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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
3章 スーナの異世界生活
29/300

No.29 江ノ電、鎌倉行き

江ノ電、江の島駅に着いた。時間は11時過ぎ。おおよそ予定通りだ。

予想通り、ホームは電車待ちの人でいっぱいだ。


「すごいねー、人がいっぱい! みんな電車に乗るのかな?」


「まぁ並んでるからには、乗るんじゃないか? ホラ、江ノ電一日乗車パス。無くさないようにね」


「またそうやって私を子供扱いしてー!」


「だってこの間、PASMOを無くしそうになったんだろ?」


「レン君、なんで知ってるの!?」


「いや、ばあちゃんが…」


ばあちゃんが知ったら最後、全てが筒抜けになるのが我が家の暗黙の了解である。


「まぁ乗る時と降りる時以外使わないから、バッグん中しまっときな」


「了解!」


改札を抜けると、踏切を渡り、反対側のホームへ移動して列に並んだ。

すると、タイミング良く電車がやってきた。

毎度の恒例ながら、電車の乗車率がすごい事になっていた。外から見ても分かる程だった。


「こ、これに乗るの!? 大丈夫?」


「うんまぁ…なんとか乗れると思うけど…次の電車待って、そっち乗る?」


「ううん、大丈夫! 私、頑張る!」


「いや、そんなに無理する所でも…。まぁ次の電車までそこそこ待つし、これ乗るか」


電車がホームに到着し、扉が開いて降りる人が済むと、一斉にホームで待っていた人達が、電車に乗り込んだ。


「うぅ、相変わらずスゲェな…! スーナ、大丈夫か?」


「うー、なんとか…」


よく見ると、スーナがドア横の隅に追いやられ、見知らぬおっさんに押し潰されそうになっていた。


「スーナ…こっち…おいで!」


俺は半ば強引にスーナを引き寄せた。その拍子に、スーナがいなくなって出来た空間のせいで、おっさんが危うくズッコケそうになっていた。

悪気は無かったものの、おっさんには申し訳ない事をしてしまった。


「ふぅー、スーナ大丈夫だったか?」


「うん、大丈夫だよ! ありがとう♪」


こうして、どうにかこうにか乗車する事が出来た。

しかし、数分経って何やら周りからチラチラ見られているのに気が付いた。

何だろう、俺の顔になんかついてるか? いや、さっきトイレで鏡を見たけど、何も付いていなかったハズ…。

ただ、よく周りの目線を観察してみると、俺の顔より下の方に目線が集中している事に気付いた。

なんだ、みんな一体何を見ているんだ…?

不思議に思いながら自分も目線を下にやると、重大な事に気付いた。

さっきスーナをこちらに引き寄せる事に夢中になってしまったあまり、完全にスーナを左腕で抱きしめる様な状態になってしまっていた。

いや、白昼堂々電車の中でこの状態はマズイ!

焦って左腕をスーナから離そうとしたが、如何せん人が多過ぎて身動きが取れず、どうする事も出来ない。

しかもよく見ると、スーナの顔が俺の胸元に完全に埋もれてしまっていた。


「スーナ、大丈夫か? 息できてる?」


「大丈夫、心配しないで」


少し安心したのも束の間、更なる事態に気付いてしまった。

スーナが密着しているせいで、スーナの息がダイレクトで俺の胸元を直撃しているのである。

スーナが大丈夫でも、俺が完全にやばいです。どうにかなりそうです。助けてください。


腰越駅で人が降りたおかげで、若干スペースが空いたので、左腕をスーナから離し、事なきを得た。

満員電車とは違う別の疲れがドッと俺を襲った。

しかし、幸いな事に車両の右側に移動する事が出来た。俺はスーナに見せたかった景色があった。


「スーナ、こっち見てみ!」


「何々、レンく…」


車窓に目線を移した瞬間、スーナは言葉を失った。道路を挟んだ先には、日に照らされた海面が地平線まで広がっていた。

圧巻の景色に、俺まで言葉が出てこなかった。


「すっげぇな…、実際に見ると圧巻だな…」


「うん…すごい…。砂浜で見た時以上にお日様の光が海に反射して、眩しい位キラキラ輝いてて…」


やっと絞り出した言葉では、その圧倒的な景色を表現する事は出来なかった。

実は、事前にネットで調べて、腰越駅から稲村ケ崎駅の間から見える海の景色が絶景だという事を知っていた俺だったが、まさかここまでの絶景だとは思わなかった。


「やっぱり写真で見るのと、実物を見んのじゃ全然違うな」


「レン君も初めて見たの?」


「実物はね。前来たときは曇りだったし、車窓も良く見えなかったから」


「そっか、じゃあ今日は晴れて良かったね♪」


「そうだな、スーナにも見せる事が出来たしな」


「ありがとう! 一生の思い出だよ!」


「一生の思い出って。一生って結構長いと思うぞ」


「一生の思い出は一生の思い出だもん♪」


「じゃあ後で、一生の思い出がまた更新されるかもな」


「? それってどういう事?」


「なんでもないよー。さぁもうすぐ着くぞ」


電車は無事、終点の鎌倉駅に到着した。

俺達はさっきの景色を瞼に焼き付けたまま、鎌倉駅のホームを降りて行った。

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