初戦は一網打尽
一夜にして出来た【タトルの城塞】に、『無銘』のメンバーは集まっていた。
今日の正午ちょうどに、決戦が開始する。期間は一ヶ月。
「祖霊がいうには、この用意した台座に、と」
大きな室内にぽつんと台座がある。
そこに魔方陣を置くと、光り輝き、発光を発する水晶のような物体が現れた。
「この復活水晶は破壊できない。ここが復活ポイントになる。『無銘』のメンバーである限り、どんな死因だろうがここで復活する。連中はこの場所の制圧を狙うだろう」
「破壊できないのがミソね」
レクテナが言う。
「あいつらはそれを知っていた。まだ神々もルール構築中だったんだろうな」
「つまり、我らは勝利条件を提示していない以上、通常の勝利として【城塞戦】の終了する手段を持たないということですな」
「ウリカか町を差し出せば敗北条件だけは達成できるけどな。あり得ない選択だ」
ウリカをみながらアーニーは断言した。
「はい。死力を尽くして戦います」
「その意気だ。相手に殺されるか自害もありだ。ここで復活するからな」
アーニーは淡々と言った。
そういう戦いなのだ。
「この城塞の防御付与も終わったわ。鋼より堅く火に強い。大森林の祝福と付与の相乗効果ね。あのとき以上、いや、比較できないほど堅牢な城塞よ」
レクテナが言っているのは亜人解放戦争の一夜城だ。
「状況全然違うにしても、僕たちもレベルは上がっている。アーネスト君なんてSSRだ。彼らが可哀想――でもないか」
「ないね!」
ポーラが断言する。
「そろそろ時間かな」
『――【城塞戦】を開始します』
彼らの頭のなかに声が響く。
薄い青いオーラに包まれた。
「俺たちが青、連中が赤か。間違えなくていいな」
「夜に紛れなくなります」
ダークエルフのコンラートが不満げだ。
「夜は基本籠城だ。理由は夕方説明する」
「わかりました」
「敵は精鋭で数も多い。こちらの人数も知らせてある。多分平野経由で進軍、制圧の短期決戦で来ると踏んでいる」
「こっちの内訳も知らずにね」
「そういうこと。では初日の城塞戦行くとするか。俺が平野を。テテとコンラートは森の偵察を頼む。あとは城塞に待機、防衛だ」
「了解!」
三人が偵察に出かけた。緒戦がスタートしたのだ。
アーニーは森沿いの平原を走っていた。1ターン4回行動を移動に全振りだ。この地上で一番脚の早い一人に間違いない。
遠目で進軍する集団を見つけ、脚を止める。
数は180人程度。高レベル帯は温存しているのだろう。普通考えれば彼らの出る幕では無い。
こちらは20名もいないのだ。迂回する必要もない。城塞について包囲し、攻め落とす。それだけだ。
向こうは【タトルの城塞】を、幻影か何かと侮っている可能性もある。
アーニーは城塞に舞い戻った。
城塞に帰還後、木製の城壁に、ポーラとアーニーとウリカが立っていた。
「じゃーん! レクテナ先生に借りたんだ!」
「おまえ! それ!」
「すっごい! 初めて見た」
ポーラの手には虹色に輝く魔法の杖が握られていた。
魔法の杖で、かつ+20といわれる虹色の輝き。
伝説の【達人】のみがなすことができる究極の武器――ではなく。単に頭がおかしいと言えるほどの過剰魔力付与中毒者の成果物だ。
「奇跡の一品、究極の過剰魔力付与された、魔法の杖でーす!」
「範囲攻撃で一網打尽は余裕か?」
「半減は確実にできそうね。ウリカちゃん、サポートお願いね」
「はい! 【超新星】ですか?」
「新技! マレックさんに教わった【隕石落下】だよ! あれは射程が一番長いしね! もう射程範囲だよ」
日夜マレックと魔法談義しているポーラは、古代帝国の魔法をいくつか教わっていた。
「まだ敵の軍勢、豆粒ぐらいの大きさなんだけど」
「普通はこんな大規模破壊魔法使えないんだけどなー」
「戦争や集団闘争レベルでの対人相手へは禁止されているな。建物ならいいらしいが…… 神々の法で。そもそも禁止なら発動しない。抜け穴で発動してもなんらかの警告、ペナルティが降り注ぐ」
「なんで禁止されてないのかな?」
「これは【戦争】じゃないんだ。あくまで【城塞戦】。まだルールが完全に施工されていないんだろうな。敵もなんでもありって言ってたしな」
ザルなルールだ。本来ならこんな形で実装するべきではない。
「祖霊様って【仕様】を重んじながら、仕様の抜け穴を探しているよね」
「あれはそういう性格だ。じゃあ、ポーラ。頼んだ」
「祝別も用意してるからね! 資金はマレックさん全持ちらしいよ。あの人には頭が上がらない」
「マレックはポーラに頭が上がらないだろうさ」
「嬉しいね! ――エーテルの海に浮かぶ、岩石よ。我が声にこたえよ――」
ポーラが呪文の詠唱を開始する。
ウリカがMP回復を開始する。本来なら人間の手に余るレベルの呪文なのだ。
使いこなすことができるのは、S級冒険者の実力を持つポーラ故。
「【隕石落下】」
呪文が唱え終わった。
しばらくして、進軍する集団の頭上が目映く光った。火球といわれる現象だ。
その直後、轟音とともに、きのこ雲が発生した。
激しい発光。耳を押しつぶす轟音。そして世界を吹き飛ばすかのような爆風。
「つかまれ!」
ウリカとポーラを支え、アーニーが踏みとどまる。
ようやく視界が回復した。
巨大なクレーターが、そこにあった。
「あれ? 全滅?」
「全滅というより蒸発だな。隕石が追突する前に爆発していた。ほら、かろうじて死体が残ってる連中……原型とどめてないな。お、消えていく。復元水晶行きか」
「何が起きたかわからず死んだんじゃ……」
「一つわかったこと。――もうフルパワーで使わない」
ポーラは自分が行ったことに恐怖した。
クレーターは彼女がみたこともない大きさだった。
『鋼の雄牛』たちが占拠している城塞。
復活水晶がある部屋で次々に冒険者が転送された。
その場にいた人間はその多さに驚いたものだが、次第に数は膨れ上がり、人間が積み重なっていく。
可哀想なことに、ローブ職の魔法使いや治癒士は、金属鎧の冒険者が積み重なり、そのまま圧死して、再び復活して上に積み重ねられていく。
圧死は通常デスペナルティだ。敵の攻撃ではないのだから。
「何が起きた!」
別室でくつろいでいたロドニーが叫んだ。
「申し訳ございません。全滅です!」
「どういうことだ? なんだあれは」
復活水晶の部屋はあっという間にいっぱいになった。山が崩れ、圧死しそうなものが続出している。
出口近くの人間がでようにも、積み重なった人間の重みで出ることができない。非常にグロテスクな光景だ。
外にいたものが、一人ずつ必死に抜いて助け出す。
「我ら進軍した者一同、一撃でやられまして」
「そんな馬鹿な話があるか。180人の冒険者を、一撃でか」
「事実です。その結果があの復活ポイントでの同時復活です」
復活水晶の中から絶え間なく苦痛と悲鳴が響いてくる。
「どんな魔法を使えば、そんなことが可能になる?」
「天空が一瞬光ったと思うと、我らは焼かれるような痛みとともに死んでおりました」
「まさか…… 【隕石落下】?」
女魔術師のヘスターが呟く。
「あんなの使える人、ほとんどいないはず」
「使えたとしても使用禁止だろう! あれは!」
【隕石落下】は使用禁止リスト筆頭に、常にあがっている。
どんな堅牢の城でも、不意打ちで落ちる。戦争にならないのだ。
平時では発動しないはずである。
「ちょっと待って。祖霊に確認する。――【城塞戦】は大規模破壊禁止魔法の制限、ないみたいよ。【戦争】じゃないからね」
「なんだと! いや、今はなんでもありか」
「【城塞戦】なんて始めたの、私たちが最初か二番目だもの。前例で問題になっていない以上、禁止もされないわ。使える奴がいないっていったほうがいいけど」
「俺たちも使っていいのか?」
戦術的には同じ手が使える以上、使わない手はない。
「私だって無理よ。【隕石落下】なんて。向こうは、異次元レベルにいる魔術師がいるってことね」
「ちきしょう!」
「【城塞戦】で良かったのか悪かったのか、わからないわ。【隕石落下】が使える以上、禁止されていない魔法でも十分瞬殺可能でしょうよ。誰なのかしら?」
ヘクターは魔術師らしく被害にあった冒険者たちより、何者が行使したか気になっていた。
彼女とて特A級冒険者だ。有名な魔術師はだいたい把握しているつもりだった。
【隕石落下】を行使できるとなると、ごく一部。冒険者ではいるかいないかレベルだ。
そんな魔法が使えたら、各国の争奪戦になるに決まっている。人間兵器だ。
「くそ。まあいい。平原は悪手ということか。ならば夜襲だ。それまでに軍勢を再準備だ」
ロドニーが冷静さを欠いているようだ。
周りの冒険者たちが怯えるように次の作戦の指示を仰いでいた。




