No.60 スパイ
「まさか、ガラがスパイだったんて…」
「もしかして、ユウさんも知らなかったんですか?」
「いや、てっきり人間関係に耐えられなくなって、グループを抜けたのかと…」
「人をコミュ障みたいに言うな」
「元の政府公認の組織に戻ったのに、なんでまたこんな薄暗い所で過ごしてるんですか?」
「いや僕、人と関わったり馴れ合ったりするのが苦手だし…。だいたいあそこってなんかギスギスしてて雰囲気悪いんだよね。正直居たくない」
あれ、普通にコミュ障だったこの人。
「まぁ別に本部に居なきゃいけない訳じゃないし、連絡は日々取っているから、問題は何も無いんだけどね」
「あの…」
スーナが恐る恐る声を発した。
「実際に…轟孤の人達と接してみて…どう思いましたか?」
「ふふ、君はあれか? アルフさんのグループの話を聞いて、分かり合えるかも知れないなんて、希望を持っちゃったのかい?」
「あ、いえ、そういう訳じゃ…。ただ…私とレン君は轟孤の人達を止める為に旅に出ていて…。私の住んでいた村が教われたりして、轟孤は悪いんだって思ってたんですけど、それが揺らいできちゃって…」
「君達は…まさか轟孤の連中を本気で止めるつもりなのか?」
「…一応。なんか文句でも?」
なんだか、バカにされた様な言い方に聞こえたので、つい喧嘩腰の口調になってしまった。
「いや、文句はないよ。ただ、あまりにも現実的でないんでね」
「と言うと…」
「聞くけど…君達は何の準備も知識、戦力も持ち合わせないで、一体どうやって轟孤の連中を止める気なんだい? 何か具体策でもあるのかい? そもそも世界中に散らばっている轟孤達をどうやって止めるつもりなんだ?」
「ぶっ飛ばして止める」
「いや、そういう事じゃなくて。君達はあまりにも無策すぎる。こちとら本気で轟孤壊滅の為にあれこれ試行錯誤をしている身からしたら、茶化されてるとさえ思えてくる。分かるかい? それだけ彼等は巨大なんだ」
「おいガラ、そんな言い方する事ぁねぇだろうよ!」
「僕は事実を言っただけだよ。発言を取り消す気はない」
「…まぁ確かに準備不足なのは認めるよ。ぶっちゃけ俺もスーナも当てがある訳じゃないし、正直いつ轟孤の総リーダーに辿り着けるのかも分からない…。ただ…」
「…ただ?」
「スーナは自分の住んでいた村が襲われた事もあるけど、本気で轟狐を止めようと思ってる。本気で奴らに辿り着こうとしている。勿論俺もね」
「レン君…」
「だから、その気持ちを否定しよってんなら、ぶっ飛ばすぞこの野郎」
「…別に君達の意気込みを否定する気は更々ないよ。ただ…政府の立場から言わせてもらうと、イタズラに命を落とされたりされても困る。ユウのお母さんの様な犠牲も出したくないって事かな」
「ガラ…」
「奴等と接触するなら、万全の対策をお薦めするよ。アルフさんグループはともかくとして、ゲンガ達はありとあらゆる手段で目的遂行を図る集団だ。甘く見ちゃいけない」
「…分かりました、肝に命じておきます」
「さて…ここまで人と長話をしたのは、いつ以来だろうね。僕が君達に話してあげられるのはこれ位かな。たいした情報じゃなくて申し訳無いね。あまり僕はスパイには向いて無いみたいだ」
「最後にいいですか」
「なんだい?」
「なんでここまで俺達に協力してくれたんですか? いくらユウさん達と顔見知りだからって、ここまで…」
「ふふ、何か裏があるとでもいいたけだね」
「いや、そういうつもりじゃ…」
「謝る事は無い。事実だからね」
「おいおい、黙って聞いてりゃあ人聞きの悪い事言いやがって! こうでもしなきゃガラ、手伝ってくれないだろ?」
そういって、ユウさんは何やら風呂敷の様なものに包まれた物体を差し出した。
「ユウさん、これって…」
「まぁ気にすんな! お前のお陰で借金取りから逃げれたし、父ちゃんとも仲直り出来たしな! これくらいはどうって事ねぇよ」
そして、ユウさんはいよいよ風呂敷を広げ、中身をみんなに見せた。
「…なにこれ?」
広げられた風呂敷の上にははたくさんのプリンがある。
「ふふ、君も物を知らないね。これはプリンと言って…」
「いや、んな事知ってるわ! なんでここに大量があるかって聞いてるんです!」
「そんなに驚くなよレン! 今回、ガラが情報を提供する代わりにプリンを渡すって口約束してたんだよ」
「いや、なんか黙っててごめんみたいな感じで言ってるけど、そういう事じゃないから! つーか、政府公認のスパイがプリンで何易々と情報してんだ!」
「ふふ、君はプリンを見くびっている様だね。今後それで命取りになるよ」
「プリンで命取りになる事案って何? 俺はてっきりそこのプリン狂の親子だけの話だと思ってたけど、これこの世界全体の共通認識なの?」
「ふふ、今頃プリンの凄さに驚いたのかい?」
「いや、あんたらのプリン狂っぷりに驚いてるわ!」
俺のツッコミが建物中に響いていた。