士気低下
またしても全滅。
『鋼の雄牛』のチームたちは、一同に集まっていた。
全員座らされている。
「相手は十数人。百八十人の冒険者がいて、何故制圧できないかなあ? お前らE級からやりなおせよ」
ロドニーが口汚く罵った。
「む、無理だ…… あれは一夜城だ。落とせやしない」
冒険者の一人がぽつんと言った。
「なんだと?」
「俺みたんだぜ。殺されたというべきか。あのなかに【巨匠】のイリーネがいた。一夜城のイリーネだ」
「確か、あの町の城塞を設計しているのがそいつだったな。そんな大物がこんな絶望的な戦いに参加するわけないだろう」
「いや、俺もみた!」
別の者が声をあげる。
「俺は鋼の糸で真っ二つにされちまった。あれはきっと、妹のロジーネだ。細工職人の【巨匠】までいる」
「あの竜殺しか」
ロドニーはロジーネも知っていた。15年以上前、暴れていた竜を不思議な技で倒したというマエストロだ。
「絶望的な戦いは俺たちのほうだ。ものすごい数の竜牙兵が復活水晶守っているんだぜ!」
「勝てっこないよ。あんたらも戦えよ! わかるから」
「夜はモンスターまで敵なんだぜ。どうなってんだよ! ここって例の禁足地じゃないか?」
「黙れ」
冷酷な声が響く。騒いでいた冒険者が黙った。
「百八十人いて、二十名にも満たない敵にこてんぱんにされ戦意喪失しました、っていうのか? メンツが欠片も保てねーぞ。冒険者できなくなってもいいのかてめーら」
「とはいっても」
「時間はたっぷりあるんだぞ? あいつらは何せ、勝利条件すら設定してないんだ」
「どうするんだ?」
「昼限定にして戦術を組み直す。パーティもこまめにわけてな。波状攻撃で行けばいいだろ。あいつらは基本籠城戦だ。各個撃破できる戦力はないからな」
「あんたたちも出ろよ」
命令ばかりして動かないロドニーに、皆の不満も爆発しそうだ。
「出るさ。お前らが腑抜けすぎるからな。まず夜のモンスターとやらだ。強さ次第では夜の進軍も再開する」
「わかってるのか。夜の櫓に立つだけで殺されるんだぞ」
「そこを含めて確認する。明け方まで使えない櫓なんぞ意味ないだろ。櫓で死んだ者はたまたまかもしれない」
「そこまでいうなら分かったよ。早くあの女と町を手に入れて終わらせてくれ」
「言われるまでも無い。お前らがしっかり働いたら苦労はしないんだ。相手の十倍の戦力だぞ?」
吐き捨てるように言う。
その日の夜、『鋼の雄牛』や、Aランク冒険者4チーム、出撃した。
一時間も経たないうちに、青い顔のAランクチームが次々と復活する。
彼らは青い顔でかぶりを振った。
最後に『鋼の雄牛』が復活した。
皆の視線が彼らに集まる。
「夜の出撃はなしだ!」
叫んだ。
歯を噛み鳴らし、震えが止まらない。
ドルフもまったくの無言だった。顔が青ざめている。
その日、ロドニーは部屋に引きこもり、二度と出てこなかった。
【タトルの城塞】では祝杯を挙げていた。
「いやー。まさか誰も一度も死なないとはねー」
「本当皆さん凄いですよ」
テテが酒を飲みながら言った。
「ポーラさん凄いな。全然追いつけなかった」
少し悔しそうなのはコンラートだ。範囲攻撃ではさすがに殺傷速度では負ける。
「淡々と確実にローブ系だけを射殺していたコンラートさんも凄いですよ」
間近で見ていたエルゼが断言する。
「ザルのようなルールに助けられてるだけよ。ウリカちゃんいるからMP大量にあるし。この城塞の壁が高いのも利点。魔法使いなんて弓矢数本で死ぬんだから」
「私はイリーネさんとばんばん斬り殺せたから!」
ユキネも満足そうにいった。
「あいつら飛龍狩りのための編成だから、魔法使い中心な上、戦争装備じゃ無いから柔らかいのよね」
イリーネが評している。
「俺はようやく、役に立てたかな」
ラルフが言った。
「何いってるんですか。あれだけの人数を一度に封殺しておいて。僕なんて後処理だけで済みましたよ」
テテが呆れたように言う。
「タイマン特化だからなー。さすがに一人一人片付けるのがやっとだな、こっちは」
「敵が竜人に化けないかなあ」
「私はこういうとき強いですよ!」
ジャンヌは鉄壁の守護で皆を守っていた。
「あのねー。ゴーレム君すごいの! もうバンバン倒しまくり!」
ロミーは無邪気だ。
「ゴーレムにスキルは本来ないはずなのに、妖精族と組み合わせてスキル発動させるとか、アーネストちゃんの祖霊まじやばい」
レクテナが呆れていた。
ミスリルゴーレムとロミーの組み合わせは祖霊の提案だったのだ。
「それになによ。あの竜の牙。おかしいよ、あなたたち」
「ああ。ちょっと前に古代の火竜討伐したからな。素材は全部確保してあった」
「古代の火竜一匹討伐とか簡単に言わないでよね!」
「【古代召喚】でやってきたモンスターだぞ? 新鮮な上に上物だ」
「何してんの……」
「こんな数の【竜牙兵】を一度に作れることに驚きです」
ウリカがいった。
【竜牙兵】宴会中は壁際で待機している。
「ゴーレム作ったりは魔力付与士の本業だからですね」
「戦闘中の眼鏡は?」
「教師モードです。ロジーネ作の伊達眼鏡です」
「なるほど……」
口調がまったく違う。落ち着いた物静かな先生モードとは眼鏡モードのことだったのだろう。
「私とレクテナが武器を作っています。これが完成すれば、アーニーの力となるでしょう」
ロジーネが言った。
「それは楽しみにしよう」
「はい。この『無銘』でなければ出来ない一品です。ご期待に添えるよう、頑張ります」
「アーニー様単体の戦力がどんどん恐ろしくなる」
エルゼが呟いた。
「もうちょっと人間の範疇でいてくださいね。最近甘え足りないです」
「甘えといわれても、困るが……」
「そうですね。エルゼはもっと構ってやって欲しいですね」
ウリカが助け船を出す。
「ウリカちゃんはいいよね。ウリカは俺の女、と町中で宣言だからなー」
ポーラが茶化すように言う。
ウリカは顔が赤くなって無言になった。
「あれぞ男の宣言ですね。僕はむしろしびれました」
その場にいたテテが褒め讃える。
「事実だと思うんですが、町中での宣言はどうでしょうか」
エルゼが真顔になった。
「マスターまたやっちゃったか」
ジャンヌも呆れた。
「俺、深夜の偵察にいこうかな」
女性陣の絡み酒の気配を感じた。
「マレックさんに出るなって言われたでしょ!」
「呼んだかな? やってるね」
「おかえり、マレック」
全力で彼の帰還を歓迎するアーニー。
「おかえりなさい!」
アーニーとウリカが出迎える。
「今日は早いな」
「バトルマスター君と邂逅してね。最初の挨拶は済ませて置いたよ。――会話はしてないが」
「淡々と処理か」
「そうとも。私が何者か教えてやる義理は無い。魔法を使うまでもなかった。歯を一本一本抜いてやって、股間を踏み潰し、両目をくり抜いて、手足もいだところで絶命した。貧弱だ。巨漢のほうは臓物えぐりとったぐらいで死んでしまった。まだポーラ殿の仕返しもし足りないのに」
「そりゃ残念。やりたりないだろう」
「わかってくれるのが君ぐらいなのが残念だよ。いや、理解者ができたと喜ぶべきか」
ドン引きしている他の者を、二人は気にしていない。
「アーニーさんとマレックが遠い場所にいる気がする」
「おう。この場所にこさせないように、俺とマレックは頑張っているんだ。遠い場所でいいんだよ」
「そうだな。さすがアーニー。いいことを言う」
「守られているなー。みんなに……」
ウリカがしみじみ言う。
「そういえばマレックさん! 【隕石落下】凄かったよ!」
「さすがポーラ殿。見事です。あの威力は並の術者ではそうそう出せまい」
「条件揃ったら凄いね、あれ」
ポーラとマレックは魔法談義に入っていった。
「私の出番は明日からですね」
おっちゃんがうずうずしているようだ。
「私の祖霊が楽しみで震えてましたが」
「ごめんな、俺の祖霊が非常識で」
「いえいえ。こんな戦いもあるのかと」
にっこり笑う。
「私も明日からがんばります! テテさん、サポートお願いしますね」
エルゼも同じく、気合いを入れた。
「任せてください」
「俺は遊撃兵だな。なんだろう。こんなに好き勝手やらせてもらっていいのか、と言いたいぐらいだ」
「どんどんやってくれ」
「ああ!」
ストイックな印象を受ける、このダークエルフの青年もすっかり彼らに馴染んできた。
「敵の動きは明日から複雑になって読みにくくなる。ようやく本番だ。敵が怖じ気いてないといいがな」
「本当に」
恐怖を撒き散らしていたラルフが相づちを打って、ニックが咳き込む。
暖かな笑いが【タトルの城塞】を包んでいた。




