No.49 水の都
ロゴンチャが町のホームへ辿り着くと、静かにドアが開いた。
駅のホームの中も、水色を主体とした配色が為されており、水の都の雰囲気をより一層引き立てていた。
ホームを抜けると、そこには美しき水の都が広がっていた。
町の雰囲気は、俺達の世界のベネチアに近いだろうか。
「すげー、水の都って感じだな! 建物も芸術的っていうかなんていうか…。ホントにこんなに綺麗な町に用心棒なんていんのか?」
そう俺が思わざるを得ない程に、町は綺麗に整っていた。
「スゴい、みんな水路を船で移動してるね!」
「ここじゃ基本的に他の場所へ行く時は、船を使う感じかな? 用心棒の女を探すっていう点では、若干不便かもな」
「でも私、船って初めて乗るからとても楽しみ♪」
スーナの頭からは用心棒の女を探す事はスッポリと抜けて落ちて、移動船に乗る事で頭がいっぱいの様である。
「さて…どっから船に乗ればいいんだ…? いや、その前にどこに行けば良いんだろう…?」
町の広さでいったら、ミタの数倍はあるだろうか?
ただでさえ、船での移動が大変そうだ。
人探しだけで、結構時間をかけてしまいそうだ。
「とりあえず、ホームの近くにあった案内所で聞いてみるか」
はたして、町の案内所で用心棒の居場所が聞けるのかは、甚だ怪しかったが、とにかく町の人達に聞きまくって、用心棒の女の情報を集めるのに集中するしかない。
ホームの方へ戻って、案内所に向かった。
「いらっしゃいませ、こちらワガマタ案内所になります。本日はどのようなご用件でしょうか」
「えーっと…ここで聞くべき事か分からないんですけど、この町にユウって用心棒がいるって聞いたんですけど…」
「はぁ…人探しでございますか?」
「あ、はい、ミタの町の町長の姪らしいんですけど…」
「ミタの町長様の…?」
まぁそりゃそういう反応になるよな。
やっぱり案内所で聞くようなこっちゃないか…。
大変だけど、この間みたいに町の人達に地道に聞き込みしてくしかないや。
「なんだにーちゃん、ユウの野郎を探してんのか?」
案内所の奥から現れたのは、身長2mはあろうかという巨体のおっさんだった。
「あ、はい、ミタの町長さんから紹介されて…」
「なんだよ兄貴の野郎、また何も言わずに事を進めやがって…」
「え…あの、兄貴って…?」
「俺はミタの町長、タグの弟のセグってもんだ。ワガマタへよく来たな」
「町長さんの弟…ってことは用心棒のユウってのは、セグさんの…」
「あぁ、俺の娘だ!」
これはラッキーだ。
まさかこんなにすぐに用心棒の女の親族に会えるなんて!
しかも父親とは…。
よし、これで一気に探す手間が省けそうだ。
「会っていきなりで申し訳ないんですけど、娘のユウさんって今何処に?」
「いや、今は分からねぇ」
これは予想外の返事が返ってきた。
「なんで? 親子で一緒には住んでないんですか?」
スーナは当然の疑問をセグさんに投げ掛けた。
「いや、つい最近まで一緒には住んでいたんだが…」
「なんかあったんですか?」
「その…娘が大事に取っておいたプリンを…食べちゃって…」
「…は?」
「それで家を出ちまったんだ」
…ちょっと何言ってるのか全く分からない。
俺の耳が可笑しいのか?
「…ごめんなさい、ちょっと聞き取れなかったかもしれないんで、もう一度言ってもらって良いですか?」
「いや、だから、娘のプリンを勝手に食べて、娘が怒って家出ちまったんだって! 何回も言わせるなよ、恥ずかしいだろうが」
「んなくだらないでケンカしてる時点で十分恥ずかしいだろーが!! とっとと謝って来いよ!」
「謝りたくても何処にいるか分からねぇんだよ」
「じゃああれだ、魔石使って一方的にでも謝罪の言葉を伝えればいいだろ?」
「今は魔石で声のブロックをされてるから、あいつに声が届かなくなってんだよ」
「プリン1つでどんだけ拒絶されてんだよ!」
「バカ野郎、プリンってのは高級菓子の1つにうたわれる食べ物だろーが!」
「プリンが…」
「あれは20年前の事だった…。異国の地からやって来た若い男は、この町にプリンがないと知ると大変に落胆した。ならばと、男自らがプリンを材料から作りと完成させた。その時、材料を恵んでくれた町の人達にもプリンを振る舞うと、たちまちその旨さの虜となった。以来、プリンはこの町の高級菓子となったというわけだ」
「すんげー勢いで喋ったな。要するにプリン1個で争いが起きるわけだ」
「そういうことだ。あまりにも危険な食べ物だ…」
「だったら、尚更勝手に食っちゃダメだろうが!」
「いや、プリンの魔力には敵わん…」
「はぁ…もういいや。いくら父親だろうが居場所が分からなきゃ仕方ないな。じゃあ俺達、これで失礼するんで」
「おぅ、ユウの野郎に会ったら、宜しく言っといてくれ」
「いや、自分で言えよ!」
「後、ユウはかなり目立つ奴だから、すぐに見つかると思うぞ! じゃあ気を付けてな!」
結局、情報は掴めたが、行方は分からずの状態だ。
「残念だったね、せっかくユウさんのお父さんに会えたのに…」
「ホントだよな~。結局、地道に探してくしかないか…」
「うん、船に乗って探せばきっと見つかるよ!」
「ははは、ホントにスーナは船に乗りたくて仕方ないんだな」
「だってぇ…乗ったこと一度もないんだもん…」
「分かった分かった、まぁどのみち船乗んないと移動も出来ないし、この町の地理も早く頭に入れなきゃだしな。船乗り場を探すか」
「うん、楽しみ♪」
船乗り場を探すべく、町の中を歩いていくと、早速それらしき物が見つかった。
「へぇー、思ったよりも小さいんだなぁ。水路が割りと細いからかな?」
「これ…誰もいないけど、勝手に乗って良いのかな?」
「いやー、流石に船頭位いるんじゃないか? 俺達だけじゃ漕ぎ方も分からないし…」
辺りを見渡して見ても、やはり誰もいない。
「うーん、ここは今日は休みなのかも知れないな。別の船着き場を探そう」
俺達はその船着き場を離れようとした時、遠くから何か人の声が聞こえてきた。
「…なんだこの声…」
正直、俺はトラブルに巻き込まれるのではないかという予感がしてならなかった。




