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夜のとばり

 日が沈み、【タトルの城塞】では宴が始まっていた。

 警備に出ている者はいない。


「みんな。今日はお疲れ様。ゆっくり休んでくれ。朝は早いからな」

「私たち戦争中なのに、宴会してていいんですか?」

 エルゼが料理の準備をしながら聞いてくる。


「敵が夜襲に来るぞ、間違いなく」

「何か手は?」

『「俺は打っていない」』

「祖霊様?」

 アーニーに祖霊が降臨していた。


『「みんな。休んでくれ。そして言いつけは守ってくれ。夜の森にはでない、と」』

「理由を聞いてもいいんだろうか?」

 ユキナが恐る恐る聞いてくる。


『「もちろん。夜は彼の時間だ」』

「あ!」

 ウリカが叫ぶ。


『「今回のことで、最も激怒している一人は間違いなく彼だ。俺たちももちろん許せないが、彼とて暴れたいときはあるだろ?」』

「マレックさん!」

 ポーラも納得した。彼女の腹部の傷を一番気にしたのも彼だった。

 歯噛みして鬼のような形相を浮かべていた。傷を綺麗に治したカミシロを抱きしめた程だ。


『「領地を簒奪しようとし、ウリカを襲おうとし、ポーラを殺そうとした。あいつらは馬鹿だよ。吸血鬼公から全てを奪うと宣言、実力行使に踏み切った。未遂ですらない」』

「考えたくないですねえ、そんなこと」

 テテが震えた。領主の力はよくしっている。


「相談されてましたよね」

『「お願いしただけだ。【要塞戦】最中に、町にいる生きる者、砦にいる者すべてを出さないで欲しい。あとは――お任せするってね。どこの誰がどれだけ暴れようが、知ったことでは無いと」』

「祖霊様…… 吸血鬼公に赦しをあたえたのですね」

 ウリカがおそるおそる言った。


『「さて。俺はこういっただけだ。森や森の近場で不用意にうろつく者がいてどんな末路になっても俺はマレックを支持する、と」』

「人の赦しを得た吸血鬼は、その行動範囲を広げることができる。今のマレックは【要塞戦】の最中ではその力を銛のなかでも最大限に使えます」

 ウリカが皆に説明した。


「夜は私たちの味方なのです。よく食べよくおしゃべりし、よく寝て明日に備えましょう!」

 彼女は叔父に絶大な信頼を置いている。彼の時間を破れる者など、いるはずがないのだ。


「これほど心強い味方はない」

 ユキナがぼそっといった。


「確かに。必ず休める時間がある。これはとても大きなことだ」

 ラルフも感心していた。


『「夜の(とばり)。奴らに破ることができるかな」』

 アーニーは嬉しそうに笑った。

 それはアーニーの笑みか、祖霊の笑みか――





 森の中で、冒険者たちは侵攻を開始した。

 闇夜の奇襲だ。敵は人数が少ない以上、見張りにも限界はある。


 先頭の集団が音もなく、死んだ。首が刎ねられたのだ。

 殺戮者はとても美しい青年であったが、彼らが認識することはなかったであろう。


 別の集団からも悲鳴が上がっていた。


「助けてくれ! 【デュラハン】がいる!」

 その後、悲鳴に変わった。


 別の場所でも悲鳴が上がる。

「ぎゃあ! 【死の騎士】だ! 【死の騎士】がいる!」

 悲鳴もすぐに途絶える


「【アンデットホース】が! 誰か! 」

 あちこちで悲鳴があがり、すぐに途絶える。


「こっちは【シャドウウルフ】だ! ひぃ!」


 城塞の外に出た者は等しく殺戮された。

 恐ろしいことに、モンスター達は明白な殺意を持って彼らを殺しにきていた。


 殺意だけで戦意を失いそうになった者もいる。


 そして死に戻ったところで、話を信じようとしないロドニーに激怒される。


 学ばなかった愚かな冒険者は殺され続けた。

 なんども出撃を行い、そのたびに殺される。


 要領の良い者は、砦の外にでた瞬間、外壁にへばりついていた。

 届いてくる悲鳴に、耳を塞ぎながら。


 そして与えられる軽減なしのデスペナルティ。

 

 神経とレベルをすり減らしながら、彼らは朝まで自ら虐殺され続けた。


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