させる事が出来た。
「す、すげぇ…ホントにプリンだ…。この香りといい色艶といい…」
ユウさんは目の前に出されたプリンに感動しっぱなしだった。
「これがプリンっていうんだね♪ 初めて見たけど、綺麗だね!」
ユウさんの横でスーナも目をキラッキラに輝かせながら出来立てのプリンを眺めていた。
そっか、1ヶ月あっちに一緒に居たけど、プリンを食べた事がないんだっけ?
確かに、最近はプリンなんて作ったりしてなかったからな。
「お、おいレン、その…プリン食べていいか?」
「はい、どうぞ。召し上がれ」
「じゃあいただきます! スーも食べた事ないんだって? じゃあ一緒に食べようぜ!」
「私もいいんですか? ありがとうございます! じゃあいただきます♪」
二人は仲良く同じタイミングでスプーンで掬ったプリンを口に含めた。
しばらく、二人が固まってしまったので、味に失敗してしまったのかという不安が頭をよぎった。
「う…うめぇ…! なんだこの美味さ…! 今まで食べたプリンとは段違いの美味さじゃねぇか! レン、お前何者だよ…!!」
「い、いやそんなに褒められるとは…。でも口に合ったみたいで良かった。スーはどう?」
「とっても美味しい~♡ 流石、レン君♪」
「そっか、なら良かったよ」
正直ここまで喜ばれるとは思わなかったけど、女の子二人に喜んでもらえるのは、純粋に嬉しいな。
二人は女の子らしい笑顔でプリンを食べている。
ユウさんも、こんな女の子らしい笑顔をするんだなぁと、我ながらだいぶ失礼な事を思った。
その後、俺達は各々の時間を過ごし、就寝の時間を迎えた。
「じゃあ俺はソファーの上で寝るんで、ユウさんはスーナと一緒のベッド使ってください」
「いやいや、あたしがソファーで寝るからレンとスーナがベッド使えよ!」
「そういう訳にはいかないでしょ。ソファーじゃ風邪ひいちゃいますから。ユウさんはベッドで寝てください」
「それ言ったらお前もだろ! あたしは昨日まで外同然の場所で寝てたんだ、今更ソファーの上なんかで風邪なんざひくかよ!」
「あのー…」
「スーナ?」
「じゃあ三人で一緒に寝るっているのはどうですか? それなら、みんな風邪ひかずに済みますよ♪」
「いやいやいや、スーナ、それは流石にまずいだろ。俺、いよいよ寝れなくなっちゃうぜ」
「あたしだってそれは流石にお断りだね! 色々マズイだろ!」
「…? なんで色々とまずいの?」
「何がって…その…」
そのまま、ユウさんは顔を赤く染めて何も喋らなくなってしまった。
結局、スーナに押し切られる形で俺達は同じベッドで寝る事になってしまった。
左からユウさん、スーナ、俺の順番でベッドに横たわった。
「いやー、ひっさびさにふかふかのベッドで寝れるわ!」
「やっぱ、外で寝るの辛かったんじゃないですか…」
「うるせーな、あたしにもメンツってもんがあんだよ!」
「なんですか、そのしょうもないメンツは…。いいからもう寝ますよ」
「おう、じゃあお前らおやすみ!」
「はい、ユウさん、レン君おやすみ♪」
こうして俺達は眠りについた。
言うまでもなく、俺は寝相の悪いスーナの餌食となり、抱き枕となり果てた。
ユウさんに至ってはスーナにベッドから蹴落とされ、床で蹲っていた。
…そんな感じの三人旅です。