誰にでもできるお気楽MPK初級編『スキルを使おう!』
『鋼の雄牛』チームは戦略変更を余技なくされた。
彼らの利点は圧倒的な人数差による戦力だ。それぞれ最低でもC級冒険者という、大陸最大規模のチームでもある。
チームを4パーティ十五隊に分け、二時間ごとに出撃する波状攻撃。
これが彼らが選んだ戦略だ。一カ所にまとまると範囲攻撃でやられ、遠くに離れすぎると各個撃破を受ける。
相手はゲリラ戦術しかできない以上、少人数行動は厳禁だ。
勝利条件達成のため、冒険者たちにはもう一つ指名が下された。ウリカ及び敵グループの誘拐だ。
そもそもこの娘の入手がこの戦いの勝利条件だ。自殺されないよう捕獲し、彼らに従うよう屈服させれば勝ちなのだ。
人質も有効活用できるだろう。卑怯ではない。この戦い、ロドニーが宣言したように迷惑行為は存在しないのだ。
あの城塞を占拠より、よほど楽な勝利条件だと判断した冒険者の士気が上がっていた。
先攻していた冒険者たちに悲鳴が聞こえてきた。
すぐに彼らの眼前に、それは現れた。
「うわぁぁぁ」
フロレスがオーガたちに追われていた。青い光に覆われているので敵だろう。
「たすけ……こふ」
小人がうつ伏せに倒れた。
残されたのは怒り狂ったオーガたちと呆然としている冒険者。
「な、なに?」
何が起きたか把握できない冒険者が呟いた。
オーガたちは怒りを冒険者にぶつけることにした。
「うわぁぁ!」
モンスターとの戦闘が始まった。
「きゃああ!」
ローブを着た女性冒険者が悲鳴を上げる。
倒れていたはずのフロレスが起き上がり、すたすたと歩いてきた。彼女の腹部に短剣を突き刺していた。
スキルが込められているのだろう、即死こそしなかったが、彼女は麻痺して動けなくなった。
「な!」
彼女は司祭だった。治癒士を殺されたことにより、彼らは絶望的な戦いを強いられる。
気付いたときにはフロレスはもういなかった。
動けない女司祭が頭からかじられていく。
絶望的な戦いが始まった。
別の冒険者たちもモンスターに襲われていた。
巨大な沢カニが襲いかかってきたのだ。
後ろにいるのはドワーフの少女。せわしなく鋼線を動かしている。ロジーネだ。
「どうでしょうか。私の【マリオネット】は」
巨大な鋏が冒険者の胴体をねじ切ろうとしている。
助け出そうとするべく、剣を使ってがんがん斬りかかっていた。
「こんな巨大蟹を操れるなんて化け物め!」
とてもではないが、彼らが倒せるレベルのモンスターではない。
「ひどいわ。では解放しますね。もとの場所へ【カエレ!】」
ロジーネはスキルを解いて、もとの場所へ帰還を促す。
ロジーネがスキルを解いたにも関わらず、冒険者たちは攻撃を続ける。
敵意が冒険者たちに移ってしまったのだ。
「あら。みなさまがお相手してくださるのね。さようなら」
ロジーネは優雅に挨拶し、去って行った。
残されたのは一人ずつカニに両断されていくしかない、哀れな冒険者だった。
後方にいた冒険者は、悲鳴を聞いても助けにいくことができなかった。
遠くから笛の音が聞こえてきた。
警戒していると、大量の狼、しかも【魔狼】が襲いかかってきた。
後ろにいるのは、笛を奏でていた美しいエルフの少女。
思わず確保しにいきたくなるが、狼が邪魔だった。エルゼに駆け寄ろうとし、【魔狼】に襲われる。
「まったく、自分の命より性欲ですか……」
エルゼはその光景をみて呆れた。
動物たちを操る呪曲で、ここまで狼を引っ張ってきたのだ。
「男は我慢強いほうが籠絡しがいがあるんですよ」
ぽつんと呟いて。
狼たちが倒れていく。
遠くでパスンという音が聞こえてきた。断続的に。
コンラートが姿を現した。
「遅いですよ、コンラートさん」
「お届け物は確保したぞ? 穴蔵からな」
コンラートは、冒険者たちに突進し、通り抜ける。
コンラートを追って、うなり声が聞こえてきた。
巨大な青い熊、ブルーベアだ。中ボス級の強さを持つ、恐ろしい熊だ。
コンラートはブルーベアに矢を射かける。冒険者たちのすぐ後ろで。
ブルーベアは怒り狂い、ダークエルフを追いかける。
彼らは冒険者たちをはさんで、ぐるぐると回るように追いかけっこをしていた。冒険者にとってとても邪魔だ。
「うへえ。すげえ邪魔だぞ! こいつ!」
「おいおい。危ねえ!」
あまりのウザさに悲鳴をあげる冒険者たち。
「あ!」
狼に斬りかかる全力の攻撃が、ブルーベアに当たってしまった。
後悔したときはもう遅い。
敵意は完全に冒険者たちに移ってしまった。
「誰か助けてくれ!」
絶叫した。
エルフとダークエルフは振り返りもせず、次はどのように殺すか相談しながら悠然とその場を立ち去った。
後方部隊がブルーベアと戦っている冒険者に加勢が入る。
三パーティでも強敵だ。狼もまだ二匹残っている。野生の共感だろうか、彼らは連携までしていた。
しかも戦闘中、治癒士二人が敵の弓で射殺されている。短期決戦に持ち込まないともう、持たない。
「ブルーベア、もうすぐ倒せるぞ!」
ブルーベアに四人倒された。
「苦戦しておられるようですな。【大回復】」
ヒールが飛んできた。
淡い光に包まれ、ブルーベアが全快した。
「あ。すみません。はずかしー!」
大司教のカミシロだった。
「では失礼します」
気恥ずかしさをごまかすように、カミシロが消えていった。
「待てやこら!」
「ふざけんなよ!」
冒険者の怒声が上がる。
気力体力ともに回復したブルーベアは舌なめずりをした。
冬眠中で彼は空腹だったのだ。
その後、満足いくまで食欲を満たすことに成功した。




