No.48 姪
もうロゴンチャに揺られ続けて、4日は経っただろうか?
相変わらず特にする事のない俺らはのんびりとした時間を過ごしていた。
とは言え、流石に4日ともなるとだいぶ移動にも飽きてきてしまった。
仕方ないので、お手製のトランプやオセロを作り、スーナにルールを教えた上で、ひたすらトランプとオセロで遊んでいた。
ことのほか、スーナがこの遊びに夢中になり、夜になるまで延々と俺に勝負を挑んできた。
自分で教えておいてなんだが、俺はとっくに飽きてしまっていたので、夜までずっとトランプとオセロを挑まれるのは中々地獄だった。
「あー、また負けちゃった! もう一回だけ勝負して!」
「いや…もういいだろスーナ…。俺、眠くなってきちゃったよ…」
「もう一回! もう一回だけ!」
「ホントにこれが最後だからな~」
俺もスーナがここまで負けず嫌いだとは思わなかった。
ぶっちゃけ、俺がわざと負ければ終わる話なんだろうけど、ゲーマーたるもの、それは選択肢の中にはなかった。
何より真剣に勝とうとしているスーナに対して、わざと負けるなど、非常に失礼だ。
結局、ようやくスーナが俺に勝って、勝負が終わったのは、すっかり月が昇った夜だった。
「えへへ、やっと勝てた―!」
スーナは嬉しそうにトランプとオセロを片付けてた。
俺としてはやっと終わったという面持ちだろうか…。
「明日、やっとワガマタに到着するね!」
「長かったな―。どんな町だろうな」
「着いてからのお楽しみだね♪」
なんだろう…確か、俺達は轟狐の連中を追うっていう大変な旅をしているハズだったのに、ずっとスーナと二人でのんびりとした日々を過ごしている内に、すっかり気が緩んでしまっている。
まぁ…別にする事もないし、変に気を張るよりかは全然良いんだろうけど。
『おーい、レント君、スーナちゃん、聞こえるかい?』
「うわ、町長さん?」
急に町長さんからの声が聞こえたので、思わず辺な声が聞こえてしまった。
まぁ町長には聞こえてないだろうけど。
『例によって、私の方から一方的に話しかけるから、よく聞いててくれ。君達の乗っているロゴンチャは、明日にはワガマタに到着すると思うが、着いたらまず訪ねてもらいたい人物がいる』
「訪ねてもらいたい人物…? 町長さんの知り合いかなんかか?」
『ふふふ、レント君は今、その人物が私の知り合いか何かだと推測しているんじゃないか? どうだい、当たってるだろう?』
「え、何? このおっさんめっちゃ腹立つんだけど。この一方的な通信、ぶった切れないのかな」
「れ、レン君、聞こえちゃうよ!」
「大丈夫、相手には聞こえないから。いや、この場合はいっその事、聞こえててほしい位だけどな」
『そいつは私の姪で、名前は「ユウ」。今はワガマタでお偉いさん達の用心棒の仕事をしている。大体の事情は既にユウに伝えてあるから、君達の助けになってくれる。轟狐の情報収集も現在進行形で行っているから、最新の情報が聞けるハズだ。ワガマタに着いたら宜しく頼むよ。じゃあこれで失礼』
町長さんからの一方的通信が終わった。
「…用心棒って。ワガマタってそんなに荒れた町なのか? っていうか何で用心棒が情報収集なんかしてるんだ…?」
新たな謎がすごい勢いで俺の脳内を支配した。
今、俺達が用心棒を要する様な町に向かっているんだというのを考えると、不安で仕方ない。
「それに女の子で用心棒ってすごいよね。どんな人なんだろう?」
「それもそうだな…。一体どんなゴリラ女なんだ? ぶっ飛ばされたりしないよな?」
「レン君、ゴリラ女は失礼でしょ?」
スーナに可愛く窘められた俺は、それ以上文句の垂れ流しは控えた。
とりあえず、町に着いてやるべき事は決まったが、ひとつ問題があった。
「町長さん…用心棒の女の居場所…言ってなかったな…」
「町の中、探さなきゃだね」
「はぁ…どれだけの規模の町なのかも分からないのに…用心棒ってのと、女だって言う情報だけで探せんのかな…」
「とりあえず、頑張って探すしかないね」
「だなぁ…まぁ明日着いてから考えるか…」
「だね! じゃあレン君、さっきのトランプとオセロの続きしよっ♪」
「いや、さっき散々やったじゃんか! どんだけハマったんだよ」
「レン君とやるから楽しんです~♪」
「…ちょっとだけだからね」
「えへへ、ありがとう♪ 今度は負けないよ」
我ながら俺は甘っちょろいなぁと思いつつも、この先はこんなにのんびりも出来なくなっていくのかと思うと、まぁ今くらいは余計な事を考えずにスーナと一緒にいる空間を楽しんだ方が良いのかもしれない。
スーナとのトランプ・オセロ勝負が意図段落つくと、すっかり夜が更けていたので、明日の到着に備えて俺とスーナは早めの就寝についた。
次の朝、目が覚めると既にスーナが起きて、出発の準備をしていた。
「あ、おはようレン君♪」
スーナがこちらを向いて、笑顔で寝起きの俺を出迎えてくれた。
「おはようスーナ。今日は朝早いな」
「なんだか、目が早く覚めちゃって…」
「スーナが俺より早く起きるなんて初めてかもね」
「むぅ…それって私がいつも起きるの遅いって事?」
「いや、別にそんな事は言ってないけど…」
「私だって、レン君の寝顔見たくて早く起きてる時だってあるもん!」
「そんな理由かよ! なんか恥ずかしいからやめて!」
スーナとの会話で目が覚めた俺は、スーナと軽い朝食を取り、身支度を済ませると、到着の時を待った。
「後、10分程度で到着だってさ。そろそろ窓の外も見えるようになんのかな?」
「移動してる間、ずっと窓の外、見えなかったもんね。見えると良いなぁ」
ロゴンチャは、出発してしばらくすると、どういう理由か窓が全て閉められてしまい、一体自分達がどんな所を走っているのか分からなかった。
噂をすれば、ロゴンチャの窓が少しずつ開きだし、外から光が差し込んできた。
外にはカモメの様な白い鳥が飛んでいた。
そして目の前には、水路が町中を縦横無尽に横断している光景が広がっていた。
すると、ロゴンチャにアナウンスが鳴り響いた。
「まもなくこのロゴンチャは、水の都『ワガマタ』へ到着致します。お荷物のお忘れ物がありませんよう、お願い致します」
こうして、俺達は水の都「ワガタマ」へ到着した。